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殺戮勇者の使い方  作者: 文字塚
ナルティア家と王女殿下の秘密
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第49話 殺戮勇者の実力

 転生者が去るのを見守っているとレイが戻ってきた。レイにもかける言葉がない。医学ってあなた、この状況で話さなくてもいいでしょうに。そのレイモンは転生者のことなどお構いなく城内を見回し、


「さあ姉さん魔獣狩りの時間だ。僕もここまで大規模な狩りは初めて観る。なかなかお目にかかれるものじゃないよ」


 なんだかとても楽しそう。無茶を叱りたいのに叱れない。レイは何かが変わってしまった……私が気付いていないどこかで、この子は成長してしまっている。

 振り返ると転生者が絶望を抱え街道に向かい歩き始めていた。敵なのに、私は無力感に苛まれる彼を応援したくなっていた。立場上言葉には出来ないけれど、頑張って、立ち止まらないでと。そんな私に、


「姫君、あまり肩入れせんでもあれは転生者です。勇者と戦い無事死ねば魔法のある戦争という地獄から解放される。あいつにとってここはどこかで夢見た都合のいい異世界物語ではなかった。ただそれを終わらせたかっただけかもしれない」


 オーランは諭すよう言葉を紡いだ後、


「誰かがみせた都合のいい夢、かもしれませんが」


 付け加えた。これは女神への皮肉だろう。ああ、皆踊らされ都合よく搾取されている。身につまされる思いを抱えていると突然地面が揺れた。当然地震ではなく巨大な魔獣が暴れ出したのだ。それから突然、


『王女殿下聴こえるか。今から魔獣狩りを行う。ルナリアの歴史において魔族の魔獣化能力は実に厄介なものだった。既に過去の技術だが今でも使う奴はいる。でまあご覧の通り非常にでかいのも含まれる。しかし残念ながら飛び道具全盛の今ではただ的がでかくなっただけ、とまあそれをご覧いただくことになるだろう』


 勇者の長広舌な説明が入った。どこからと思ったらオーランが四角い箱を取り出し、


「こちらは通信機と呼ばれるものです。音声での会話を可能とするものとお考えあれ。異世界の電波とは異なり短距離の魔力通信ですが既に戦場でも使われています。傍受されない特殊な技術も開発中です」


 そうなんだ、知らないことだらけだ。そして私は今、感傷に浸っている場合ではない。あの勇者が戦うのだ。しかも相手は魔獣と化した化け物。人殺しでないなら心の負担は軽い。


「話しかけてもいいのですか?」

『聴こえてるが話しかけないで普通に会話してりゃいい』

「分かりました」


 素直に応じハランドも含めた四人で顔を見合わせる。ハランドもここに残るようだ。

 視線を戦場から狩り場へと移った城内に戻す。城壁よりも大きな怪物は居館を傷つけ建物を踏み潰そうとしていた。複数いるが全部で何体いるのだろう。


『ではまず一番でかいのから仕留める。ちょっと暴れすぎだな。城が壊れてしまう』


 なるほど。だけど勇者は今どこなのだろう。皆の視線をたどると居館横手にいる怪物の足元へと行きつき、そこで勇者は今正に怪物に踏み潰されようとしていた。だけど、


『これはキメラ種と呼ばれるものだが出来損ないだな。つまり名前の存在しない怪物だ。魔族は魔獣と近しい者もいるが残念ながら純粋な魔獣にはなれない』


 呑気に解説してみせた勇者はその怪物を、


『サイズが大きいので石化する。後で石材として活用しよう。城内の修理に当てるといい』


 一瞬にして石化した。名前も存在しない怪物から生命感が完全に消え失せている。こんな化け物を石化してしまうなんて圧倒的過ぎて引くんですけど……。なるほど、持ち帰った転生者もこうして石化されたのね。


「大き過ぎる物は質の高い石材とはなりません。そんなことが出来たら生物を石化、或いは鉱物化する錬金術となってしまうので」


 まるで学者のよう述べるオーランの言葉に素直に頷く。しかしそう言われると実は出来るのでは? という疑念を持ってしまうんだけど。嫌だな、元は魔獣だった宝石とか……。


『後は中型が五匹に小型が二十。雑魚ばかりか、仕方ない。ちなみに転生者はサキュバスに仕留めさせる。どうせ素人ばかりだ。無能な初心者はさっさと転生して動画配信でも観てればいいんだ。ビーオーディーだっけか』

「ブイオーディーだね」


 レイモンが訂正すると『そうだった』と勇者から返事があった。オーランはともかくハランドまで苦笑する始末だが、私にはそれがなんなのかさっぱり分からない。

 その時、空に向かい閃光が走り皆の視線が東の城壁へと向けられた。オーランが箱に向けて話しかける。


「勇者、皆撤退完了だ。将軍閣下の部隊含め皆城壁内に避難させた。信号弾の合図が見えただろう」

『知ってるし信号弾の無駄使いだな』

「皆に知らさせる為だ。なんでもかんでも自分基準で考えるな」

『そう怒るな』


 勇者の返事にオーランはかぶりを振ったが、


「先の説明通り勇者は長距離範囲型です。このアルタニア城の全てを把握している。ですのでまあ、こいつの言ってることは正しい」


 そうなんだ。レイは知っていたと言わんばかりに頷き、私の傍に立ち万が一に備えるハランドはなんの反応も見せなかった。


『よし、面倒なので全員石化した後破壊する。オーラン後始末よろしく頼むぞ』


 やっぱり石化なのか。これらは地の魔法のはず。勇者は地の属性と相性がいい? オーランが返事を返そうとした時には、


『終わったぞ。では俺は寝るので後始末よろしく頼む』


 終わったらしい……。三人はなんとも思わないようだけど、なんなのこの反則級の強さは。呆然とする私に対しオーランはうんざりした表情で、


「あのでかいのどうすんだよ。後始末よろしくって、一旦城外に出して解体しないといけないじゃないか。姫君、夜間手当を要求します」


 まだ責任者ではない私にそう告げた。仕方なく頷く。おいくらか知らないけれど払うしかない。アルタニアの国庫はいずれ私の懐具合と直結するけれど切符のいいところをみせないと。と、よく分からない自負だけは芽生えていた。

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