第43話 城内の戦い
勇者の話はひと段落ついたらしく、
「これが気になるかね」
と彼は眼下の戦闘を一瞥した。当然と首肯する。不自然かつ不思議なこの状況は一体どういう仕組みだというの。
「ここには誰も来れない。そういう技術と考えてくれ。効果の程は見ての通り。では戦況の報告、というか情勢も含め説明してやってくれオーラン」
勇者の言葉に応じオーランが改めて私に頷いてみせた。私も頷き技術とやらはともかく彼と向き合う。戦場はここアルタニア城。勇者達の策にハマった敵方がのこのこやってきたということは理解しているのだけれど。
「オーラン、あなたにはお手数をおかけします。休みもなく働きづめかもしれませんが申し訳ありません」
頭を下げると付き合うようオーランも頭を下げてみせた。苦笑交じりだが彼とはまだ信頼関係を築けていない。そんな彼は気負いも緊迫感もなく戦場と化したアルタニア城内に視線を向けた。
「ご丁寧にどうも。ではまず戦闘の目的を。見ての通り馬鹿共が釣れたのでここで一網打尽にします」
頷きレイも含め三人で連絡橋から地上を確かめる。改めて見ると人が多い。アルタニアの兵士は散々見てきたので分かるがそれ以外にも戦っている者がいる。
「こちらの戦力から説明致します。まずはアルタニアの精鋭部隊。アルタニア王国騎士団、そして正規部隊。兵団を率いるのは将軍閣下です」
アルタニアの将軍閣下とはまだ顔を合わせていない。内務の者ばかりと挨拶していた。どこにいるのか分からないが将軍閣下にまで旧体制は見限られたのか。
「続いて旧アルタニア王族の皆様」
「はい?」
思わず間の抜けた声を出してしまった。旧の王族って、あの広場に連行されていた? えっと、牢にいたとクロウは言っていたのだけれど……。私の戸惑いにオーランは肩を竦め笑みを浮かべた。
「アルタニア王族の皆さんは失地回復せねばなりません。経緯は追々話すとして先王の失策を止められなかった。ですので皆さん張り切ってらっしゃいます。逃げ出し裏切った馬鹿共はもちろんここにいませんが青いマントに剣が二振り描かれた紋章、あの集団が旧王族が率いる部隊ですね」
へー。確かに使えるものはなんでも使うのが勇者の方針ですものね。で、失地回復したらどうするんだろう。疑問が顔に出ていたのだろう、オーランが拾い上げる。
「結果を出せばシスティーナ様の部下となります」
「そうですか」
元統治者の一族とかやり辛い……凄くやり辛いと思う。私の不安や杞憂など気に留めずオーランは続ける。
「続けて各騎士団の皆様。今回のクーデターには参加していないし、戦争にも参加していないのでここが見せ場ですね。ジョルダード教会系の神殿騎士団、聖ルナリア教会系の教会騎士団、そして中立気取りの病院騎士団。あと一部聖王国の騎士団もいるようです」
「我が国の騎士団も参加しているの?」
オーランはこちらも確かめず頷いた。
「彼らも聖王国の意図は当然知っているでしょうが成り行きで参加されたのでしょう。しかしアルタニアにいる聖王国の騎士はそもそも数が少ない。今回のクーデターなど全く聞いておらず事情も知らないので一応一部だけ参加させたのでしょう」
アリバイ作りということね。さすが我が母国の騎士団、妥当と言わざるを得ない。さすが我が母国せこい。捨てて正解だった。
「さて敵方の紹介。どうやら転生者が何人か釣れたようですね」
「本当? 転生者って手強いのではなかったの?」
「いえ、手強い奴はそもそもここに来ません」
そうですね。というか、やっぱり勇者がいるのにどうして襲撃などしようと思ったのだろう。察しのいい彼はその点も説明し始めた。
「転生者には強いブランド力があるんですよ。南ルナリアにおいてはそうでもありませんが、北ルナリアでは圧倒的らしい。転生者が幾人か参加すればこれはいけると周囲は判断してしまうんでしょう。いいデータが取れました」
ああ、なんて可哀想な。転生者狩りの専門家である勇者なら今そこで欠伸してるのに。
「前もって勇者はこの城にいないと情報を流してあります。夕刻には首都に移り俺と戦勝祝いをしているとあらかじめ偽の情報をばらまきました。もちろんさり気なく」
周到、なんて策士。勇者もオーランも仲間でよかった。私達ずっ友だよ! と、冗談を口にしていい状況ではないだろう。勇者はともかくオーランには後で伝えよう。首都防衛を任された彼は司令官なのでいずれ正式に挨拶するのは当たり前なのだけれど。しかし私も随分余裕がある。すぐそこで起きている戦闘が他人事であるかのような状況がそうさせるのだろう。本当に一体どういう仕組みなのだろう。まあいいとオーランに先を促す。
「次に東西エスターナの代表団の皆々様」
「え……あの、彼らは降伏したのではないの?」
「本心としては降伏したくなかったんでしょう。どさくさに紛れてめっちゃ攻撃してきてますね。お気の毒です」
なるほど気の毒過ぎる。私より気の毒な人はそういないと思っていたのに。
「更に魔族の一部。それと敵国、ウェンヴェール国の正規兵。銃をぶっ放してる奴らですね。それと傭兵団の連中が紛れてます。まあいいでしょう、皆殺しです」
オーランはあっさり言うけど……なんだろう、今眼下で繰り広げられてるこれってやっぱり大釣り堀大会みたいな戦いなんだ。これのどこが本物の戦争なんだろう……私には分からないぞ。