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殺戮勇者の使い方  作者: 文字塚
ナルティア家と王女殿下の秘密
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第51話 地下室にて

 些か揉めたがとにかく皆を労い、会議が一旦解散となると勇者に地下室に来るように告げられた。以前魔法の研究に使いレイモンと話していた地下室のことだろう。

 護衛にハランドを付け向かうと、勇者は棒切れを用い一人魔法陣のようなものを描いていた。ハランドが一礼して去るものだから二人きりになってしまう。おおよその察しは付くが手持ち無沙汰で待っていると、


「失礼、お待たせしたな。さて何から話すか」

「用があるならまとめておきなさいよ。というかこの魔法陣は何?」


 率直に問うと、


「召喚魔法だ。王女殿下は悪魔と相性がいい。聖魔法は悪魔と表裏一体の関係にある。そして召喚魔法はどこからかは知らないが、悪魔や召喚獣などを呼び出す魔法の類でもある。サキュバス達は歴史のどこかで召喚されたのかもしれないな」


 聖魔法の真髄は召喚魔法にあるのか。これは初耳だ。


「さすがのジョルダード教も聖魔法の万能性と召喚魔法には勝てなかった。ま、そんなところだろう」

「そう。でも私は召喚魔法なんて使えないわ」

「使えるようになればいい」


 そうですね。遠慮もなく正論を突き刺してくる奴だな。しかし誰に教われば……ああ、この勇者とミネルヴァ女史か。レイももしかしたら知っているかもしれない。

 魔法陣を書き終えたのか勇者は棒切れを手放した。そうして、


「さて、皆気付いていながら触れない問題点について説明しておく。その一つは昨夜の戦いでお分かりいただけたと思うが」


 これはすぐに察せた。私が「この戦いのどこが本物の戦争なのか」と問うと、オーランは「勇者達がいない」と応じた。昨夜の戦いは実に顕著で、勇者の存在のあるなしで戦いの様相は大きく異なる。そして彼のような存在は相手方にもいるはずだ。


「あなたは一人しかいない。けれど敵方には複数いる」

「そんなとこだ。だがこの問題はミネルヴァが来てくれたことで一つ改善された。しかし状況の不利は否めない。俺はともかく俺のいない戦場が問題なんだ」


 確かに。だからレイモンを必要とし、あらゆる勢力を必要としていたのか。使えるものはなんでも使う。ささやかな信仰心を持つ私を使い教会すら巻き込み戦力としたいと。けれどこいつ、今は軍勢を必要としないとも言っていた。その点を確認すると、


「以前伝えた通り奴らは本気で攻めてきてはいない。魔王軍は海の向こうで大苦戦、という点は未だ未確認だが恐らく事実だろう。ただし相手が人間とは限らないが」


 そうだったのか……では一体何者。海の向こうのどういう勢力なのだろう。しかしその点は、


「実は環境に苦戦してるだけかもしれない。まあ観測も出来ていない大陸の話なので正確な情報が入るまでは静観だ」


 環境ね、そういうこともあるのか。じゃあ交易も何も夢物語じゃない。全く。


「現状はまだアルタニアとエストバルでの戦いに過ぎない。今無駄に軍勢を整えても金がかかるだけだ。俺にそんな蓄えはない」


 呆れた。聖王国に支度金を要求したのはある意味本気だったということだったのか。ジト目を向けてやったが勇者は気にもせず語り出した。


「では本題に入る。王女殿下、あなたはこれから責任者となる。その覚悟は出来ているな」

「もちろん、と言いたいところだけど不安は不安よ。だってやったことないもの」

「心配しなくても人材は揃えた。そしてあなたには優秀な片腕となる者が三人以上いる」


 三人……たったの? 誰と誰と誰よ。一人はすぐに思いつくけれど。


「誰を思い浮かべたか言ってみな」

「一人目はアルベルト」

「なるほど。だがアルベルトはアルタニアの騎士で事実上官僚だ。あいつはどんな場でも反対意見を述べる胆力はあるが、側近というよりは部下だな」

「じゃあレイモン」

「それでいい。決断に困ったら王子を頼るといい。ただし一つ問題点がある」


 まさか……地下室と言われた時から嫌な予感がしていた。もしかして、勇者はあの時私が盗み聞きしていた話をするつもりなのでは……。ちょっと待ってと止めようとしたが、


「レイモン殿下は優秀な魔法使いであるがゆえ、常に傍にいるわけではない。軍事部門の責任者としてバリバリ働いていただく」


 杞憂だった。ほっと胸を撫で下ろすがレイをこき使うつもり? レイはまだ子供……でもないか。ある意味私よりしっかりしている。参った、私は自分の人生を諦めていたというのにレイは切り拓いている。

 嘆息したくなる気持ちにもなったが勇者は気に留めず続ける。


「もう一人は当然俺だ」

「そうね。でもあなた、しょっちゅういなくなるわよね」

「まあね。何より俺は社会的存在とは言えない。常識や組織のあり方などもさして考慮しない。皆とは感覚が違うのだ。使い方を誤ると痛い目を見ると覚えておいてくれ」


 言われてみればそうだけれど、意外に自分を客観視しているな。確かに、こいつは恨みを買うことをなんとも思わない。誰が相手であろうがねじ伏せてしまえばいいからだ。私はそうはいかないのに。

 殺戮勇者の使い方か……難しそうだ。


「で、もう一人は誰よ」

「候補として挙がるのはクロウ・レッドフィールドだろう」


 ああ、そう言えばクロウはまだ滞在している。だけどクロウはアルタニアには残らない。それだけは断言出来る。だからこそ、


「クロウは帰国するわ。無理やり引き留めてもそれこそスパイ行為を始めるかもしれないわよ」

「今はそうだろう。あの野郎は俺のことを随分嫌っているようだが、まあ分からなくはない。俺は社会的存在ではないからな」


 それ説明になってないんだけど。


「クロウ・レッドフィールドとはある程度信頼関係があるんだろ? しかし今は難しい。となるとアルドラとオーラン辺りが適任、と言いたいのだが」


 この先は言わずとも理解出来た。アルドラさんもオーランも軍事担当。とするとミネルヴァ女史、もやはり軍事担当。ああ、だからこそクロウの希少性が高くなるのか。


「というわけでもう一人は自力で解決して欲しい」


 人も用意するって言っていたのに責任をぶん投げやがった……。ついさっき三人以上いると言っておいてこれだ。二度と責任をぶん投げられないよう法で縛り付けてやろうかしら。無駄だと分かってはいるけれど。

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