第十五話「眠れない夜は」
その日の夜は浜辺に近い休憩所をお借りした。
王都近郊になると、休憩所もしっかりした物で、木造の小さな小屋もある、海の家っぽい造り。
夏じゃないけど、海の家と言えば、伸びたラーメンとか、焼そばとか‥‥‥ぐ、前世でも子供の頃に家族で行ったくらいなのでイメージがー。
結局カレーを作る事にした。
いつも通り‥‥カレーだしご飯はちょっと硬めに水を減らして炊き、その間にルーを作る。
野外でキャンプの定番メニューなのでカレー粉はちゃんと用意してありますとも。
昨日は牛焼き肉だったし、時間は掛けたくないから、今回はお手軽スープカレーを作ります。材料は、ベーコン、じゃが芋、ブロッコリー。トマトも入るといいんだけど手持ちが無いので省略。
じゃが芋を先に片栗粉をまぶして炒めフライドポテトっぽくしちゃう。残りのベーコンとブロッコリーを投入して、水を加え、いつもお世話になってるチキンスープとカレー粉。後は煮るだけ簡単レシピだ。
前世だったら、じゃが芋は冷凍のフライドポテトとか使って、耐熱のボールに全部入れて電子レンジでチンするだけという手抜きレシピです。
「もうちょっとで出来ますよー」
少し離れて街道の方を警戒していたイザークさん、小屋の掃除をしていたアネットさんとオスカーさんを呼んで、ちょっと味見。塩胡椒で調整して完成~。
木皿によそって、いざ実食。
「ん、お手軽にしてはいいお味」
「カレーって食べる時はごく普通のものばかりなんですよね、何となく」
オスカーさんが苦笑しながら言うけど、良く分かる。一周回って普通のが良いんだよね。
「‥‥‥大丈夫?」
「ああ‥‥。うん、今日も美味い」
イザークさんは浮かない顔をしていたが、アネットさんに言われ、思い出した風にスプーンを手に取っていた。
盗賊の話のあとからなので、アネットさんの様子も合わせ何かあったんだろうなぁと思うけど。
立ち入った事は聞けず、今日の夕食は静かだった。
相変わらずに夜番はさせてもらっていない。ただ、心配であまり眠れず、浅い眠りを繰り返す。
まだ日が昇る前に起きた私は、そっと小屋を出た。
早朝の冷たい外気に身が震えるが、小屋の前の焚き火の横で、静かに剣を磨く影に声を掛けた。
「おはようございます」
「もう起きたのか、まだ休んでいて大丈夫だぞ」
「今日は何かあるかもしれないでしょう?お昼の分も簡単に取れる物を作っておこうと思いまして」
この先、王都近郊に広がっている森を抜ける事になる。盗賊が身を潜めている可能性は高い。
勿論、南海街道からこちらには来ていないかもしれないけど、やれる事はしておくべきだ。
焚き火から火をもらい竃でご飯を炊く。
お昼用には、おにぎりだ。すぐに食べれて腹持ちもいい。具材用に竃をもう一つ追加。とりあえず鮭といいたいが鱒っぽい魚を塩焼きに。
ノルディンで買った鰹節とチーズの変わり種、ネギ味噌、シンプルに塩握り、今あるものではこれくらいかな。
ぱちぱちと焚き火がはぜる音。
「私は、大丈夫ですから」
「‥‥‥何か聞いたのか?」
具材を準備しながら、不意に私がそう言うと、イザークさんは顔をあげる。
「いえ、何も。ただ盗賊関係っていうと、何となくは想像出来ますから」
襲われたのか、誰か大切な人が亡くなったりしたのではないか。
それは、‥‥‥私に似ているのかもしれない。そう感じた。
「駆出しの頃、俺たちは盗賊団討伐に加わった。その時に‥‥な」
「そうですか」
少しだけ話してくれたイザークさん。きっと忘れられない事で、あまり触れられたく無い話だと思う。
だから、少しだけ、秘密を話そう。
「イザークさん、ちょっと剣を貸して貰えます?」
「‥‥いいが、どうするんだ?」
イザークさんの隣に足を伸ばして座った私は、その剣で自分の足を切りつけた。
「おいッッツ!」
イザークさんは驚き声を上げるが、《全周囲防御》によって剣は弾かれ、勿論平気。
「これが私のスキルの一つです。ツインランサードレイクの攻撃だって平気ですよ?」
「驚いた‥‥‥平気でもそういう事はやめてくれ」
私みたいな女の子が、危険な亜竜を倒しているのに、どうやってなんて聞かなかったよね。知りたいとは思っただろうけど、イザークさんは何も聞かなかった。
「だから、私は大丈夫です」
「ああ。ありがとう」
それは、私がスキルを明かした事に対してか、それとも‥‥‥。
夜が明けて、アネットさんとオスカーさんも起き出してきた。
朝食分はフライパンで、おにぎりを焼く。ゴマ油と醤油で焦がして、お椀に。上にネギと昆布を刻んで、熱い出汁をかけると出来上がりー。焼おにぎりのお茶漬けです!
ご飯を食べて後片付けを済まし、出発です。
皆、今日は緊張気味で口数は少ない。馬たちにも緊張が伝わったのか、どこか落ち着かないようだった。
お昼を過ぎた頃、件の森が見え始めた。人の手が入った、それほど深い森では無さそうだけど、隠れる場所はいくらでもあるだろう。
この森の中に盗賊がいるかもしれない。そう考えていた時、馬に乗った男性が森を飛び出してきたのが見えた。
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