第十三話「ドラゴンステーキは浪漫」
タイラントボア、ジャイアントスネーク、ロックイーターと、これまで狩ったけど出し切れなかった物の一部です。
「えっと、それからー」
「‥‥‥すみません、裏の解体倉庫でお願い出来ますか?‥‥‥そっちのも一緒に‥‥」
やっぱり止められました。
イザークさんも、ちょっと呆れてそう?
いや、でも王都で目立つのは変なのに狙われかねないし、クロフォードじゃ買い取れない。ノルディン辺りなら噂になっても、明日には町出るしー。
そんな訳で、裏の倉庫に。ギルドホールも小学校の体育館くらいあったけど、ここは更に広い。
そこで獲物を再び出す。解体担当の男性が三人ほど集まってきた。
「タイラントボアか。これを嬢ちゃんが狩ってきたって?」
「はい、えーと‥‥」
「解体部門の責任者やってるジェストだ」
短く髪を刈った大柄でマッチョ系オジサン。解体ってこーいう人が多いなぁ。
「鉄ランク、カトレア・クロフォードです」
「‥‥クロフォードって事は、あの辺境男爵のご令嬢か。なるほど、噂は聞いてるぜ」
「噂‥‥ですか」
カカっと笑うジェストさん。
「あそこの解体やってるジャンは俺の兄弟子でな、たまに連絡を取ってるんだ。クロフォードにゃ、面白い‥‥いや、有望な男爵令嬢がいるってな」
「‥‥‥まあ、余り否定出来ないのが‥‥」
私は苦笑いするしかない。普通は冒険者にならなくたって、ご令嬢は困ったりしない。
ラノベだと、婚約破棄されて魔王倒しに行っちゃうお姫様とか、剣を極めて剣王とかになっちゃう伯爵令嬢とか、いっぱいいるけどさ。
‥‥‥ちっ、婚約者すらいなかったよ、私。
「あと、これ、なんですけどー」
「‥‥‥ここらじゃ見ないが‥‥」
恐る恐る出したソレにジェストさんは首を傾げる。
見た目、二本の角が付いた甲冑の兜のような頭をした、ずんぐり体形の大きな蜥蜴である。
「‥‥ツインランサードレイク 、危険度7の亜竜だな。レイゲンタットの中域で見掛けるような奴だ」
「そりゃ、凄いな‥‥」
答えてくれたのはイザークさん。
やっぱりなー、《竜魔法》の爪でも、結構堅かったし。ダメな奴だと思ったよ。
「中域まで登ったのか?」
「下でタイラントボアとかを狩ってたんですよ。そしたら、ふらっと出てきまして。大変でした」
「大変でした、か‥‥‥フッ、面白い奴だ」
面白かったのか、イザークさんは、ちょっと優しい感じに笑う。あれ、なんか好感度上がった?
でも大変なのは間違いない。そりゃ《全周囲防御》のおかげで無傷だけど、上手く衝撃は逃さないといけない。あの体当たりで何度弾き飛ばされた事か。
「ま、まあ、とにかく解体はやれると思うが、今日明日ではきびしいぞ」
ジェストさんが、現実に戻ってきた。
「はい。今、王都に向かっている所なんですが、一、二週間くらいでクロフォードに戻る予定なんです。また帰りにノルディンに寄るので、その間にやってもらえればいいかなと」
「そうだな‥‥‥しかし肉とかはどうする?売って貰えるなら、こちらで処分するが、持ち帰るなら鮮度は落ちるぞ」
ああー、その問題があるかー。
タイラントボアとかは、まあまた狩ればいいけど、ツインランサードレイクはなー。
亜種といっても竜────憧れドラゴンステーキがー。
うーん、うーん、うーん。
「分かった、こうしよう。お前さんは、一週間なら一週間と日を決めてくれ。それを逆算して解体を進める。それなら、肉にしてから渡すまでの時間は最低限には出来る」
余りに悩む私にジェストさんは苦笑しながら提案してくれる。
《空間収納》から出した時点から劣化は進んでいるが、やはり解体してからが、それは加速する。
途中戻ってくるには距離がありすぎるし、そうしてもらえば大丈夫‥‥かな。
「では、それでお願いします。馬車の都合が分からないので、後で確認してみます。あ、亜竜以外のは、引き取って頂いて大丈夫なので」
「分かった。それじゃ、あとは任せな」
ドンッと胸を叩き、ジェストさんは笑って引き受けてくれた。
「何とかなりそうで良かったです」
ギルドを後にして、私はホッと息を吐く。
《空間収納》の容量はまだまだ大丈夫だけど、せっかく苦労したのだから、死蔵するのはもったいない。
「さて、後はどこか用事はあるのか?」
「私は特には。イザークさんは、大丈夫です?」
「大丈夫だ」
お昼は、またオスカーさんお勧めの店のつもりだったけど、まだ余裕がありそう。
それなら‥‥‥。
少し考えてる振りをして、から。
「時間ありますし、ちょっとお茶にしませんか?」
「‥‥そうだな、少し喉も渇いた」
────よしっ!頑張った、私!
広場の辺りに一度戻り、小さな喫茶店を見つけ、そこに入った。
お昼前なので、二人ともカフェオレだけ頼んで、
小一時間ほどだったけど、楽しくおしゃべり。
私が、ずっと喋っていた気がするけど、イザークさんは、静かに聞いてくれた。
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