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殺戮勇者の使い方  作者: 文字塚
1章 殺戮勇者とアルタニア
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第6話 勇者登場

 最近まで戦闘があったのだろう。

 城内には血の臭いが残り、死体の処理跡が生々しい。外でも感じたが、焼け焦げた臭いも混ざっている。


「外で火葬したのか。手間のかかる話だ」


 クロウの独り言に案内人は反応を示さない。というより、そもそも人かどうかの判別がつかない。

 勇者は五万の機械人形でこの国を取り囲んだという。その一片を垣間見ているのだろうか。

 歩いているとレイモンが手を握ってきた。そこに不安は見て取れない。安心してと表情が物語っていた。

 大丈夫、私は平気よ。


「こ、こちらで、お、お待ちを……」


 話せたのか。案内人に驚くが、ここは城内の最上階。王家の間は一階にあり、ここは王族の部屋だと思われる。


「階段昇らせた挙げ句、待たせるとはどういう了見だ。誰だか分かってんだろうなあ……」


 虚勢を込めてクロウは毒づくが、所詮第五王女と第七王子、それと貧乏貴族の次男坊。残党狩りが続く今、こいつらにだって余裕はないはずだ。

 外交儀礼など必要ない。

 しかしここまで来て気づく。クロウ、どうしよう。


「入れよ」


 悩む私を急かすよう、室内から声が飛んできた。


「なんつー無礼な。お気をつけを。もう敵地みたいなもんです」

「違うわ、ただ話し合いに来ただけ。あなたここで待っていてくれる?」

「冗談が過ぎます!」


 クロウが声を荒げる。何も知らず、取り乱す彼が気の毒に思えてきた。たかが小娘に、どこまで振り回されるのだろう。


「入れよ」


 急かされ、私は扉に手をかける。

 クロウを制し待つよう言い含めて。

 扉は今、完全に開かれた。

 そして閉じられる。自分で閉じるのなんていつ以来だろう。

 ーー可能性の扉が閉じられていませんように。


 二人揃って部屋へと足を踏み入れた。

 目の前には書類に目を通す男が一人だけ。

 豪奢な室内に似つかわしくない、武人の風格を纏っている。

 年は二十歳ぐらい、クロウとそう変わらない。

 ただ体格はいい。背はそれほどだが、引き締まっているのが見て取れる。


「遅えよ。来ないかと思ったぜ」


 初対面でいきなり罵倒された。私は、私はともかくレイモンを罵倒するとは。ち、違うわ、私が言われた。あくまで私が我慢すればいい。

 顔はきっと真っ赤になっていただろう。

 それでもレイモンの為と思えば自然と耐えられた。


「そういうつもりではなかったわ。そもそも、信用出来るか、怪しいものだし」


 声が上ずる。私が緊張している。こんな奴に?

 男はまた書類に目を落とし、


「そう。で、信用していただけたかな」


 興味なさげだ。

 私はこんなに緊張しているのに……初対面はお互い様でないかしら!

 精一杯堪える中レイモンが口を開いた。


「久しぶりです勇者さん。お忙しいんですね」


 思いもしない台詞。レイ、あなた今なんて?


「よう王子。式典以来だな。背は伸びたか」

「そりゃ伸びるよ。まだ伸びる」

「そうだな、まだまだ伸びる」


 二人笑顔を交わして……って、式典出てたの!?


「レイあなた……」

「ごめん、知ってると思ってた」


 知ってたらこんな反応してない。というか印象聞かせてよ先に! 面識あるんじゃない!


「し、知り合いでしたの」

「ただの顔見知りだよ。そっちは王族だからな。下々のことなんて興味ねーよな」

「あなたの主張に味方したの僕だけですからね」

「味方? なんのこと?」

「姉様、クロウが話していたお金の話さ」


 ……なんのこと。思い出せるのはそう、支度金。百万ゴールドのこと?


「え、あなたそれ、いくらか分かってるの?」

「もちろん。大した額じゃない」

「そんなわけないじゃない! あなた自分で稼げるの!?」


 声を荒げると、


「王族がそれ言っちゃお仕舞いだ」

「うん、難しいところだよね。稼げるとも言えるし、稼いでないとも言える」

「稼いでねーよ。ピンハネしてんだ」

「見解の相違ですね」


 なんでそんなに仲いいの。


「あなた達仲良かったのね」


 ある種ホッとした。これなら話は通じそうだ。私は鳥かごに自ら飛び込んだ間抜けではないらしい。


「仲は別によかねーよ」

「うん、仲というほどではないね」


 良くていいのだけれど。


「さて本当の仲良しになれるか、答えを聞かせてもらおうじゃねーか」


 勇者はそう言って書類を手放した。

・土葬と火葬。

 山岳地帯、高地の城であるため場所を取らない火葬が選択された。

 教会は火葬を禁じてはいないが、土葬が一般的。

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