第二話「スキル説明回は必要ですかー?」
私がそんな前世と女神様との会話を思い出したのは、五歳になった頃だった。
不意に入ってくる大量の情報に混乱したけど、私がカトレア・クロフォードである事は変わらなかった。
別人になった訳ではなく、気分的には高校デビューでオタ少女から、クラスのカースト上位に転身した感じだろうか。
まあ、貴族令嬢とは言っても、辺境の貧乏暮らしだから上位ではなく、第三勢力くらいか。
前世の私は死んだ、もういない!これから、カトレア・クロフォードとして生きていく!
思い出した過去の記憶に耽っていても仕方ない。あれを確かめなくてはいけない。
「すていたす、おーぷうん」
恐る恐る、五歳児の割りに成長は遅い舌足らずな口調だったが、目の前にウインドウが現れた。
◼カトレア・クロフォード(5さい)
クロフォード男爵令嬢
◼スキル
《空間収納》
◼称号
《喪女》
少なっ!これだけか!もっと色々情報があるかと思ってたよ。
レベルとか力とか素早さのステータスはないのかな?
ふむ、‥‥これは、「レベルを上げて物理で殴る」というお約束が出来ないパターン?
『力』とかが無い訳ではないが、レベルアップという謎現象で成長し、包丁で刺されても傷付かないとかいう不思議が無い世界なのだろう。
この辺りは要検証かな。隠しパラメータかもしれないしね。
そしてスキル。五歳まで生きてきて新しいものは習得はしていないようだ。
《空間収納》と書かれた場所をタップしてみると、詳しい説明が表示された。
◼《空間収納》
生物以外の手を触れた物を亜空間に収納できる。内部は状態固定。
おお、安心の状態固定だね。食べ物が痛んだり、熱い物はアツアツで保存できるヤツ。収納量はよく分からないけど、これも検証かなぁ。
中身は何も入ってない。残念!
そして問題の称号なのだが。
◼《喪女》
異性と接する事無く、孤高に生きた女性に贈られる称号。生前の生き様を継承できるが、恋愛フラグにデメリットがある。
称号スキル:《一人でできるもん》
やりやがったよ、あの女神。恋愛フラグにデメリットって、さては私だけリア充にはさせないとか思ってるんじゃないか?!出会いとか期待出来なさそうだよ、どうするよ、これ。
食パンとかお握りくわえて走ってもダメなヤツだよ、きっと。
そして謎のスキルがあるんだけど‥‥。
◼《一人でできるもん》
魂の継承により、『一人機動要塞』を再現。
《全周囲防御》《竜魔法》
ええー、『一人機動要塞』ってMMORPGの二つ名じゃないですかー。魔法系と盾騎士系を極め、鉄壁のガードと殲滅力を鍛え、ソロで戦場を蹂躙する様に付けられたそれを再現て。
で、《全周囲防御》と《竜魔法》が使えると。流石にゲームをそのままは無いようで使えるスキルは二つだけみたいだけど。
《全周囲防御》は一定時間全ての攻撃を防ぎ、《竜魔法》は身体の一部を竜に変化出来るスキルのようだ。
えー、これってチートスキルじゃないのかなぁ。称号に付属するからノーカウントとか?
とりあえず、何か強そうな魔法と防御があれば生きていく糧になってくれるだろう。
それから五年。
領地は相変わらずに、他国からは干渉されずに平和が続いている。
私は父や兄からこの世界の常識、武器の使い方、《生活魔法》を学び、スキルの検証を重ねた。
スキルにもレベルというものが無い。検証の結果、スキル習得というのは、スマホやPCにアプリをインストールした感じ?使用者権限を得るという意味で、アイコンをポチれば使えるものではなく、使い方を覚えて、応用を模索しなくては『使える』とは言えない。
《竜魔法》の説明も具体的な魔法は書かれていなかったが、所謂イメージをしっかり持つ事で『魔法』として発動するようだ。
例えば《火魔法》で定番の『火球』も、実際に『火球』という形がある訳でなく、他人が使えば実は中身は全く別物であるようだ。(燃料にガスを使っているかガソリンなのかみたいな感じ?)
魔方陣とかが見えたりしないので想像だけど、よくあるプログラムみたいに魔法を構築する世界とはまた違う、古典文学の魔法に近い気がした。
五年の間での成長は、《生活魔法》と《剣魔法》。
快適な暮らしのために、お馴染みの《生活魔法》は必須よね。汚れを浄化したり、水を出したりする地味ながらも、電化製品が溢れる世界を知る私にはとても便利。これも使い方次第で戦力になるのは、ラノベ好きなら想像出来る。
《剣魔法》は剣と名前が付いているが、何にでも使える付与魔法だ。《竜魔法》が名前からしてヤバそうだったので、普段使いが出来る攻撃手段を模索した結果だ。
若干趣味に走ってるが、纏った炎を飛ばして遠距離も対応出来るので悪くない。防御は《全周囲防御》さんで完璧だしさ。
思わず「私の拳が真っ赤に燃える!」とか素手に使ってみで結構な火傷したのは内緒です。
ちなみ、《竜魔法》は手に竜の爪を生やしてみたり、背中に翼を出したり、口からブレスを吐いたり出来る。
調べてみたが、家にある魔法関係の本には《竜魔法》についての記述は見当たらなかった。それとなくギルドでも聞いてみたが、知ってる人はいなくて、ホイホイ使うと不味そうだ。
やっぱりチートスキルじゃないか。
まあ、とにかく頑張ってみた。
何より、うちの食事事情改善のために!
父は剣よりペンで戦う文官気質だし、兄はそれなりだが、狩りより釣り師を目指してそう。
箱入り娘系の母には流石に無理だ。
そんな訳で、二年ほど前にようやくギルドに登録出来るようになって、今ではお肉担当をやってます。
回想が長くなってしまったが、今日は私の十歳の誕生日。この世界で十歳は特別な意味を持っているのだ。
お読み下さり、ありがとうございますm(__)m