第7話 暴君を締め出して何が悪い
答えとは?
ああ、アルタニアを差し上げたいという話ね。そのつもりで来た、けれど経緯が分からない。なぜ彼は戦争を起こし奪った国を譲ろうというのか。
やはり傀儡を必要としている。
今その点を指摘して果たしていいものだろうか。
無策過ぎる。
これではまるで姉弟の逃避行だ。
「おい、まさかここまで来て断るつもりじゃねーよな」
「もちろん。けれど血に塗れた王国を簒奪して、一体どういうつもり。私達に何を求めているの」
凛として応じたつもりだ。
これでも王族、血統書なら大抵勝てる。
偉そうな奴は大体親戚だ。
「うん……そうね……」
勇者が口ごもった。今よ、ここがレイモンに無礼を働いた復讐の好機!
「戦争を起こすに相応しい理由があってのことかしら。でなければ……」
「でなければ?」
「話しになりません」
ボカしてしまった。受け取れないとは怖くて言えない。
「なるほど言い分ごもっとも」
「そうでしょう。無益な戦、なぜあなたは起こしたのです」
レイモンに害が及ばぬよう少し前に出る。この子だけは絶対傷つけさせない。言葉でもだ。
「無益じゃねーけど」
「あなたはそう言うでしょう。ですがラウルでも有益と言った者はいません」
「そりゃ利益供与者だからだ」
どういう意味? 妙に堂々としている。
「誰が誰に利益を供与していたのです」
「お互い様かな。奴隷を売りさばいて武器を買う」
奴隷? この国はまだそんなことをしていた?
「馬鹿なことを仰って。そんな話聞いたことありません」
話にならないと手を振ってみせた。勇者は口の端を曲げている。
「外国だもんな。そりゃ知らない」
「証拠はあるんですか」
「山ほど」
勇者は一枚の紙を手に取り、ひらひらと揺らせている。奴隷売買の内情が記されていると言いたいのだろう。だが、
「そんなものいくらでも偽造出来ます」
「外にいるぜ。ここは王の城だが首都はあっち側。西にある。怨嗟が聞きたきゃ案内してやる」
正気なの。本気で言っている?
「待って」
「この城にも解放した奴隷と農奴、搾取され続けた民衆はいるぜ」
「ちょっと待って」
「奴らの怨嗟がなきゃんなことしてねーよ」
「ちょっと待ってってば!」
つい大声を出してしまった。はしたなくもみっともない。
レイモンがそれを見て口を挟んだ。
「民衆の解放が目的だったんですか」
「そうでもない。使わせてもらっただけだ。このままじゃ勝てない」
違うの? てっきり解放者を気取って……いや気取ってはいる。いるが目的はそうでないと今はっきり言った。
「真の目的はいずこにやあらん」
「時代がかった言い回しだねえ」
「答えなさい」
「魔王をぶち殺す為だ」
「どうしてアルタニアが滅びなければいけないの?」
「役に立たないからだ。新生アルタニアは君らが仕切れ」
核心を突いてきた。魔王討伐の為、考えはしたがどうしても繋がらない。
「国を滅ぼすことを正当化出来るとそう言うのですね」
「しつこいな。こういう国は一回やり直した方がいい」
「仕切れと言われても、実働部隊がありませんっ!」
私達には少数の護衛と侍女しかいないのだ。それも都市国家で待たせている。今は三人、つまりクロウしかいない。
「いるよ。この国には優秀な人材がいる」
「誰がついて来るんですか……」
いきなりやってきた余所者に誰が従うというのか。それが分からなければ答えになっていない。
「罪人をさぱっと始末すりゃ、わざわざやって来てくれたと納得するさ」
「罪人とは?」
「元の統治者共だ」
王族じゃない。分かっていたけれど、それはそっちで殺ってよ!
「嫌よ、王族殺しなんて真っ平ごめん」
「そう言うな、何事も形式が大事なんだ」
「ふざけないで。残党がまだ残っているんでしょう? おちおち夜も眠れないわ」
「ならご実家の方が安心して眠れるのかね」
もしかしてレイモンが話してしまっている。私達がどれだけ肩身の狭い思いをしてきたか。
思わずレイモンを見つめるとかぶりを振っていた。
「何が言いたいの」
「仕切れと言いたい」
「出来たら苦労しないわ」
「出来るさ。人も物も金も仕組みも用意してやる」
「正統性が、ない」
「ある」
「どこに?」
「君の家系は元々こちらの出だ」
勇者の突然の言は、衝撃を受けるには充分だった。
「母方の遠い祖先になるが血は繋がってるらしい。今の王族に殺されて逃亡したのは随分前だ」
「そんな話聞いたことないわ!」
「しないだろう。元々の血脈なんて、そっちの王家からすれば邪魔なケースもある。まあでも嘘じゃない。ちなみにこっちの人間は知ってるぜ」
……あれ、これ勝ち目出てきたんじゃないのかしら。
一瞬何もしていないのに、凱旋したような気分になったのは何かの幻覚なんでしょうか。
私、分かりません。
・単独交渉。歴史的にみれば結構あるから凄い。




