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殺戮勇者の使い方  作者: 文字塚
1章 殺戮勇者とアルタニア
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第9話 敵は異世界転生者

 勇者の言い分は理解した。

 それが通用するかは凄まじい怪しさだが、国を陥落させたのは間違いない。世は下克上、一人で戦国乱世を体現している。


「で、アルタニア王は捕らえたの。王族はあらかた捕らえたのでしょう?」

「乗る気になったか」

「そうじゃないけど……」


 私はまだ言葉を濁すしかない。安易に「はいそうですね」と言うほど馬鹿ではないし、冒険主義者でもない。

 だけれど、


「僕は大賛成。さすが勇者さん。僕らもバリバリ働きますよ」


 レイモンが諸手を挙げている。ど、どういうつもり?


「レイ、簡単に応じてはダメよっ!」


 また声を荒げて、私の余裕はどこにいったの? そもそもそんなものなかったのかもしれない。お飾りの程度が露呈していくようだ。


「姉様、ううん姉さん、勇者さんの話を聞こう。これからの予定を聞けばきっと納得出来るよ」

「あなた達通じていたの?」


 レイモンは小さくかぶりを振る。


「任命の儀式で支度金、戦費が足りないと堂々主張する勇者さんは、とても格好良かった」

「図太いだけよ」

「そして正しい」


 どこが。百万ゴールドなんて小さな国の国家予算並みだ。


「魔王を殺して魔族を絶滅に追い込め。これが陛下と教会の要求なんだよ」

「当然でしょう。悪魔は滅すべきよ」

「でも彼らの支配領域は僕らよりも遥かに広い」


 レイモンは両腕を広げ大きさを示してみせる。


「人類全体よりも広いかもしれない」

「いんやそれはない。魔王軍は苦戦してる」

「そうなんだ。やるね人類も」


 レイモンはまるで他人事だ。でもどうして勇者はそんなことまで知ってるの? そもそも信用していいの?


「魔王軍の動きを今説明するつもりはなかったんだが、奴らの動きは広範だ。だから勝ち目がある。全力で来られたらここら一帯は即陥落だな」

「なら魔王はどうしてそうしないのよ……」

「軍閥だよ。派閥とも言う。こんなちっぽけな地域いつだって手に入る。だから後回しにされてんだ。そこが狙い目だな」

「反転攻勢の機会なんですね」

「そういうことだな」


 ダメ、レイモンが勇者に懐き始めている。

 大人しいレイモンが乱暴者に憧れるのは分からなくもない。けれど信奉者になってはいけない。


「そ、それが事実だとしてあなたはこれからどうするつもり。相手は圧倒的じゃない」

「いや魔王軍は苦戦してると言ったろう? 海の向こうで大苦戦だ」

「海ってどこよ」


 私達聖ナルタヤは内陸でここアルタニアも内陸。海と言えば東に出るしかないはず。


「かなり西さ。この山脈の向こうに海がある」

「それぐらい知っているわ……」


 地図にはそう書いてあったけど見たことはない。だってこの山脈を越える機会なんて、エストマ三国にでも嫁がない限りあり得ない。そう思っていた。


「大航海時代が訪れてもおかしくない。それだけ経済は活発になり、資本家が生まれている」

「誰の言葉?」

「転生者だ」


 ……だから誰? 分からなくてまたレイモンに確かめるが、そのレイモンはなんだか楽しそうだった。


「それってエンゼルナイトって奴ですか!」

「ああ道具を使うあれね。主に指輪だな。死ねば天使の騎士となる」

「お伽噺(とぎばなし)かと思ってました」

「大して役に立たないし別物だ」

「なあんだ。じゃあ別の、そうか悪魔の力ですね!」

「レイモンやめなさい……悪魔なんて口にしてはいけないわ」

「悪魔でもない」


 私とは違い勇者は単に否定している。この異端者め。私のレイモンが異端審問にかけられたら、お前を魔女として差し出してやる。


「その転生者は異世界から来たらしい」


 勇者は遠くを見ながら零れるように言った。


「異世界……あなた物語の読みすぎではなくて」

「そう思いたい。だがその転生者は魔王についた。敵だよ。でなきゃこんな苦労してない」


 話が見えない。勇者は苦悩しているのかもしれないが、共感しようにも知識がない。

 分からないことは今は置いておこう。


「分かったわ。で、私達に何をさせるつもり。具体的に言って」

「王族を処刑し統治者が変わったと民衆に報せる」

「だから、それはあなたが()りなさいよ」

「体制が変わると同時、エストマ三国で内乱を誘発する。手中に収めたら一気に港湾都市を攻め落とす」


 私を無視した挙げ句無茶なことを言い出した。この勇者危なすぎる。


「なんのため……」

「海外貿易のため」

「それ必要」

「やらないと俺の投資が無駄になる。最悪破産だ」

「お前の都合か! 絶対断る!」

「手に入れば異次元な収益を得られるだろう。海のこちら側は魔王の独占市場。そこに風穴を開け、海の向こうにある大陸と交易を行う」

「そんなの夢物語よ。そもそも人なんているの?」


 国があることだって信じられない。頭がおかしい奴と話している気分。誇大妄想じゃないのかしら。

 懐疑(かいぎ)(はら)ませた視線を送るが、しかし勇者は小揺るぎもしない。


「人がいるから苦戦してるんだよ、魔王軍は」

「戦ってるんですねその人達は」

「ああ。転生者曰く十四、五世紀の南北アメリカ大陸が、ヨーロッパやユーラシア大陸を攻撃しているようなものらしい」

「どういう意味?」


 単語が、名称が分からない。

 勇者は顎に手をやり、しばし考えた後口を開いた。


「植民地を手に入れる為攻撃したら相手のが上だった。逆帝国主義とでも言えば分かるか」


 ちょっとだけ分かった。皮肉なのね。


「転生者でも全てコントロール出来るわけではない。魔王も同様だ。今は無駄死にしてもらい、大陸の彼らと手を組むことも考える。選択肢は多い方がいい」


 壮大過ぎてついていけない。

 分かるのは、こいつが破産しそうだってことぐらいなんだけど。私大丈夫かな……。

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