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殺戮勇者の使い方  作者: 文字塚
ナルティア家と王女殿下の秘密
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第46話 転生者

 オーランは当然の如しと頷いた。


「そうなりますね。予兆があればともかくいつ誰が裏切るかなど分かるわけがないので、今回はいい機会として利用させていただきました」

「アルタニアの政変を望まぬ国内の者達を一掃する為に、あなた達はエストマ三国と魔族や転生者側であるウェンヴェール国すら利用したのですね」

「少し違いますがまあそれで構いません」


 オーランはよしとするがそれは困る。彼の言う少しの違いを確かめると、オーランは勇者を一瞥してた後問題なしと判断したらしく説明し始めた。


「ウェンヴェール国は南ルナリア北西の中部に位置する中堅国家。エストマ三国とは国境を接していません」

「それは知っています」

「で、今は交戦国となっていますが実情は複雑です」


 またか……呆れて溜め息が出そうだった。魔族や転生者が聖王国に手を伸ばしたよう、勇者達はウェンヴェール国と話を付けているのだろう。ただし、どのような約束かは知らないがそんなものいつだって反故に出来る。何よりウェンヴェールの最高責任者がこちら側とは限らない。アルタニアのよう首が挿げ替えられる可能性だってある。

 しばし思案した後、


「あの、これは物凄く高度な機密ですよね?」

「そうですがここにいるのは姫君とその弟君。何か問題でも?」


 オーランの態度が変わり過ぎだ。「使えるのか?」と、あれだけ私のことを邪険にしておいて……ってまあ状況が変わったから当然なのだけれど。


「ちょいといいかな」


 遠慮など一つも見せなかった勇者はそう断ってから続けた。


「裏切る裏切らないは重要ではないのだ。状況が変われば勝ち馬に乗るのはごく自然なこと。情報戦、調略の手を伸ばすのはお互い様。だからウェンヴェールどうこうは機密には当たらない」


 これを聞きオーランは、


「だそうです。ということなので、即位の式典でウェンヴェール国は仲間かもしれないが敵かもしれない、とお話しになっても問題はないでしょう」


 そんなこと言えるわけないでしょう。やはり機密とするのが妥当なのだ。勇者の言い分は機密とは関係のない各国の思惑と生存戦略の一般論でしかない。全く、二人共ふざけないで欲しい。空しい願いと分かってはいるのだけれど。

 うんざりしているとオーランはやはり苦笑交じりで続けた。


「戦闘の終結の見通しですが実は少し厄介なことになりました。転生者と魔族まで来てしまったので。アルタニア主要部隊に対応させていますが、逃げられては困るので状況次第では我々が対応します。一人も逃しませんのでご安心を」


 なるほどと頷く。オーラン麾下の部隊もアルタニア城に隠れているのか。今前線にいる者はともかく労いの言葉をかけねば。何事もなく無事終わればいいのだけれど。

 その時だった――


「勇者よ! どこに隠れている! 正々堂々相手をしろ!」


 戦闘の続くアルタニア城内に怒声が響き渡ったのは。なんという声量だ。何より勇者がここにいると知っている。オーランもレイモンも驚いたらしく、声の主を捜すよう周囲を見渡している。しかしすぐ、


「王女殿下を城門の特等席にお連れしろ。アルタニア城は三方が崖になっている。殺るなら城門の前が一番広い」


 勇者は抑揚なくそう告げた。


 ――アルタニア城の城門前で二人の男が向き合っていた。

 一人は勇者で、城門を背にいつもの如く気だるげに突っ立っている。もう一方は、


「転生者か。ここに勇者がいると知ってなぜ来た? 仲間を助けるつもりか?」


 オーランの言葉によるとどうやら転生者らしい。異世界日本という国から転生したという私達の敵。しかし城門の上部、見晴らしのいい特等席から見えるのは一人の青年だ。やや遠目だが二十代半ば頃だろうか。ウェンヴェールの傷ついた兵装をまとい、確かに気迫は感じられるがとても戦士には見えない。あの石化した転生者もそうだけれど我々南ルナリアの民、一般人と何が違うというの? レイモンも怪訝な表情で状況を見守っている。


「何か用かね日本人」


 勇者が先んじ口を開くと、


「お前が殺戮の勇者か。貴様皆をどうするつもりだ」


 意外な台詞と一瞬戸惑いかけたが、オーランの言う通りということ? 経緯はともあれここまでしたのだ、彼らが見逃すはずないのに。


「どうってお前、皆さんシスティーナ、レイモン両殿下に用があるらしいので丁寧にお断りしているだけだ」

「魔族はいざ知らずこの世界に来たばかりの転生者を殺すと、そう言うんだな」


 青年の表情から憤りが見て取れる。どうして、オーラン達の策とはいえあなた達が私達二人を標的にしたのでしょう? どうして怒ることが出来るの?


「魔族はいざ知らずなんて言うんだね」


 レイモンが零すとオーランは視線だけをレイに向けた。


「魔族と転生者の利害は必ずしも一致しません。特にこの南ルナリアにおいては」


 北ルナリアとの違い。それはそうか、既に陥落したという北ルナリアと異なり南ルナリアは侵攻の真っ只中にある。勇者の表情は見えないが彼は応じる。


「それが用件ならお門違いなのでさっさと帰れ。お前にも家族や友人はいるだろう。はよ帰って寝ろ」


 帰れ? あれ、どういうこと?

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