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第一話「女神さまはポンコツがデフォ」


遡る事、十年前。

前世の私は極普通の商社で働くアラサーだった。

仕事は資料を作ったりコピーを取ったりと、雑用が多かった。不満が無い訳ではないけど、他の仕事だって毎日同じことの繰り返しだと思えば、我慢できた。


少しずつ貯金も出来たし、インドア派なので休みの日は読書かネトゲやっていれば楽しめた。

あるMMORPGでは二つ名で呼ばれるくらいに、やり込んだものだ。

問題は二十代半ばになる頃から、親に彼氏は居ないのかと帰省する度に言われるようになったくらいか。


これでも小さい頃はお婆ちゃんに「可愛い可愛い」とお菓子を貰ったくらいには、可愛いはずなのだが、ついに彼氏なんて出来た試しがないのだ。

まあ、リアルのチャラい感じの男子とか苦手だし、話が合いそうなタイプは生活力無さそうな、ネトゲ廃人とかになっちゃいそうだし。


でも、彼氏を連れて来たらお赤飯よと期待する母親と、こっそり「どこの馬の骨か分からないようなヤツに娘はやれん!」とか台詞を練習しつつ、出来れば家の仕事を継いでくれる男がいいと言っていた父親には、終にその期待には応えられなかったな‥‥。


そんな私が、有給休暇を消化しなくてはいけなくて、某アニメの聖地巡礼だーなどと思ったのが運の尽き。

南の島を目指して飛び立った飛行機が謎の爆発、墜落した、らしい。


「‥‥‥という訳で、転生ってヤツをしてみませんか?」


らしい、というのは直前の事はよく覚えていないからだ。えーと、確か外の雲海眺めて「ラ○ュタは本当にあったんだ」とか馬鹿な事を考えてたら、突然翼が吹き飛んだんだっけ?なんか、どこかから光った何かが飛んできたような気がするんだけど‥‥‥‥んー、まあ良いか。


そっかー、死んじゃったかー。


そして、お約束ぽく、気が付けば白っぽくてフワフワした浮遊感のある場所にいて、なんかセクシー系のお姉さまっぽいアルテイシアと名乗る女神様が転生をおすすめしてきたりしている。


「それは所謂、異世界転生ってヤツですか」

「そう、人生で死ぬ時にやってみたいランキングの三十位くらいには必ず入る、あれです!」


どこのランキングですか、それ。


「ちなみに、二十九位は「俺、この戦争が終わったら田舎に戻って彼女と結婚するんだ」というフラグを立ててから‥‥」

「いや、それはもういいです」


私が台詞を遮ると「せっかく頑張って調べたのに‥」と拗ねてしまった。

自分で調べたんかいっ。



ともかく、私は死んでしまい、噂の異世界転生が出来るらしい。前世に未練がなくもないが、異世界というのはラノベ好きなら興味あるよね。


「転生って誰でも出来るんですかね?」

「貴女は特別ですよー。私、貴女の生き様に凄く共感しまして、これはただ死なせてはいけないと思いまして」


生き様ってなんだろう?そんな「我が生涯に一辺の悔いなし」みたいな生き方はしてないと思うけど。


「この仕事、結構面倒なの。知ってる?世界が崩壊する歪みっていうのは、実は毎日出来ているのよ。それを修正したりで、残業続き」


女神様、溜息を吐く。

日本人はのほほんと暮らしているけど、実は毎日数回は自衛隊がスクランブルやってるとかみたいな感じだろうか。

お疲れ様です。


「名目上は存在する有給休暇は貯まる一方!温泉行ったり、美味しいスイーツ食べ歩きとかしたくても、そんな暇も無く、疲れて家に戻って缶ビールとコンビニのお弁当が唯一の楽しみになってるに気が付くの」

「ほとんどブラックな会社じゃないですか‥」


神様のイメージとしては、終始暇をもて余して、つい下界に手を出しちゃったりするんだけど、そうでも無いらしい。


「出会いも無く淋しく仕事、仕事、仕事!たまに親に会えば、お前いい加減結婚しないととか言われるは、さっさと男捕まえて引退した女神(元同僚)はマウント取ってくるし‥‥‥」


なんだか女神様の目が死んできた。

あー、うん、なんとなく分かったわ、私が転生者に選ばれた理由。


「まあ、それはともかく。転生特典としまして、便利スキル《空間収納(ストレージ)》がもれなく付きます。生物以外ならどんな大きさでも入ってしまう、最強スキルです!」


[スキル《空間収納(ストレージ)》を取得しました]


おお、システムメッセージ(笑)

インベントリはコレクターとしてはアイテム制覇したいからRPGには必須よね。狩りまくった魔物を買い取りカウンターにドサドサするのとか、やってみたい。


「本当は他にもスキルとかあげたいんだけど、近年は自重しない転生者が多くてチートなスキルは禁止されてるのよ」


えー、病気知らずな健康な身体とか、不老不死とか、魔法の真髄とか、無しですかー。

これは定番の知識チートで無双な方向かなあ。

く、ちゃんと転生した時のために、味噌と醤油の作り方とか、車の構造とか、原子力発電とか覚えておけば良かったー!


「ああ、でも一般の人よりスキルの取得には補正値が付くから、その分有利よ」

「それは有り難いですね」


某名作RPGで技を閃くのにリセットしまくったのが懐かしい。ああいう苦労が軽減されるのは安心材料だね。


「大体こんな所だけど、あとは向こうでステータスを開いてもらえば確認できたりするので、頑張って下さいね」

「はい、ありがとうございます」


私は頭を下げた。あっさり死んでしまったようだけど、この記憶のまま、もう一度人生を生きられる。

うん、後悔の無いように、今度は恋愛とかも頑張ろう。生き遅れとか言われないために!


「では、最後に、貴女に祝福を。次の人生楽しんで下さいね」


女神様の言葉。私の身体を光りが包み込む。

すうっと浮かび上がり、頭上に開かれた光の渦に向かって昇っていく。


よし、異世界に出発だ!


にこやかに手を振って見送る女神様が、不意ににやりと笑った時。


[称号《喪女》を取得しました]


‥‥‥え、なんか不穏な称号付いたんだけど!?

謀ったな、アルテイシア!


お読み頂きありがとうございますm(__)m

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