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殺戮勇者の使い方  作者: 文字塚
1章 殺戮勇者とアルタニア
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第8話 勇者の行状

 勇者の話が本当なら私には正統性がある。

 この話、乗るだけの価値があるかもしれない。

 しかしまだ確かめねばならない。


「勝てないと、あなたは考えているのですね」


 勇者は魔王と魔族討伐を命じられた。現体制では為せないと聞こえるが、にわかに信じがたい。それに周辺国をどう押さえるつもりなのか。


「アルタニアは対魔族の要衝。エストマ三国は支援なしでは戦えません。あなたのしたことは、私達が作った秩序を脅かす行為です」

御為(おため)ごかしはやめてくれ。その秩序が持たないからわざわざ手を汚したんだ」

「三国はどうするつもりです? 最悪、いえすぐにでも攻めて来るでしょう。私達に戦えと仰るのですか」

「来てないぜ」


 勇者はそう言って窓の外に視線を送った。

 見えるのは峻険(しゅんけん)な山々と断崖絶壁だけなのに。


「いずれ来ます。調停しようにも、こんなやり方通用しないわ。あなた王族をどうしたの?」


 私なりに正論を述べたつもりだ。勝算なく事を起こしたとは思っていない。それでも確かめなければ、紙屑同然の手形を受け取ることになる。


「王族はあらかた牢にぶち込んだ」


 そんな気してた。殺していないだけマシか。

 勇者は続ける。


「エストマ三国は動けない。魔族の相手で精一杯。流通路を断たれた奴らは、俺の言うことを聞くしかない」


 やはり補給を断ち孤立させることが狙いか。いくつか想定したものが当たった。

 ただし「俺の言うこと」という台詞は聞き捨てならない。頭に叩き込んでおかないと。


「あなたが主導権を握る、そういうつもりなのね」

「さあそれは知らない。短期的にはそうかもしれないが、俺はそんな暇じゃない」


 興味なさげな言い草に頭が沸騰しそうだ。こちらは生き死にがかかっている。ダメ、落ち着いて私。


「あなた評判悪いわよ」

「そうかい」

「あなたの行状聞かせてもらったわ」


 低く熱を帯びた言葉に勇者は冷めた顔を向けてきた。


「なんだ行状って」

「曰く、王家直属騎士団への挑発行為。

 曰く、教会支部を騙った詐欺行為。

 曰く、各商会への恐喝行為。

 曰く、冒険者組合への乱暴狼藉」


 (そら)じて並べる。どれも都合の悪い話ばかりだ。

 勇者はここでああと頷いて見せた。


「あったかなそんなこと」

「あったかなじゃないわ。あったんです。だからみんな知っている。世間知らずの私の耳にすら入ってきた」

「じゃあ事実なんだろう。それがどうした」


 開き直った……世の中それで通用したら苦労しない!


「騎士団への挑発行為! 王家直属騎士団も含まれるなら、あなた不敬罪に問われるわ!」

「問われてないぜ」


 ……言われてみれば。思わずレイモンを見ると、肩を(すく)めて分からないといった風だ。


「やったのやってないの!?」


 我ながらなんて確認の仕方だ。でも私が見たわけではない。それでも真摯(しんし)に応じなければ信用も出来ない。

 そして勇者は、


「やったはやった」


 平板な言葉であっさりと認めた。


「やっぱり!」

「あちらが挑発してきたので叩きのめしてやった」


 ……それただの喧嘩。チンピラじゃないんだから、それでも王家の騎士団なの!


