第十二話「ノルディンの夜はチーズ祭」
アサヒナ湖を出発して二日目、全行程の半分となるノルディンに到着。
盗賊団が襲ってくるとか、魔物に追われているお姫様の馬車を助けるとかのイベントもなく、旅は順調。
途中、グリムに向かう馬車とすれ違ったけど出会ったのは、それくらい。
私はご飯を作ったり、覚えた《土魔法》の練習をしたり、アネットさんに冒険者ギルドの話を聞いてみたり。
スキルを覚えるのに良さそうな所がないかと、転生者特典の事は伏せて聞いてみると、ギルドでは定期的に、ダンジョン探索のための講習とか、ベテラン冒険者が戦闘訓練をつけてくれたりとかあるので、気が向けば参加してみると良いと教えてくれた。
あと剣術道場みたいなものもあるそうなので、体験入門とかあったらいいなぁ。
やる事リストにまた追加だ。
ノルディンは主に酪農が主産業の町だ。
マイスさんの両親は乳牛を育てているらしく、この季節は放牧が始り、牛舎の補修をしたりするんで、その手伝いを兼ねて顔を出しに来るそうだ。
「皆さん、お世話になりました」
「一段落したらクロフォードに戻りますので、その時にまた」
寂しくなるけど、ブラウン夫妻とはここで別れて、私たちは宿に向かいます。
もう一日あれば、その牧場にも行ってみたかったけど。絞り立ての牛乳とか飲んでみたいし。
今日の宿はグリムの時のような事はなく、極一般的な酒場を併設した宿で〈子羊の微睡み亭〉という名前。良く眠れそう名前だけど、そういう意味なのかな?
ノルディンでは、ゆっくりと丸一日滞在して疲れを癒す予定。出発は明後日の朝。
消費した食材なんかの補充もしなくてはいけないし、冒険者ギルドで収納の中の在庫を処分出来たらいいなぁ。
手持ちのお金は、わずかな現金の蓄えから預かってきたものなので無駄には出来ない───と言うか、むしろ増やして返さなくちゃね。開発のために借金しないといけないだろうし。
ともあれ、今日の所は夕ごはんだ。
宿の一階の酒場も悪く無さそうだったけど、オスカーさんお勧めというチーズを使った料理が売りというお店に。
クラシックな感じの落ち着いた雰囲気のお店で、まずはチーズフォンデュと葡萄酒で乾杯。私は自重してジュースだけどね。
酪農が盛んと言う事で、やっぱりチーズが美味しい。ノルディンとグリムのコラボだねぇ。バゲットじゃがいも、ブロッコリー、ウインナー、個人お勧めの唐揚げは外せないね!‥‥を、トロトロなチーズを絡め、はふはふ頂く。
それから、ベーコンエッグのパンケーキ。ふわふわ生地のパンケーキに、ベーコン、卵、チーズ。牧場の美味がー。
ピザとか、チーズケーキにも惹かれたんだけど、帰りもノルディンに寄るだろうから、また次回のお楽しみにしておこう。
大満足!
翌朝、まずは朝市があると聞き、そちらに向かう。
お野菜は勿論、牧場の方が売る新鮮な牛乳と産みたて卵、チーズに。《空間収納》さんのおかげで鮮度そのままと思うと、つい余分に買ってしまう。
朝市を回ったら別れて、私は冒険者ギルドに行く予定だったけど。
「イザーク、あなたは一日、カトレアちゃんの護衛ね。ちゃんとエスコートするのよ」
アネットさんに言われて、二人でギルドに行く事に。別れ際に「頑張って」なんて言い残し、アネットさんは商店街に消えていった。
オスカーさんもその様子に苦笑して商業ギルドに歩いていく。
え‥‥?頑張れってー‥‥横を見ればイザークさんと二人きり。こ、これはっ!
「どうした、ギルドに行くのだろう?」
「あ、はい」
赤くなったり青くなったりしていた私は、慌ててイザークさんを追い掛けた。
冒険者ギルドは町の中心から少し離れた所にあった。どっしりとした武骨な石造りの建物は、如何にも冒険者ギルドって感じ。
朝も大分遅い時間になったが、それなりに人はいる。私が中に入ると、戸口にいた戦士風の男達が訝しげな顔に。まあ、クロフォードではいつもの事だけど、ギルドに十歳の幼女は珍しいよね。
でもすぐ後ろにいるイザークさんのおかげで、絡まれる事はなく、私は受付に向かった。
受付にいたのは、まだ二十前くらいの若いお姉さん。ベテラン冒険者にからかわれたりもしつつ、愛されキャラの新人地味っ娘ギルド員っぽいなー。
「すいません、狩った魔物の買い取りをお願いしたいんですけど~」
「はい、印章の確認をさせて頂けますか?」
お姉さんは、保護者っぽく後ろに立つイザークさんに声を掛ける。うん、まあ、そうだよね。
「狩ったのは、その娘だ。そっちを確認しろ」
討伐依頼でないものはポイントにはならないけど、その人の能力を知るために履歴は残します。緊急討伐任務が出た時に、あの人なら~みたいな指名依頼とかにもなるからだ。
私が印章を渡すと驚くが、直ぐに顔を営業スマイルに戻す。
鉄ランク幼女ですので。
だが、驚くのはまだ早いぞ。今日は自重してない方の処分をしたいからね。
「確認取れました。お返ししますね」
印章を返してもらい。しかし、何気に凄い技術だよね。どこでも履歴が調べられるという事は、ネットにでも繋がってそうなシステムだ。
「それで、獲物はなにかなー?」
そして、いつものタイラントボアなどの山が築かれるのであった。
「ええーーーー」
はい、お約束ー。
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