第三十六話「ゲリラ豪雨とお嬢様の矜持。」
装備については、とりあえず角と骨は取っておく事にした。ぶっちゃけ私にはあまり必要ではないんだけど、今の所、《剣魔法》で戦うスタイルという事になっているので。
今は本来はサブだけど《竜魔法》使ってるから、一目気にしないでいいなら武器は要らないしなー。
まあ、防具も同様なので、その内考えよう。その時に材料がないじゃ困るからね。
ジェストさんにお礼を言って、受け付けに戻る。
結局残りのお肉と骨と角は売らないので、他の部分と、タイラントボアなどの分を合わせて金貨八百枚程になった。というか殆どがツインランサードレイクの分なんだけど。
日本円換算だと四千万。十才が稼ぐ額ジャナイナー。でも、あれが高級和牛だとすると、安いくらいかもね。だって大きさが違うもん。お肉いっぱい取れるよー。
これはお小遣いではなく、今回の旅費を出してくれた分として父に返すつもり。町の開発資金に充ててもらえば宿の一軒くらいは建ってくれるかな?この世界、いくらで建つか解らないけど。
たくさんの金貨の山に驚くシャルちゃん。でも君が実家で狩っていた危険度4の魔物もちゃんと持ち帰って、適切な解体すれば、結構高かったと思うよ?
そんな時だった。
「大変だ、グリムの町が‥‥!!」
ずぶ濡れになってギルドに入って来たのは、役所の職員さん。グリムから都市通信が来て、各ギルドやノルディン伯爵に伝達に走っているらしい。
都市通信というのは、各都市に置かれた連絡用の通信魔法装置なのだが、到達距離が短い問題があって、遠い町まで連絡を取りたい場合は、隣町に連絡して回して貰う、連絡網みたいなシステムだ。
それによると、こちらは然程ではないが、グリム山地は大雨に見舞われ、川の氾濫が起こっているらしい。救援の要請と、定期便や旅人にグリムへは通行止めを知らせるように、というものだった。
グリムの領都はまだ無事なようだけど、豪雨はまだ続いているらしく、崖崩れなどの恐れがあり、周辺の村には避難指示が出たそうだ。
とりあえず、私とシャルちゃんは宿に戻る事に。
まずはオスカーさんに知らせて、どうするか決めないとね。
前世でも水害のニュースは毎年恒例だったけど、治水対策が万全ではない今世では酷い事になっているかもしれない。
前世はお金と時間があればやれるだろうけど、この世界は人の領域外までは管理できないのだ。
あの葡萄畑に囲まれた風景と町を思い出し、胸が詰まった。
「‥‥ええ、私達も話は聞きました」
宿の酒場には全員が集まっていて、私達がギルドで聞いたことを話すと、ダグラスさんが首肯く。
ダグラスさんは私達が冒険者ギルドに向かった後、オスカーさんと商業ギルドに行っていたようだ。ダグラスさんはギルドの幹部の方だそうで、今回の事態に上司の顔に戻っているようだ。
詳しい被害の情報は入ってきていないそうだけど、道中のアサヒナ湖は過去にも溢れて、周囲の街道が使えなくなった事があり、領都にたどり着けない可能性が高いだろうとの事。
グリムへの道が寸断されている状況では、クロフォードまで帰れない。安全を考えると一番は、ノルディンで街道が通れるようになるまで待つ事だろうけど。
「そうですね、ここで待っていれば費用は嵩みますが、その内には復旧するでしょう。長期間になるなら、一度王都に戻るという選択もありますが」
そう言ってダグラスさんは私を見る。
うん、何か出来るならしなくては。
私は‥‥私達は、一応と言ってもいいくらいだが、これでも貴族で男爵令嬢だ。有事の際に何もしない訳にはいかないでしょー。普段自由にさせて貰っている分の責任を果す、それがノブレスオブ‥‥‥なんちゃらって奴よ!
────どうしますか?
そう問うダグラスさんの視線に、私とシャルちゃんは首肯いて答えた。
「民の為、やれる事を、最大限に」
「困ってる人に手を。困っていなかったら耳を」
「「クロフォード家(エスト家)家訓です(わ)」」
「良いでしょう。ノルディン伯爵とギルド組合から救援物資を持った部隊が編成される予定です。カトレアさんとオスカー君は《収納》持ちだ、有効に活用したい。そちらに手を貸して欲しい」
「はい」
「分かりました」
私とオスカーさんが首肯く。
「シャルロッティさんとガット殿ミハエル殿は、冒険者ギルドで復旧の為の部隊が出ると思う、そちらに加わって頂く」
「了解ですわ」
「おう、こっちは任せな」
「夜営以外じゃ大して活躍できねぇしな、給金分は働かせて貰うさ」
フフンと良い笑顔のシャルちゃんと、武器を握るガットさん、ミハエルさん。頼もしいです。
「私はおそらく物資の調整等に追われると思いますので、現場に出れないと思いますが、よろしくお願いします」
こうして私達は、グリム救援部隊に加わる事になった。
雨は止んでいない。被害はまだまだ大きくなる予感がした。
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