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殺戮勇者の使い方  作者: 文字塚
ナルティア家と王女殿下の秘密
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第41話 殺戮勇者の回答4

 困惑は深まるけれど、この一連のやり取りは情報の提供であり勇者からの教育でもある。その勇者は落ち着き払い続ける。


「システィーナ殿下はナルティア本家に居場所がなかった。となればいずれ教会に払い下げ。もしくはナルディニア地域にあるご身内の衛生国家の末席に据えられる。とまあそういう嫌がらせを受け続けた」


 確かに、よく調べ上げたものだ。相当協力者がいるな。レイモンに視線を向けるとそのレイモンは勇者に真剣な眼差しを向けていた。レイにとっても初めての話が多いのだろう。


「殿下は身を守る為信仰に頼った。それがただ教会を利用する為なら問題はない。が、残念そうはいかなかった。ちょっと本気で信じてしまいましたね」


 応じるのも躊躇われる。だけどそうはいかない。自分を強く持たねばと言葉にする。


「私はいずれ教会に送られる。そういう運命だと思っていたわ」

「しかし今ここにいる」

「ええ」


 私は実家を捨てたのだ。しかし身を守る為に学んだ信仰心はどうだろう。そこまで考えが及ばず私はここに来てしまった。勇者は私の様子を確認し更に続ける。


「先に述べた通りナルティア家の人間はジョルダード教にとって怨敵です。教会送りとなれば元王族派と教皇派の派閥争いに巻き込まれるはずだった。予定が狂いましたね」


 あなたのせいですけど、と内心だけで呟くが実際口にも出来そうだ。どうやら余裕が出てきたらしい。いや、勇者がそうし向けたのだ。予定が狂いましたね、と。その勇者は真摯に私を見ていた。


「システィーナ殿下、その信仰心形だけでいいので今しばらく維持していただけませんか」


 なるほど話が見えてきた。これが彼らの本性なのだ。相変わらずの調子で続ける勇者に私はあえて告げる。


「とりあえずその話し方やめて下さいますか。私はあなたと対等の立場で話したいと考えています。今はとても無理だと承知していますが、私はあなた達を信頼したいし、もうしています」


 今は仕方ないけれどいつかきっと対等に話せる日がくる。そう信じたからこそ私はここにいる。クロウと共に去ることだって出来たというのに。

 私の主張を聞いた勇者は苦笑交じりで応じた。


「失礼。俺に歴史の講義なんて向いてないものでね。殺しと女の話ならいくらでもするんだがご実家の話なんで困ったんだ。と言ってオーランやアルベルトに押し付けるわけにもいかない」


 妙なところだけ真面目な奴だ。けれど女と殺しの話って話題が偏り過ぎだわ。可笑しくてつい笑ってしまうとレイもほっとしたらしい。こちらも苦笑交じりだがそれでも笑顔を見せている。

 彼の言う通りだ。私は第五王女として慎ましく生きてきた。いっそ貴族家のご令嬢の方が贅沢な暮らしをしていたと断言してもいい。ナルティア家とはなんなのか、それを知っていれば我が国の王族になりたい者など限られるだろう。

 怒声飛び交い銃声が鳴り響く中、一陣の風が頬と髪を撫でた。

 私を求める悪魔、いや悪魔とされている存在か。

 ――なるほど面白い。

 意を決し私から話し出す。


「ナルティア家の血縁者は絶対に聖魔法が使える。これは間違いありません」

「だろうね。ただし程度の差がある」

「そうなります。私は向いていないと教育されてきました」

「教会送りになる可能性がある王族に聖魔法は必要ないものな」


 そう、危険な技術を身につけられては困るのだ。しかし敵対するジョルダード教に送り込まれる王族は実在する。第五王女の私は姉達が無事なら自分なのだろうと覚悟を決めていた。我々の兄弟姉妹はまだ誰一人としてジョルダード教会に送られていないのだから。ただ王族として生きる人生ではないと考えていた。どこかに嫁ぐならとっくに話は来ていいはずだった。でもそんな話は来ない。であるならば……。


「ずっとジョルダード教に帰依し、教会の内部での出世争いという穏やかな牢獄生活を送るのだと思っていました。なのに私はここにいる」


 冷たい牢獄。教会に入るということは恋愛や結婚、出産は当然許されない。対立する勢力に送られ実家の為という名目で信じられる友人もなく惨めに老い朽ちる。そういう運命なのだと教育され信じ込んできた。だけれど私はそんな人生から解放されそうして今目の前にこの男がいる。

 地上では相変わらず戦闘が続きやはり時折銃声も鳴り響いているのだけれど、誰も我々に気を留めない。どういうことだろう。そんな思考を押し退けるよう勇者が割ってきた。


「まあその可能性はゼロになったのでその知識だけ使えばいい。ジョルダード教とて使いようはある」

「でもあなた以前教会の連中は皆殺しって言っていたわよね」


 気持ちを切り替えずいと前に出ると、


「だから真に受けるな」


 小馬鹿にするような文言と視線。だけれどそうね、そもそもアルタニアの王族もまだ無事だし、裏切った東西エスターナの代表団までここに来てしまっている。アルベルトもオーランもだけれど彼らはこういう人達なのだ。彼らは常に覚悟を携えつつ、


「実際は意味のない殺しはしない、ということなのね」


 私の言葉に勇者は当たり前だろうと皮肉な笑みを湛えてみせた。全く呆れるしかない。言い換えるなら彼は「意味があると判断した殺しのみ」で殺戮勇者と呼ばれるようになったのだから。まあ濡れ衣もたくさんありそうだけど自業自得でしょう。

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