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殺戮勇者の使い方  作者: 文字塚
ナルティア家と王女殿下の秘密
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第47話 転生者2

 勇者の言に転生者は怒りを覚えたらしい。勇者の言葉を言い換えるなら「知らない、対応しない」と言ったも同然なのだから。態度こそいつもの勇者ではあるけれど転生者を見逃すということ?

 疑問を覚えオーランに視線を向けると、そのオーランはどこまでも冷めた目を転生者に向けていた。それから私を一瞥した彼は、


「ウェンヴェールの兵装、勇者がここにいると知っていた発言。これを勘案するとウェンヴェールに飼われている転生者と思われます。そして勇者の様子から察するにこいつは女神の影響を受けていない」


 状況を説明してくれた。そうか、彼は転生者ではあるが必ずしも敵ではない。女神の影響……転生者を敵とするかの一つの条件。勇者はどこまでも女神を敵視している。それはそうだ、


「女神が転生者を送り込んでこなければこんなことにはなっていない。勇者はそう考えている」

「奴の考えはそうです。転生者を狩り殺すのは事実ですがあくまで敵とみなした者のみ。もちろん我々やこの世界にとって不都合という理由で殺すこともありますが、必要だからそうしているんですよ。例外は勇者に挑む命知らずなどでしょう」


 私が吐露した思いををオーランは丁寧に拾い上げた。改めて二人を見ると立場の違いからくる対立でしかないと思えてきた。そして転生者は再び口を開いた。


「皆いいように利用されているだけだ。女神の恩寵が得られれば更なる転生ボーナスがもらえると信じ込んでいる」

「立派な転生女神信仰じゃないか。敬虔な信徒だな」


 敬虔という言葉を聞くとなんだか胸が痛い。私とて身を守る為ジョルダード教の教えに縋りついていたのだから。


「君は話し合いに来たつもりかもしれないが俺は忙しいんだ。今から寝なければならない。睡眠の重要性は日本でも変わらんだろう」


 勇者がそうして話を終わらせようとした時だった。


「そうか――では死ね」


 転生者の言葉と共に乾いた音が聴こえた。見れば転生者は手に何か持っており、すぐに小型の拳銃と察する。しかし勇者の様子に変わりはない。


「だから銃は意味がないと、なんで分からないかね」


 オーランは呆れるよう呟いたが、


「なるほど、お前の狙いはこれか」

「抜かったな殺戮の勇者」


 その銃声を機に城内は一変した。

 突然の轟音に振り向くと複数の巨大な影、魔獣が出現していた。

 魔族はともかく魔獣なんていなかったはず!

 どういうこと、これがあの転生者の狙いで力だというの?

 オーランにとっても想定外だったらしく彼は歯噛みし状況を確認した後声を上げた。


「ハランド、いるか」

「ここに」


 陰から私の護衛であるハランドが現れた。気配もなく待機していたのか。彼に対しオーランは、


「ミネルヴァ殿に一応お知らせしろ。それと俺の部隊にも準備させろ。後アルベルトを連れて来い。万が一に備える」

「アルベルト様はお眠りになっていますが?」

「いいから叩き起こせ!」


 声を荒げるオーランに従いハランドは颯爽と去る。そんな彼に意見したのは意外にもレイモンだった。


「オーラン、そんなに慌てる状況かな?」

「王子、忠誠心の程を測るのに魔獣狩りは向きません。あの野郎他にも何か策を講じている筈だ」


 オーランは怒りの眼差しを転生者に向け私もまた二人を確かめた。だが勇者に心の乱れは見られない。


「なるほど、お前はここで俺を足止めして仲間を助けるということか」


 転生者は応じず黙り込んでいるが勇者は続ける。


「お前の目的は仲間を助けつつこちらにダメージを与えることと。だがそんなことをすればどうなるか分かるはずだ」


 勇者のそれは脅し文句ではあるが冷静な分析にも思える。一連の戦いは明確な戦争行為であり、誘引されたとはいえ敵方は戦闘を目的としてやってきた。だが勇者やオーランにとってはただのテストであり、旧体制に対する通過儀礼に過ぎなかった。その予定が狂ったのだ。


「そして君は一つ大きな間違いを犯している。仲間の転生者に対し能力上昇、バフをかけたな。これでは戦意が増すだけだ」


 能力上昇……この転生者はそんなことも出来るというの。


「事実を告げてやる、意味がないので早く帰りたまえ。楽しそうなので俺は城内に戻るが君はすべきことはした。後は各人の判断だ」


 そうして勇者が踵を返そうとした時だった。

 銃声が連なり爆発音が鳴り響いた――

 思わず耳を塞ぎ屈み込むが二人は全く動じていない。恐る恐る城門前の二人を確かめると転生者の様子が明らかに変わっていた。彼の周囲に何かが存在する。それは配置されたかのようであり、浮き上がっているものもあった。


「銃器に軽機関銃。小型だが迫撃砲まで隠し持っていたのか」


 オーランが冷静に分析しレイモンと視線を合わせている。そうしてレイモンが簡潔な感想を述べた。


「やっぱり意味がないですね」

「どうして? 銃弾はどこに行ったの?」


 私の問いにオーランは、


「当たりません。今回は風魔法の応用になりますが、弾速が速すぎるものはそもそも勇者に当たらんのです」


 どういうこと?


「物によりますが弾丸は音速を超える。これらはあらかじめ仕込まれた風魔法に察知され阻止されるんです。ここで我々が安穏としていることも同様ですが、奴は長距離範囲型のスキルを持っている。というか銃器はルナリアの戦争に向かない。異世界と違いこちらには魔法があるので」


 説明されても分からないけれど、とにかく弾は逸れたということなのね。そして流れ弾はこちらにも飛んできていない。魔法凄い。私も少しなら使えるのだけれど。

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