第百八話「vs.トカゲさん再び」
ウサ耳娘のデイジーも起きてきて、寝起きの目を擦りながらも鼻をすんすんと。
「美味しそうな匂いがするウサ……」
「はいはい、朝ご飯にするから顔とかくらいは洗いなさい」
見た感じシシリー達より少し下、私よりは年上だとは思うんだけど、なんだか年の割りには幼い感じ。子供の好奇心もあって、あまり考えもせずに家を飛び出しちゃった感じなのかねぇ。
「カトレアさん、お母さまみたいですわ」
「いや、私が一番年下だよね?」
シシリーに連れられ近くの川に向かうデイジーを見送りながら嘆息するとシャルちゃんが言うが、前世の経験はカウントされないと思います。
「……っ!小さくて可愛いお姉様を愛でる妹というシチュエーションも悪くありませんわね………」
お姉様でもありませんってばさ。
皆の仕度が終わったら、とりあえず朝ご飯だ。
中華粥は、素朴で優しい味に仕上がった。スルスルと食べれて、ちょっと疲れた胃に嬉しい。
涼しいというより肌寒くなってきた朝、熱々のお粥がじんわりと温めてくれる。はふぅと息を吐けば、皆も同じ様子でくすりと笑みを浮かべた。
「寒くなってくると温かい料理は染みるよなぁ」
「ええ」
「………おいしいウサ……」
ほっこりする中、デイジーはぽつりと溢す。
食べられるならなんでもいいという人もいるだろうけど。美味しいご飯と温かい寝床は生きる為に必要だと思う。
前世の私は繁忙期でなければ割りとホワイトだったが、知人には買出しに行く時間もなく、ご飯は栄養ドリンクとカロリーバー、机の下で仮眠という真っ黒な仕事をしてるワーカーホリックな人もいた。そのうち過労死して異世界転生とかするんじゃね?とか言ってたな。
まあ、私の方が本当に異世界転生しちゃった訳だけど。ともかくご飯は大事。
「……カトレアちゃん……」
「ん。ま、何かの縁って奴だよね」
そんなデイジーを見てシシリーが言いかけるが、皆まで言わずとも解ってる。自身がそうだったようにデイジーをなんとかしてあげたいのだ。
……とは言うものの。
クロフォードは現在建設ラッシュで仕事は増えているが、流石に王都程ではない。専門の技能があればまた別だが素人が出来る仕事の量以上に冒険者が集まってしまった訳だ。
そもそも人口が少なくつい最近まで物々交換が成り立ってしまうようなクロフォードに雑用の様な依頼はほとんど無い。仕事を作るにしても限度はあるし、この溢れた冒険者をどうするかって話なんだよね。
公共事業や福祉など個人でなんとかなるものじゃないけど、何も出来ない訳じゃない……筈。でも、お金や食べ物を与えても一時凌ぎでしかないし、根本的に解決しなきゃ意味は無いんだけど……。
「角兎とかが居ないなら、違うものを狩ればいいのよ!」
簡単に狩れる低レベル帯の獲物が居ないなら、高レベル帯でも簡単に狩れるようになればいいのよ。
幸い?レイゲンタッドという大陸でも高難度の狩場があって、そこの獲物は価値が高い。強くなれば問題解決な訳だ。
「そんな訳で今日からブートキャンプです!」
「………なんか前にもこんな光景が……」
家に戻って準備をして、翌々日。
私達は岩喰いトカゲのエリアに来ている。強くなるにはやっぱり経験よね。駆け出しのデイジーにはキツいかもだけど小物相手じゃ特訓にならないし。
昔の名作RPGでスタート地点の町周辺で延々とスライム狩りしてレベル完凸プレイというネタもあったが、そんな事やってたら三百年くらいかかるんで、パワーレベリングです。
「このランクの討伐依頼は大体鉄にならないと受けれないけど、狩っちゃいけない訳じゃないわ。そもそも今回は私達もいるから問題無い」
「うん、まあ、俺達も蟹狩りとかしたけど」
冒険者の比率は上に行くほど少なく、七割以上は鉄ランク以下だという。その内の半分が銅ランク。
前にも触れたかもだけど等級イコール強さではないが、危険度が高い依頼は等級が上がらないと受けれない。実力不足の冒険者が依頼に失敗するのはギルドの信頼を下げる事にもなるからね。
だけど、危険度の高い魔物を狩っちゃいけない法は無い。運悪く遭遇する場合もあるからね。
「依頼じゃないとポイントにはならないけど、素材を売ればお金になるし、何より味噌漬けにして焼くと美味しい」
「とりあえずお金とご飯の心配は無くなりますわね。私も盲点でしたわ……」
実力はあったのに王都暮らしで困ってたシャルちゃんだが、依頼を受けれないという事でその事に気付いて無かったっぽい。
「普通は死んじゃうからやらないだけじゃないかなぁ………」
「上に行くには他人と同じ事をやっていてもダメなのよ!人が努力するなら、その三倍頑張らないと上位ランカーに追い付けないわ!」
「言ってる事は正論だと思いますが、デイジーさん、ぷるぷるしてますが………」
「多分、考えるのが面倒になったんですわ」
これまで大物は相手にしていないだろうデイジーは「でっかいトカゲさんウサ……」と子兎のように震えているが……いや、だってねぇ。
結局冒険者の稼ぎは実力に比例するんだよ。楽して簡単に稼げる仕事なんて無い。あったとしてもリスクのある犯罪くらいじゃない?
つまり強くなるしか方法は無いのだ。
「……コホン。では、先ずはお手本から。岩喰いトカゲは硬い鱗に覆われているので剣なんかでは傷付きません」
私だって鬼じゃない。いきなり単独で戦わせたりはしない。
手に負えないような格上でも相手を強みを知って弱点を付けば倒せる。勿論限度はあるけど対処法を学べばなんとかなる……筈。
とりあえず近くのトカゲを釣って、小剣でペチペチして見せる。
「カトレアさん、かじられてますわね」
「弱点はお腹。そっちは柔らかいので………ひっくり返してあげます。方法は色々あるだろうけど、とりあえず……〈土槍〉!」
私の《土魔法》でトカゲの下の地面から岩の塊が天を突く。それを回避出来ずに顎に食らったトカゲは綺麗にひっくり返った。
「そして、そこに必殺の~~〈竜爪撃〉!」
あとはさくっと切り裂いて一丁上がり!うん、私もなかなか手際良くなったよね。
「ま、基本はこんな感じね」
振り向いてちょっとドヤってみると、ポカンとするデイジーに肩を竦めるユースと呆れ顔のシャルちゃんとシシリー。アークは苦い顔。
「相変わらず、何の参考にもなりませんわね」
「うん、とりあえず初心者は単独討伐は止めておいた方が良いと思うなー」
「よし、先ずは基本の連携から覚えようか」
えー、岩喰いトカゲの攻略方法として間違ってないよね?
お読み下さりありがとうございます。