第百十二話「とりあえずデイリーくらいはやっとけ」
オンラインゲームには日課というものがある。
ログインボーナス、無料ガチャ、一日一回とか回数制限のあるクエストを回ったり、敵を一定数倒すとかのデイリーやウイークリークエストの消化等。
強化等で使うアイテムや経験値やお金が貰えるが大抵は微々たる物。ガッツリ美味しいクエスト周回する程ではないが、周年記念とかイベントでレアアイテムとか限定品が貰えたりもする、とりあえずログインしてもらう為の物だと思う。
レベルカンストしたり現状の最強装備なんかを完成させると当面の目的が無くなりモチベーションが下がるもので、イベントの合間なんかは大体イン率は下がるのだが、金策や素材集めをサボると次のアップデートで困る事になる。プレイスタイルは自由だし別ゲーに行ったり休むのは結構だが最前線に立っていたいなら最低限の日々の努力は必要だと思うんだよね。
でも、効率重視で同じ狩場やクエストだけひたすら周回する作業は苦痛なのは確かで。
───まあ、何が言いたいかと言うと、トカゲ狩り、飽きました。
デイジーが仮加入して一週間が過ぎた。
基本的にはトカゲ狩りだが、途中で見つけた角兎なんかはデイジーも一人で簡単に狩れるようになった。
一般人でも角兎はそれほど脅威ではないが、やっぱり使い易い武器を手に入れたのが一番だったようだ。鍬で耕すように一撃入れてる姿はちょっとシュールだけど。
元々体力はあったが、とりあえずは度胸は付いたかな。トカゲ相手でも怯む様子は無くなったし。
なんかスキルとかでも生えると良いんだが、今のところその様子は無い。《剣魔法》でも覚えるのが無難かなーと思うが、向き不向きってのがあるからどうだろう?
ま、そもそもスキル生える条件も良く分からないけど。多分、素質だか才能みたいなのの差があるだろうけど、経験値が貯まった状態で発動させると取得できるみたいな感じだとは思う。素質ゼロみたいな感じだと経験値が途方もなく必要だったりするんじゃないかな?
転生者はそこにボーナスがあって経験値が貯まりやすいか、適正のあるスキルは既に貯まった状態になっているんじゃないだろうか。経験値が「そのスキルがどういう物かを理解してる」っていう数値だと考えると強ち間違いではないと思う。
ちょっと脱線したがデイジーの才能がどの方向なのか分からないから、育成方向を悩んでる。武器が鍬───扱い的にちょっとマイナーだけどウォーピックみたいなもんだろうか?
近接物理で手数よりも一撃に比重を置くパワーファイター……盾は持てないし、武器も重量はあるから回避よりもHPと防御力を上げて耐える方向か?
エルグラだと種族特性はあれど重戦士系辺りを取れば問題無いだろうけど、リアル才能が必要だからなぁ………。
「唐揚げ、唐揚げ~♪」
「カトレアさんは唐揚げお好きですね」
そんな事を考えながら、連日の疲れもあるし本日は狩りはお休みにしてマリアンさんと厨房に籠ってます。
食材は《空間収納》にあっても狩りや旅の途中ではゆっくり料理していられない時の為にも軽食やおやつなんかはストックしておきたいしね。
とりあえず、在庫が増えたトカゲ肉を使いたいと先ずは唐揚げ。
ちなみに、日本唐揚協会の定義によると唐揚げとは「食材に小麦粉や片栗粉などを薄くまぶして油で揚げたもの」なので片栗粉をまぶす竜田揚げやザンギ、お肉以外の魚やタコ等の海鮮は勿論、野菜なんかも「唐揚げ」に該当するらしい。
下味の王道はやっぱりニンニクと生姜醤油かな。それから塩味。ニンニクと生姜は同じだけど塩胡椒の方がシンプルでいっぱい食べれるイメージ。
あとは少し変わり種で、チリソースとナンプラーのエスニック風とか、カレー粉と白味噌、黒胡椒と白ワインなんかの組合わせも作っておいた。
アレンジは各ご家庭やお店で色々あるだろうけど、蜂蜜なんかで甘めの味から激辛まで唐揚げはバリエーションが豊富なのも楽しいよね。
「最近は調味料の扱いも増えて助かりますわ」
飲食店が増えたお陰で、クロフォードまで運ばれる食材等の種類も増えたと喜ぶマリアンさん。
悪路だったグリムまでの街道が整備された事もあり、今までの調味料と言えば塩と砂糖と香辛料も幾つか位だったからレパートリーが広がったそうだ。
王都で買い込んだ食材はウチに入れてるが、生鮮品は傷まない内に使ってくれるんだけど、手に入らない調味料は控え目で普段使いはあまりしてくれないんだよね。
まだ王都程の種類は入って来ないし、あちらに比べると少々割高になるが、ハーブなんかの香辛料がクロフォードでも買えるようになったのでマリアンさんも安心して使って貰いたい。
特にカレー粉とか!うん、カレーは日本人としては外せないからね。スタンダードなカレーライスだけじゃなくてカレーうどんにカレーパン、今日も作ってるけどカレー味が嫌いな人はあまりいないよね?あのドロッとしたのがダメって方もいるらしいけど。
「ですが少しだけ寂しくもありますね」
ぽつんぽつんと家が建っていただけの、本当に何もない田舎だったクロフォードも今ではちょっとした観光地くらいになった。見慣れた景色が変わってしまうのは寂しくはあるが、領地の発展は歓迎すべきだろう。美味しいご飯の為にも!
ま、流石に王都程にはならないだろうけど、ね。
「あつっ……けど、サクッとジューシィ~」
「もう少し味は控え目にした物もあっても良いですね。このままでも美味しいですけど……」
味見に揚げたてを口に入れればじゅわっと広がる肉汁がとても美味しい。唐揚げは冷めても美味しいけどやっぱり揚げたてが一番!
「そうですね。唐揚げ丼とかにもしたいしー………」
言い掛けた所で、厨房にシャルちゃんが飛び込んできた。
「カトレアさん、ダンジョンが開放されましたわ!」
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