「聞いてません! 都合よく言っても無駄です!」

「いや、都合悪いから伏せてんだろう。たった一人にのされたなんて騎士団も言えんだろうし」

「一人でやったんですか。凄いや!」


 レイモンは手を叩きいかにも愉快と言わんばかりだ。違う、王家の騎士団は私達の守り神……だったの今までは。これからは分からないけど。


「王家の騎士団っても支部は腐るほどあるぜ。教会騎士団もあれば病院騎士団もある。他の騎士団だって勝手に支部設けて商売してんだ。利害がかち合えば(いさか)いぐらい起きる」

「そ、そうでしょうけど……」

「なんで俺だけ責められるんだよ」


 確かにこれは正論。特権意識はよろしくない。私達は別だけど。


「分かったわ。じゃあ教会についてはどう? 異端者呼ばわりされたくはないでしょう」

「俺は異端者だよ、事実」


 ……特大の目に見える地雷だった。こいつ黒魔術を使って戦争を起こしたのだ。


「俺は無神論者だ。神なんかどうでもいい。いたら手伝えよくそがってなもんだ」

「詐欺行為はただの犯罪よ」


 並べて見れば呆れるような行状だ。しかし呆れているのは勇者も同様らしい。


「面倒だからまとめて答えるぜ」

「構いません。誤魔化しは許さないわ」

「結構。俺は教会も含めて勇者に選定された。だが教会は一銭も出してない。形だけ乗って結果だけ(かす)め取る算段だ。信仰の成果だなんだと、教会の威信を高めるつもりだろう」


 ここは黙って聞くことにする。今の勇者は雄弁だ。話せばボロの一つも出る。


「金出さないなら利用するしかない。こんなご時世だからって贖宥状(しょくゆうじょう)乱発してる奴らに遠慮なんかない」


 免罪符、確かに教会の資金源だ。


「ってわけで護符と守り札を作った」


 やっぱり。呆れてものも言えない。あれは教会の専売特許。いくら不信心者とはいえ神様が怖くないのかしら。


「だが俺のは本物だ。だから都合が悪かった。確かに治癒効果はあるし、確かに守護効果もある」


 ……そんなの黒魔術じゃない。


「効果が高いから、ライバル商品になったんだな。お陰で目の敵にされたよ」

「当たり前じゃない。そんなことも分からないの?」

「続けるぜ」


 どうぞと促す。


「商会が誤魔化してる税を分捕った」

「……ダメでしょ」

「仕方ない。もうやった後だ」

「いや両方ダメでしょう! 税は正しく公平に納めるものよ!」

「王族が……」

「それを言ってもね」


 勇者の後にレイモンが続いた。レイモンだって王族なのに、そんな言い方ないわ。レイモンだから思わず頬を膨らませる程度ですんだけど、酷い。


「ごめんよ姉様。話を聞こう。続けて下さい」

「あくまで誤魔化してる分だ。あとはそう"誤魔化してるだろ"と丁寧に寄付を要請した。皆、快く承諾してくれたよ」


 それ恐喝。というか両方許せない! 私、もっといい服着れたかもしれないのに! そうしたらレイモンがどんなに喜んでくれたか!

 私の憤りなど意に介さず勇者は更に続ける。


「その金で商会を買った。みんな幸せ」


 謎理論。こいつ自分さえ良ければそれでいいのね。


「冒険者組合は俺の邪魔をするんだよ。だから分からせた」

「あなたが邪魔したんでしょう、どうせ」

「いんや連中は今がいいんだ。今の魔物が跋扈するこの世界が心地いい。仕事に事欠かないからな」


 それはそうだろうけど……。

 みんな必死に生きている。今の私なら分かる気もする。

 だが勇者は吐き捨てるように言葉を放った。


「ふざけんなし」

「何語ですそれは」

「だから分からせたよ。まあ言うまでもないだろ」

「死者出してないわよね……」

「出たよ。俺と戦うのも冒険だ。満足しただろう」


 ……こいつ、狂暴過ぎる。

・現在公開されている情報

 それぞれの騎士団は多くの支部を開いている。魔族との争いが激化している為、事後承認も多い。結果、許認可を担当する者は疲弊する。

・特大の地雷。魔法があり火薬もあるので地雷は存在する。

・寄付の強要。どっちにしろ税金は納めない。

・勇者は殺しも辞さない。タイトル通り。

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