第四十一話「灼熱の戦場にようこそ!」
さてー、こっそり準備を始めよう。
私は夜、片付けが終わった後の酒場に来ていた。
「お疲れの所、申し訳ありません」
「いや、珍しい食材なんだろ?どうせなら一番旨い料理にしてやりたいしね」
ご主人は笑顔でそう言ってくれる。
「それで、その計画なんですが‥‥‥」
ダグラスさんに尋ねた所、クロフォードから、明日父が従者に兄を伴ってグリムに訪れるらしい。
まあ、護衛とか普通はつくのだが、うちは居ないので二人で馬に乗ってくると思われる。
なので、日時は明日の夕食。
人数は、救援部隊の冒険者さんを含め四十人にダグラスさんと父と兄で‥‥‥うん、そのくらいかな。
人数的には大丈夫そうなので、泊まっている宿のご主人に相談して、酒場を貸し切る事にした。
そもそも、宿自体がすでに貸し切り状態で、普段のご飯もここで食べてるしね。
基本的にはパーティー料理を作って貰うのだが、例のアレを出してあげたいんだよね。
そう、ツインランサードレイクだ。お肉はギマ単位(この世界の重さの単位1ギマ=約1トン、1ギリ=1キロ、1ギナ=1グラム)であるので、一人辺り500ギナとしても余裕だろう。
あ、伯爵ご一家にも10ギリくらいお裾分けしておこうね。流石に酒場に呼べないし。
「そんな訳で、これがそのお肉です」
私は台の上にドレイクの肉を一塊出す。
お肉は淡い赤色で、高級牛肉っぽいと思うんだけど、味はどうかなあ‥‥と料理人のご主人と相談。
ちょっと味見に炙ってみる事に。
口に入れると。じゅわっと濃厚だが甘くジューシーな肉汁たっぷり、柔らかくも食べ応えもあり。これは、ステーキで食べたい!もう語彙が少なくてごめんなさいという感じです。ツインランサードレイク‥‥‥恐ろしい子っ!
「こ、これは‥‥‥いい肉だ。これだけの物なら、変にソースなどを足すよりは岩塩で、そのものの味を楽しみたい所だね」
「異議無しです!」
ドレイク肉に魅了された私とご主人は、これをメインにメニューを組みたてる。
「まず、人数が多いので‥‥」
「それならば、コースで無く‥‥」
その日、夜の調理場から、怪しい声が響いてたとかいないとか。
「なんですの、これ?」
「見ての通り、本日の夜の救援部隊お疲れ様慰労会のお知らせです!」
翌朝、朝食に降りてきた私達。酒場の入り口には、大きく『ノルディン救援部隊お疲れ様慰労会の為、本日夕刻より貸し切り』と書かれた紙が貼ってある。
「そろそろ、部隊も解散になるしね。打ち上げしたいなーと思って、ご主人に頼みました」
「へぇー、カトレアちゃんが企画してくれたんだ。美味しい物期待しちゃうわよ?」
「はい、勿論です!皆さん参加して下さいね!」
ケイトリンさんがやって来て、ハードルを上げてくれるけど、フフフ、こちらには秘密兵器があるのだよ。文字通り、喰らうがいい!
先に朝食を食べている冒険者さん達も「楽しみにしてるよ」と声を上げる。
私達の分のバゲットとハムエッグを持ってきてくれたご主人と目が合い、二人でニヤリとしてしまった。
準備の為に、お昼の炊き出しは休ませて貰う。
今日は、酒場が私の戦場だ!
ドレイク肉のブロックを出して、どんどん厚切りにスライス。これは食べ応え抜群ね。
そしたら軽く塩胡椒。これは焼く直前にやらないとダメ。事前にやっておくと水分が出るので。
あと、筋切りしたり、玉葱とかに浸けて柔らかくーなんて言うけど、良いお肉というのは繊維が細かいので不用。叩くなんてもっての他なので、高級肉の扱いは注意する事!
鉄板を少し煙がでてくるまで熱して油を軽く引く。
お肉を美味しく焼くコツなんていうのは、単純明快。美味しい肉汁を逃さないようにする事と、お肉の中の温度を適温にする事だ。
焼き加減の好みは人それぞれだけど、今回は人数も多いので、試食した感じ一番美味しいと私とご主人の意見が一致したミディアムで焼いていく。
そっと熱した鉄板にお肉を乗せたら、片面を強火で三十秒、弱火で二分、裏返して強火で三十秒、弱火で二~三分。仕上げに赤ワインを少々振りかけて肉汁が染みてきたら焼き上がり。蓋付きの器で三分くらい休ませる。直ぐに切ると旨味成分が流れ出してしまうから注意ね。
休ませたら《空間収納》に入れておけば、おっけー。大人数の会食で全員焼き立てを味わって貰うのだ。
さあ、どんどん焼くぞー!
お昼の営業を挟み、ドレイクステーキを焼き上げた私は、サイドメニューに取り掛かる。ご主人も昼の部が終われば、こちらに参戦だ。
まず、サラダ系はポテトサラダに、葉物野菜のミモザサラダ、カボチャと人参をピーラーで削ったリボンのサラダ。
主食系には、じゃが芋のキッシュ、海鮮たっぷりのパエリア、パスタを何種類か欲しいかな。
それから、トマトとチーズのカプレーゼ、チーズフォンデュも外せないね。気軽に摘まめるブルスケッタ。ステーキもあるけど、お肉料理で鶏のワイン煮込に、ローストビーフに‥‥‥。
この際なので、王都で仕入れた食材も開放して、いっぱい作る!
あとはデザートはカップケーキとベリーのエッグタルト、シャルちゃんが好きだし焼きプリン。
よし、このくらいで勘弁してあげよう!
「ちょっと張り切り過ぎた気もしますね」
「ソウデスネ」
時間いっぱい掛けて作れるだけ作りましたよ。
‥‥‥燃え尽きたぜ、まっ白によぉ。
お読み下さりありがとうございますm(_ _)m