第十八話「別れの夜は」
盗賊団の件が片付き、出発。
時間を取られてしまったが、森の中ほどにある休憩所に夕暮れになって、何とか到着する。
ここもちゃんとしっかりとした小屋があるし、すぐ近くに綺麗な泉もあった。
昨日と同じく、イザークさんが警戒に、アネットさんとオスカーさんで小屋の掃除と就寝の準備に。
さて。この旅も明日で最後。
今日は何かご馳走と言えるものが作りたい。《空間収納》を確認して、良かった、お豆腐としらたき、まだあった。これなら、日本でご馳走と言えば、多分上位に入るあれが!
とりあえず、いつものご飯を炊いて‥‥と。
前世の家は一応は首都圏だったので、関東風。
まずは、割下をつくります。
お醤油、味醂、お酒は1:1:1。それにザラメが0.3くらいの割合で。先ずはお酒と味醂を強火で煮立たせてアルコールを飛ばし、一端鍋を外してお醤油とザラメを入れたら、中火に調整。ザラメが溶けたら完成。
それから材料の準備。牛肉ー、長ネギ、玉葱、お豆腐、しらたき。きのこ類も欲しいけど、どこかで菌床栽培とかしてないのかなぁ。
煮るのは食べながらだから、切るのと、しらたきのアク抜きを。
それにしても、すっかり私が食事係になっちゃったね。好きでやってるんだけど。
これも女子力アップの為にー。
さて、そんなこんなで、ご飯も炊けたし。そろそろかなー、と鍋を温め始めて。
牛脂を引いて、熱が通り難い玉葱を、それから長ネギを焼くいて取り出しておく。美味しく作る一手間だね。煮るだけでは出ない香ばしさが出てくれる。
「あら、今日はお鍋?」
「はい、スキヤキです!」
「良いですね。‥‥‥これは、カントウ風ですか」
アネットさんとオスカーさんが戻って来た。
それにしても、カントウ風とかまで異世界で広まっているのか。料理無双は出来ないけれど、同じような食材が手に入るのは有り難いねー。
「戻ったぞ。問題は無さそうだ」
「おかえりなさい、お疲れ様です」
イザークさんも帰ってきた所で、早速始めますか。
まずはお肉!焼きすぎないように、赤身が残るくらいで、割下を加えて。
「みんな、溶き卵は大丈夫かな?」
結構苦手な人もいるんだよね。三人共大丈夫なようで、各自器に割ってもらう。
「よし、いいかな。最初は他の具材を入れる前の、そのままのお肉から~」
みんなで鍋に手を伸ばし、溶き卵に浸けて、柔らかいお肉を堪能する。
「ンー、美味しい!」
焼き肉でも食べたけど、ノルディン産のリブロース、とろける美味しさー。
それから、割下を加えて、お豆腐、しらたき、玉葱、長ネギを入れて煮込みます。
「明日はゆっくりという訳にはいかないですし、今日はいっぱい食べてくださいね。お肉も追加いっちゃいますよー!」
うん、明日で最後。旅も終わりだ。
翌朝、また早めに起きて、朝食とお昼の準備。
本当に最後だ。いつか機会はあるかもだけど。
朝食はパンケーキに、ベーコンエッグ、とサラダ。
お昼は鳥肉、人参、筍なんかで炊き込みご飯のおにぎりに。
‥‥‥ちょっと頑張りました。
お昼の休憩を取ってしばらく、ようやく森を抜けると王都が見えた。
城壁に囲まれ、中央は小高い丘。そこに白亜のお城が建っている。海側は港で、大小何艘もの船が停泊しているのが見えた。
王国同じ名前、アーシェン。
ついにここまで来たんだ。
門ではきちんと検査があったがギルドの印章で、すんなり通れた。他の国々とは一部の貿易くらいしかないし、そこまで出入りに厳しくないようだ。
大きな建物が建ち並び、通りは人でいっぱいだ。竜人や耳族などの姿も多く、まさに王道ファンタジーな光景が広がっていた。
守備隊の詰所は門のすぐ近くで、私達が訪ねると、昨日の隊長さんが出てきてくれた。
少し裏事情なんかも聞けたけど、盗賊団は他の国から流れて来たそうだ。一応、まだ残党がいるかもという事で注意するよう言われて、褒賞金を貰って、ここを後にした。
用事が終わってしまい、その時が来てしまった。
「名残り惜しいですが、お別れですね」
「そうね。カトレアちゃん、王都観光とか連れて行ってあげたかったんだけど、ごめんね」
アネットさん達は直ぐに別のお仕事が入っているそうで、このまま更に南に向かうそうだ。
オスカーさんは商人ギルドに。
ここでお別れだ。
うん、分かっていた。最初に会った時から、ここでお別れなのは。
少しずつ仲良くなって、ご飯を食べて、一緒に観光もした。短い間だったけど大切な人になっていた。
オスカーさんは帰りの馬車も、もしかしたら彼が務めるかもと言っていたし、アネットさん、イザークさんは冒険者でギルドで会う事もあるだろう。
でも、お別れだ。
「みなさん、ありがとうございました」
涙が出てしまい、頭を深く下げて隠す。
不意にアネットさんに抱きしめられる。
「本当は、このまま私達のPTに入って欲しいけど、カトレアちゃんはやる事あるよね」
それは、私もちょっとだけ思った事。二人と冒険できたらいいな、と。でも。
「嬉しいんだけど、私はまだ〈鉄〉ですから。でも、きっと追い付きます!」
「ああ、お前なら大丈夫だ。」
「はい!」
「それでは、またどこかで会えるのを楽しみにしています」
「またね、カトレアちゃん」
「─────また、旨い飯でも食わしてくれ」
旅は出会いと別れだ。
今度会う時には、ちゃんと成長した姿を見せられるように。私は私の目標を目指して─────。
お読み下さりありがとうございますm(_ _)m