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第三十八話「アサヒナ湖周辺にて。」


しばらくしてダグラスさんがやって来た。


すべての物資を収納で賄ってしまった事に、ダグラスさんを驚かせたが、直ぐに「それでは買い付けに回す馬車を増やして‥‥」と次の調整を考えているようだ。流石、商人さん。


「冒険者ギルドの方はどうですか?」

「とりあえず、向こうは街道整備の人員は直ぐにでも出せるそうだ。こちらの積み込みが終わればという事だったが、出発出来そうですね」

「はい、大丈夫です」

「では、よろしくお願いします」



私達は馬車に乗り、グリムへ向かう。

結局、救援物資の部隊は四人ですんだので、馬車もそのまま使い、元のメンバーからダグラスさんが抜け、パウロ氏とケイトリンさんが加わる形になった。


冒険者ギルドからは別の馬車で、総勢三十名程が同行し、一陣の軍の天幕で休ませて頂きながら、二日。

ようやくアサヒナ湖の近くに作られた中継拠点までたどり着く。


「うわー、すっかり景色が変わっちゃってますね」


前回通った時は、湖畔のキャンプ場を思わせたんだけど、辺りは濁った泥沼に様変わりしている。


天候は回復傾向だったが、湖は予想通りに氾濫し、軍の調査によると、街道は広範囲が沼地のようになっているそうだ。地形的には、湖周辺は盆地で、グリム領都は山の中腹にある為、この近辺さえ抜ければ、街道も通れはする筈だ。



まず水との戦いだ。シャルちゃんやガットさん達は、《水魔法》スキルを使える人達と水の流入を防ぐべく、土塁を作り、排水作業に向かった。


そして、街道跡の再建。

これに当たるのは、軍も含めた有志の《土魔法》使い。私もこれに参加する。


「地面を隆起させて、道路を、形成‥‥と」


大変な作業だった。


魔力というのは最大値が多くても、一度に使える量は、人にもよるが、そう多くはない。

ラノベの主人公の中には土木魔法で一気に道路や建物を作り上げるような作品もあったが、この世界の魔法はパターン化した魔法をただ「使う」だけではないので、頑張っても一回数メルクしか道は作れなかった。

ふぃーーー。こんなのを、あと数メルローも続けないといけないのかと思うと疲れてくるね。


‥‥と、そんな時に後ろから声を掛けられた。


「嬢ちゃん、それじゃいつまでたっても進まないぜ。ちょっと見本って奴を見せてやる」


大きく息を吐く私に声を掛けてきたのは、領軍の兵士さんだった。三十代前半くらいの男性で、この人も《土魔法》スキルを持っているが、言うほどの使い手では無さそうなんだけどなー。


こういう現場では、貴族のお嬢様なんてのは好かれない。実際、道中でも私のような子供が遊びにでも来てるつもりか?みたいな視線は感じた。

これでも、本気で助けたい、そう思ってるんだけどな。

この人もその類なのか、私を脇に退けると、《土魔法》スキルを発動させる。


兵士さんが、手をかざし集中し、ハッと声を上げて魔法を構成する。

土が隆起し────ただそれだけが数十メルク続いている。これでは道とは言えない‥‥そう言おうと思ったが、そこに私達《土魔法》持ちではない兵士さんや冒険者がやって来て、平らに均して行く。


「何も町中の道路を整備するんじゃないんだ。通れさえできればいい。俺達スキル持ちのやる事は、これだけでいいんだよ」


そして、ニカッと笑顔で言う。

この人も私を遊び気分で来た貴族かと思ってるのかと疑ったのを、心の中で謝った。


街道整備‥‥なんて思ってたけど、そうだ。高速走行でも安全に走れる日本の道路を作る必要なんか無くて、全部をスキルでやる必要も、一人でやる必要すらもないんだ。

多少凸凹で、馬車が揺れて乗り心地が悪くても、通過出来さえすれば、今はいい。皆で協力して、少しでも早く、困っている人の所にたどり着くのが優先。

それが今必要な事だったのだ。


「ありがとうございます。勘違いをしてました」

「おう、頑張ってくれ」


私は素直に頭を下げお礼を言った。

色々恥ずかしいな、私。

兵士さんは笑顔で応えると、先に向かった。


うん、領軍の兵士さんは、敵じゃない。グリム救援の為に来た同じ仲間だ。ちゃんと認めて貰えるように頑張ろう。


チートスキルで無双だー、なんて言っても、この程度だね。まだまだ私には経験が足りない。そう思わせる出来事だった。



《土魔法》スキル持ちの数は多くはなく、昼夜を通し、交代で魔力回復の休憩を入れながら復旧作業は進んだ。私も深夜だろうが回復すれば参加する。

シャルちゃんも泥だらけになりながら頑張っているようで、天幕に戻ったら、疲れて《生活魔法》を使う前に、汚れた顔のまま寝入っている姿を見掛けた。


ようやく湖周辺に出来た沼地を抜けたのは、到着から二日後の朝だった。


「皆、あと一息だよ!頑張ろう!」

「おーーー!!」


私の声に、皆で歓声を上げた。


その頃には、冒険者も領軍の兵士も打ち解け、最初は貴族のお嬢様が何を~なんて人もいたようだけど、私やシャルちゃんも一員として認めて貰えるようになっていた。


グリム領都まで───あと少し。

お読み下さりありがとうございますm(_ _)m

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