第四十話「言ってみたい台詞がありました」
どーしてこうなった。
うん、異世界転生したら言ってみたい台詞と思ってはいたたけどさー。
領主邸に連れて行かれて、パーティーでもやるような広間に案内されたかと思ったら、偉そうな方々に囲まれてこれである。
「お二人は、この度の救援物資の為に、危険な魔物を狩り、その資金を捻出したばかりか、自らが部隊に志願し、昼夜問わず封鎖された街道の復旧作業の先頭に立ちこれを成し遂げた。泥にまみれてもなお、グリムの為に先に進まんとする姿に皆が鼓舞された事であろう。我々はこの度‥‥‥」
なんか色々言われてます。確かに、魔物の解体で貰った金貨は提供した。復旧作業も頑張ったけど、あくまで作業員その一くらいだったと思うんだけどなあ。
隣でシャルちゃんも固まってますね。
「聞けば、クロフォード領には新たなダンジョンが生まれるという。グリムは友人として、これを支援し共に発展を‥‥‥」
会場を見ると、グリム領の偉い方々に混じって、オスカーさんの姿があった。
ああ、これオスカーさん───いや、ダグラスさんの差金かー!グリムに貢献した事で、クロフォード領の開発資金を援助してもらおうという話なんじゃないかな?でないと魔物を討伐して資金をなんて話は出てこない筈だ。
あの時の顔は、私はそこまで企んでないけど、勝手にやっちゃいましょうっていう事だったのだ。
いや、有り難いです。どうせクロフォード家に開発資金なんてないから、何処かから借りないといけないだろうねと思ってたし。商業ギルドでも当てを探していたんだろう。
ご令嬢が頑張ってるんだ、皆で復興頑張ろうみたいな話は、住民受けも良いと、グリム伯爵もこれに乗った‥‥‥‥その結果。
「よって、カトレア・クロフォード男爵令嬢、並びにシャロッティ・エスト男爵令嬢に、グリム領主として〈グリムの救済者〉の名とグリム紅綬褒章を与える!」
そこで前回のアレに戻る訳です。
「慎んでお受け致します」
要らないとは言えません。
ありがたく、葡萄を意匠化したグリム家の紋章の入った赤色の褒章を頂きました。
この後、復旧作業真っ只中という事でささやかではあるが立食パーティーが開かれた。流石に冒険者姿はアレなので、準正装くらいのドレスをお借りしたんだけど、シャルちゃんは良いとしても、私なんかは、ピアノの発表会に着飾った女の子くらいに見えたんじゃないかなー。美味しそうなオードブルとかあったけど、挨拶ばかり忙しく、あまり食べれませんでした。
ただ、チートなスキルが褒められるより(まあ、《空間収納》とか無かったらここには至らないんだけど)私達がグリム領の人達の為に頑張った事が評価されたのは嬉しかった。
そう言えば、これってアレじゃないか。私の男爵令嬢としてのポイントアップだよね?これで少しは縁談とか増える可能性があるのでは!?
ちなみに、ラインハウト伯爵は新婚ほやほやの二十二歳で、ご兄弟は十七と十四の妹君がお二人いらっしゃいます。(どちらも婚約者あり)
うん、グリム家の方には縁が無さそう。
そんなイベントがあったけど、十日程が過ぎ、復旧作業も落ち着いてきた。片付けが終われば、私達に出来る事はない。再開発とかは本職の土木工事を請け負う方々がしっかりした物を作るので、素人のその場凌ぎの作業は必要ないからね。
ここで、ダグラスさんがグリムにやって来た。
ノルディンの方も落ち着いて、今回建築などを手掛ける商会と一緒にここまで来たそうだ。
「ダグラスさん、褒章の件、ノルディン伯爵とか怒ってないですよねー?」
本来、救援物資はノルディンから出てるのだから、感謝されるのは、私ではない筈だよね。
「何、初回の物資がカトレアさんの寄付から出たと いうだけの話です」
「成る程、あの後そういう処理をしたんですね」
良い笑顔のダグラスさんに、私は肩を竦めた。
「ともかく、ありがとうございます。クロフォード領の開発もグリムの資産が入れば、冒険者の受入れ準備が出来ますよね」
「ええ、今日はその為の商談に来ましてね。クロフォードでするつもりでしたが、グリム伯も交えて相談できる方が面倒が少なくて済みそうです」
ああ、そう言う話を父とする予定で馬車でクロフォードに向かっていたんだよね。
あ‥‥って事は、父もグリムに来るのか。一月の王都旅行が、そろそろ二月になりそうだし、久しぶりだなぁ。
思えば、クロフォード領を出て色々あった。
たくさんの人達と出会ったし、美味しい物を食べたり、ダンジョンにも潜ったし、シャルちゃんやアーク達とPTを組む事になった。帰りは順調とは言えない騒ぎになっちゃったけど、兵士さんや他の冒険者の方とも仲良くなれたと思うし、クロフォード領の開発もなんとかなりそう。良い結果になった。
でも、そろそろグリムともお別れで、クロフォードはもうすぐだ。シャルちゃん以外とは、お別れになるし、流石に大人数は無理だけど、内々でパーティーとかしたいかなー。例のアレも食べてみたいよね?
お読み下さりありがとうございますm(_ _)m