第50話 新体制の始まり
翌日陽が真上に上がる頃合い、玉座の間に今回の戦闘に参加した者の代表者が勢揃いした。今回は私が玉座に座り取り仕切る形になっており、勇者とレイモンが両隣に陣取っている。前回とは違いこれが本当の顔合わせといったところだ。
まず新顔だが、旧アルタニアの王族から第三の王子であるフィリップ・ファルツ・メルン氏、二十四歳が参列。清潔感があり穏やかな目付きを持つ好青年に見える。あの王の子とは思えない。
都市国家クランハントからは前日勇者に意見したヘッセン・ダキテーヌ氏二十九歳が参列。やり手の商人という第一印象とやはり変わらない。
アルタニアの軍事部門からはガステーロ・シャルク将軍閣下が参列した。年齢は三十五歳らしいが若くして将軍職を務めているらしい。武骨を絵に描いたような立派な体躯に日焼けした肌。迫力が感じられる勇ましい御仁だ。小国の将軍閣下には見えないのは、エストマ三国の戦いに参加していた歴戦の強者だからだろう。
その他騎士団の代表もいるが我が故国、聖王国ナルタヤの騎士団は当然参加していない。事情も知らずアリバイ作りで参加し、功績もない者が列席すれば立場上叱責せねばならない。
とりあえず事実上部外者である騎士団には軽く労いの言葉の言葉をかけ、さっさと退室させた。アルベルト曰く各騎士団との向き合い方はあちらの出方次第だそうだ。これは勇者の方針だろう。そして昨夜の勇者の理不尽な強さを目の当たりにすれば敵に回ることは考えにくい。
ここから始まるのは昨夜の労いとサキュバスことアルドラさんの紹介である。清楚系正統派な美女サキュバス、というのは些か矛盾している気もするがアルドラさんは確かに清楚に見えた。艶やかな黒髪は天使の輪を描きまるで育ちの良いご令嬢のように見える。タイトかつシンプルなドレスを着こなす様を見れば特殊な能力を使わずとも男性を魅了出来そうだ。
そしてこのアルドラさんは昨夜大活躍だった。勇者が魔獣を石化しさっさと終わらせてしまったので、私達はアルドラさんがいかに転生者を狩り殺すかを観戦していたのだ。勇者の省エネ、出鱈目な強さに比べればどれだけ分かりやすかったか。
彼女は魔法を駆使する魔法戦士とでも言うべき一面がある。魔法弾を放ち、転生者の間合い飛び込み長剣での一閃。鮮血を浴びる彼女は確かに戦士だった。ただ少し悦に入っていたのは気になった。もしかしたら戦闘狂なのかもしれない。
私は彼女を皆に紹介し、いかに優れた武功を上げたかを力説した。だが皆見ていたので今更である。それでもこれは必要な儀式であり私の仕事なのだ。勇者がやらないので。
アルドラさんは、
「お褒めに預り光栄に存じます。システィーナ様には末永くご愛用いただければと心よりお慕い申しております」
と私への忠誠心を披露した。しかしその表情からは言外に自分は格が違うのだという自負が見て取れる。取りようによっては道具宣言であり女性同士の百合的なものも感じさせるが、誰からもそんな話は聞いていない。仲良くなったら確かめてみよう。
さて問題はここからだ。
旧体制側の功績を認め扱いを決めねばならない。
じっと様子を観察していたが、恐らくガステーロ・シャルク将軍閣下は旧王族への忠誠心を失っていない。しかしフィリップ・ファルツ・メルン第三王子にとってそれは重要でないらしい。
「システィーナ様、我々旧王族の罪は未だ拭えておりません」
そう言った彼はエストマ三国の戦いに参戦する為、
「よって我々をオーラン殿の麾下に加えて下さらないでしょうか?」
前線への配置を希望した。一見殊勝でありがたい申し出に思えるが、これにガステーロ将軍閣下は渋面を浮かべている。「我々」では範囲が広過ぎると考えているのだろう。怨讐ある我が聖王国とは真逆の配置にもなる。これは話し合いが必要な案件だ。
だが名前の出たオーランは夜通しの作業で立ったまま眠ってしまいそうな状態だった。石材と化した魔獣の解体作業は今も続いている。ちなみに本体を城の外に運ぶことはせず、ミネルヴァ女史が魔法で切り刻みその場で石材化した。今は皆補修箇所を確認しつつ作業に当たっている。
仕方なくアルベルトに視線を向けると、
「フィリップ殿、まあそう急くな。人員の配置はこれから決める」
勇者が口を開いた。アルベルトは仮にも旧アルタニアの王族、メルン家に仕えていた経緯がある。すぐに切り替えるのは難しいと判断したか。だが、
「システィーナ殿下、フィリップ殿がそう仰るなら即位の式典においてその旨を発表してはいかがでしょう。今回の政変の内情を知らぬ者にも伝わりやすい」
アルベルトが口を挟んだ。それはそうかもしれないけれど、追い出すようで筋が悪いな。アルベルトは強く出ることで新体制への忠誠心を見せたいのだろう。困り顔でレイモンを確かめると、にこりと笑顔を浮かべた後語り出した。
「フィリップ殿のお気持ちは分かりました」
「レイモン殿下、どうか我々の意を汲んでいただけませんか」
「残念ですがあなた方を前線送りにするのは体裁が悪いのです。そして以降の戦いは複雑を極める。ですのでお控え下さい」
凛として応じるレイモンにフィリップ氏は一瞬戸惑いを覚えたようだが、最後には受け入れてくれた。実際どうするかはいずれ決めることになるだろう。フィリップ氏だけなら望み通りになるかもしれない。