第十四話「ノルディンの休日」
「それでお兄ちゃん、毎日川に釣りに行ってて、最初の頃はあんまりだったんだけど、だんだん巧くなるんですよね。いや、それは良い事なんですけど、そうなると毎日お魚になっちゃうから、ここは私が頑張って狩りに行かないと三食お魚に‥‥‥」
お話し出来るのが嬉しくて、昔の事、最近の事、色々喋っていたと思う。
「‥‥‥む」
どのくらい経っていただろう、不意にイザークさんが、なんか不機嫌そうに。
無言で席を立ち、私の横を通りすぎ出口に向かう。
え‥‥‥何かダメな話だった?いや私がずっと喋っっちゃてた?いけない、こういう時は聞き上手が良いとか前世の頃に読んでいたような‥‥
「何をしている、バカ姉」
‥‥‥‥あれ?
半ばパニックになってた私は、その台詞に出口前の席を見た。空いていたと思うけど、いつの間にかアネットさんが紅茶を片手に、手を振っている。
「いやぁ、そろそろお昼だし、二人を探しに来たんだけどね。お話しに夢中だったんで、ちょっと様子を
見ようかと~」
「《気配遮断》まで使って‥‥何やってるのか」
「あははは」
つまり、アネットさんがスキルまで使って、全力で覗いていたのをイザークさんが発見して怒ってたと。
良かった、嫌われたかと思ったよ。
「それじゃ、行きましょうか。オスカーさん先に行ってるから、待ってるわよー」
あわわ、それはちょっと意地悪です~。
お昼はパスタの専門店に。メニューも豊富で迷ったんだけど、その中にナポリタンを発見、即決定。
オシャレなイタリアンもいいけど(ここでは、あくまで「風」だけど)日本人好みのナポリタンは別な気がします。
他の三人は、カルボナーラ、アラビアータ、ジェノベーゼ。チョイスが、ああ、この人、そんな感じと思ったよ。
オスカーさんに馬車の事も聞いておく。
天候も問題無さそうなので、ここから王都まであと二日、向こうについて十日後になるそうだ。
つまり、順調ならば十四日後に、ノルディンに戻って来る。
午後一で冒険者ギルドに行って、忘れないうちにジェストさんに伝えておいた。
その後、オスカーさんは、また商業ギルドに戻っていった。何か問題があるらしい。
残り三人は、のんびり散策。
途中、ソフトクリームを牧場経営のお店で食べる。
んー、牧場行ったら必ずある定番だけど、やはり一味違うよね。町中のお店だって同じ牛乳使ってるのに。やっぱり気分?
あと、乗馬体験!私は牧場の方に引いてもらって、ゆっくり歩いたくらいだったけど、アネットさんとイザークさんは上手に乗りこなしていた。
冒険者やってるなら、馬も乗れた方がいいよね。覚える事は一杯だー。
‥‥身長伸びて一人で上がれるようになったら。
のんびり過ごす楽しい時間はあっという間に過ぎ、夕暮れ。イザークさんとも、解体の一件から仲良くなれた気がするけど、時折、寂しげで遠くをみるような視線が気になった───。
そんなこんなで、なんか食べてばかりな気がするけど、夕御飯です。
オスカーさんと合流して、今夜は焼き肉だー!!
先ほど牧場で、子牛眺めて可愛いねーとかやってましたが、うん、美味しく頂きます。
「さあ、どんどん焼くよー、やいちゃうよー」
「姉、網に乗せ過ぎだ。せっかくの肉なんだから丁寧に焼かないと勿体ない」
アネットさんは焼き肉好きかテンションが高い。
まあ、私もだけどね!
焼き肉の王道、カルビ!リブロース!タン塩にハラミ!柔らかくてとろけるヒレ肉、コリコリ食感が堪らないミノとかも!
日本ならA5ランクのお高い牛肉だろう。
「あ、私が育てていたお肉がー!」
「肉ばかりじゃなくて野菜も焼けよ」
こういうのは定番だなぁ。
すっかりグルメ巡りになってたけど、ノルディン最終日はこんな感じ。
翌朝、少し早めに町を出た。
ノルディンを出てしばらく行くと、海岸線が見えてくる。それに沿って街道は南に向かい、潮風を感じながら遠くまで来たのを実感する。
「やっぱり海はいいわー、帰ってきた感じー」
アネットさんが御者台で大きく体を伸ばして、深呼吸。海沿い生まれだとそうかもなー。
そう言えば、私、今世で海は初めてでした。
蒼い海、白い砂浜、流石ファンタジー世界で透明度の高い遠浅の綺麗な海が広がっている。
流石にまだ海に入るには冷たいけど。
前世だと‥‥‥あれ、海の記憶はほとんどないや。うん、お一人で行くような所じゃないからね!
そんな海を見ながら、昼休み。
あまりゆっくりは出来ないので、そー言えばと、《空間収納》に入れっぱなしだったマリアンさんのサンドイッチを提供。卵サンドとハムとレタス、それからカツサンド。
いつの間に作ったんだと言われたが、笑って誤魔化した。
そんな昼休みにオスカーさんが商業ギルドで聞いた話を、念のためと聞かせてくれた。
「どうも南海街道に盗賊が出たようです」
今辿っているのノルディン~王都は北海街道で、王都から南に向かうのが南海街道。
この辺りまで来ると、結構馬車も見掛けるようになるので、そういう賊も出るのだろう。
アーシェン王国の食糧事情は良いので、食べるのに困って盗賊になるケースが少ないから、他所より数は少ないらしいんだけど。
「先日、王都から討伐隊が出たそうなので、騒ぎは収まっていると思いますが、一応警戒をお願いします」
「オスカーさん、それフラグですー」
ついに旅の定番イベント、来ちゃいそうです。
お読み下さりありがとうございますm(_ _)m