第二十八話「ダンジョン探索講習会二日目③」
「はー、おいしかった。まさかダンジョンで屋台の出来立てが食べられるなんて」
「ユースも充分凄いけど、流石カトレアさん、収納も規格外ですね‥‥‥」
「いや、それヤバくないですか?聞いた事ないですよ、そんな収納」
三人組も満足そうで良かった良かった。
「聞いた話では、結構コレ持ってる人いそうでしたけどね。やっぱり隠してたかなー?」
転生者特典で「もれなく」って言ってたし。
まあ、状態保存はヤバいよね。現代日本でも冷凍やチルドの技術が進んで、山奥でも美味しいお刺身とか食べられるけど、その比じゃない。
「カトレアさん、是非うちのPTに」
かしっと私の手を握るカンナさん。大変嬉しいですけど、小鬼殺しの称号はいらないです。そんな切実そうにウルウルしないで下さい。
「ダメですわ!カトレアさんは、わたくしとクロフォードのダンジョン攻略をするんですから!」
カンナさんに対抗してか、シャルちゃんがしがみついて来る。
「昨日、教授も言ってたけど、「出来る予兆」ってどういう事なんですか?」
「『洗礼の儀』で啓示があったんです。そして、近隣を探したら、それらしい場所が見つかって、今受け入れ準備で大変な事になってると思います」
まだ旅に出て二週間経ってないけど、帰ったら驚きそうだね。なんと言う事でしょう、あの何もなかった寂しい町が~みたいな。
「神造ダンジョンですか‥‥興味はありますね」
「レア物貰えるダンジョンだと人気有りそうだしな。行ってみるのも悪くないか」
ふむ、と思案気なアークとユース。お、脈ありですかー?
ゆっくり休憩をとって、いざ出発。
途中、追加でゴブリン五体と遭遇したけど問題なく、合流地点に到着できた。
予定の時間より、ちょっと早めくらいだったが、一組は遅れているらしく、しばらく待機。
後は帰るだけだし、講習会もやっと終わりだー、と皆の緊張も緩んでいたのだが。
もう一組はなかなか来ない。時間には結構余裕があった筈───私達もゆっくり休憩してたしね───もしかしたら何かあったのだろうかと、気になり出した頃。
────ゴゴゴゴ。
再びダンジョンの〈成長〉音が鳴る。
えー、やっぱりこれフラグじゃない?
「何かヤバくない?」
ダンジョンの〈成長〉は、そう頻繁にある訳ではないのに、少なくとも今日二回目。
予定時間になっても姿を見せないPT。
シシリーは不安そうな声に誰も答えられなかった。
そうして一時間くらいが過ぎた頃。
ようやく、最後の一組がやって来た。
誰もが安堵の溜息を吐くが。
「出口に向かう通路が塞がっている‥‥‥?」
〈紅蓮花〉の三人が集まっていたが、昨日の講習のお兄さん───セドリックが出した声に。辺りはざわついた。
もう一組は、おそらく一回目の〈成長〉の時に先に進む通路が塞がれ、引き返す事になったらしい。
しかし、最初の分岐の部屋に戻ると、出口のある方向の通路も塞がっていた、
急ぎ私達のPTが通った通路を走り、なんとか合流地点にたどり着いたらしい。
「ダンジョンの変化で完全に閉じ込められたというケースはない。どこか通路があるとは思うがな」
〈紅蓮花〉のもう一人、リーダーのグレンさんが呟くが、低階層の変化という珍しい事例だけに断言は出来なさそう。
先に書いたが、ダンジョンは人を集めリソースを獲得していると思われ、どんなに複雑な迷宮でも出入口が存在しない物はないが、一時的に塞がっている可能性だってある。
「とりあえず、手分けをして確認が必要だな。こっちの組で二階まで行ってみる。セドリックの組は、通った通路を。そっちはまだ確認できてない。カンナの組は、一階の最奥を頼む」
グレンさんの指示で、私達は奥を目指す事になった。この先は二手に分かれていて、片方は二階への階段に、もう片方は最奥と呼ばれる場所に繋がっているそうだ。
最奥は各階層でも違うが、ここではゴブリンのちょっとだけ強い上位種がいる。まあ、ゲームでいうと倒さなくても先に進める中ボス的な存在だろう。
「ちゃんと出られる‥‥よね?」
「単純にたまたま、珍しい事例に当たっただけと思いたいですけどね‥‥」
稀に階層が増えた事で、大規模な造りが変わる事もあるので、その例ではないか。
不安は尽きないが、私達は奥に進んだ。
出来れば面倒な事には首を突っ込みたくないしねー。魔王復活で魔族の暗躍とかさ、そういうのに巻き込まれる主人公とか有りがちだけど、スローライフとは言わないが、気ままなグルメ旅行くらいがいいんですけどー。
最奥までの道程には変化はなかったとカンナさん。結構ゴブリンと遭遇戦はあったけど、このメンバーでは多少数が多くても問題ない。
最奥にいたのはゴブリンファイター。強いと言っても危険度は変わらず1。装備は良くなったというだけのゴブリンなので、苦戦もせずに倒した。
ドロップが銀貨五枚と、普通のより良かったけど相場なのかなー?このくらいなら二十も倒せば結構稼げるから、このダンジョンも悪くないか。
で、結局最奥は変化なし、私達は分岐点に引き返す事になった。
お読み下さりありがとうございますm(_ _)m