第十九話「駆け出し冒険者はつらいよ」
カトレア視点ではありません。
「よお、シシリー。その様子だと良い依頼なかったみたいだな」
王都の宿兼酒場〈ロザリア〉の酒場。昼前の時間だというのに、一人の少女はテーブルにだらりと身体を預け黄昏ていた。赤毛の髪を後ろでまとめたポニーテール、革背のジャケット。脇に長い弓が立て掛けてある。
「ああ、ユース君かぁ。ちょっと遅くなったら銅ランクは全滅だったよぉ。今月ピンチなのにぃ~」
「そいつは御愁傷様だったな。あ、蜂蜜酒と定食お願いします」
やってきた少年は、カウンターの店主に告げ、少女のテーブルにつく。こちらは灰色のローブ姿。青色の髪でまだ幼さも残る顔立ち。
「そっちはどーなのよおー」
「カレルナまで配達。さっき戻って来た所だよ」
「ユース君はいいよ、《収納》なんてレアスキルじゃん。あたしはこれと言って取り柄ないしなぁ」
「そんな事もないだろう?」
普段は元気が取り柄の少女────シシリーだが、今日は重傷なようで、少年───ユースは、どうしたものかと思案した。
「そー言えば、カレルナって大丈夫だった?盗賊が出たって聞いたけど」
「ああ、あれね。討伐隊が出る前に北海街道に移動したらしくて、向こうは平気だった」
───カラン。
入り口の扉の鐘が鳴り、もう一人、少年が入ってくる。少年は店内を見渡し、二人の所に。
三人目は金髪。青色のローブは上等なもので、扉を締める仕草にも品を感じられる。
「や、シシリーもいたのかい」
「あ、アーク!なんか久しぶり?」
三人は駆け出しの銅ランク冒険者だ。常にPTを組んでいる訳ではないが、討伐依頼などで一緒になる中で知り合った仲だ。
「待たせたね、今日の日替わりは炒飯だよ。アーク君もいらっしゃい」
「あー、炒飯良いなぁ‥‥‥ううう」
「シシリーはどうしたんだい?」
店主が運んできた大盛の炒飯とスープの定食に、目を輝かせるシシリー。くぅっと可愛い音がした。
「絶賛お財布と相談中なんだよ‥‥」
「そっか。おじさん、僕も定食でお願いします」
「あー、ずるいー」
裏切り者ーと、にらむシシリーに、アークは仕方なく。「‥‥二人分で」と折れた。
「やった!アークありがとー!」
「その代わり、午後は採集に付き合ってもらうよ」
ギルドの通常依頼はランクで分けられている。基本的に自分のランクの物しか受けられず、同じPTならPT内の者のランクの依頼を受けられる。
これは下の者が無理な依頼を受けないようにするのと、上の者が下の依頼を取ってしまわないようにする為だ。
それ以外に常時依頼というものがある。薬草採集や食材の魔物討伐があり、こちらは歩合制で割りに合わない事も多いが、常にあるのでついでに採集をしてくる者が多い依頼だ。
「薬草採集、苦手なんだけどなー」
「まあまあ。でも盗賊居なくなって良かったよ。採集依頼も森とかに行くからね」
アークはテーブルに着いて、そう言うが。
「あれ、北海街道に移動したんじゃないのか?」
「そっちで討伐されたらしい。そう言えば、その事で変な噂があってさ」
ユースは蜂蜜酒に口をつけ眉をひそめる。
「なんかアジトから逃げ出した盗賊がいたらしいんだけど、それは竜のお姫様が倒しちゃったんだって」
「なんだ、それ」
「翼と尻尾が生えてる女の子。捕まった盗賊が言ってたそうなんだけど」
「昔読んだ、お伽噺辺りに出てくる、人の姿で現れる竜にそういうのがいたけど本物?」
「さあ?僕が見た訳じゃないし」
そんな話をしていると、店主が二人の分の炒飯を運んでくる。
「うん、やっぱり昼はここの日替わりだなー」
「この量も嬉しいよな」
王都の飲食店は多いが、ロザリアは値段は普通だが、味と量で勝負だと店主。
この三人のような駆け出しの食欲旺盛な少年少女に人気がある。
「そう言えば、今度の講習会出てみないか?」
大盛炒飯を、あっという間に食べ終えたユースは、蜂蜜酒の残りを名残惜しそうに飲みながら二人に聞いてみた。
「ダンジョン探索だっけ?私は弓だからあんまり向いてないと思うんだけど‥‥」
「通常依頼は取り合いだし、ダンジョン潜るのはアリかなと思ったんだけど」
「そうだよねー。おかげでピンチだし?」
ユースとは言うものの対照的に、ゆっくりと味わうアークは手を止めて考え込んだ。
「僕ら三人だと、前衛が出来る人は欲しいか」
ユースは《火魔法》、アークは《水魔法》が主体で、シシリーは弓使い。狭いダンジョンでは、防御面で不安があった。
「まー、そこは置いといて、とりあえず講習会出ないと入れないし?」
「それもそうだね。常設依頼くらいしかないから時間はあるしね」
受ける流れになって、ふとシシリーが思い立つ。
「講習料いくらだっけ‥‥?」
「銀貨十枚」
「ここの日替わりでも悩んでいるのにー」
ロザリアの定食は銀貨二枚。五食分は大きい。
「それは、これから稼ぎましょうね?」
「‥‥‥はーい」
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