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殺戮勇者の使い方  作者: 文字塚
1章 殺戮勇者とアルタニア
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第4話 街道

 馬車に揺られながら、私は不安に苛まれていた。

 勇者の提案にはかなりの不安要素がある。

 旨い話に裏があるのは世の常だ。


 挙げればキリはないがまず、傀儡に仕立て上げるつもりではないか、という疑念。

 これは優しい方だ。傀儡から本物になればいい。後ろから刺すことぐらい、王族の(たしな)みと言っていいだろう。


 次はただ人質に取られるだけではないのか、というものだ。

 こんな間抜け、前代未聞を通り越して誰も助けに来てくれない。

 ただし、説得に向かったと言い繕うことは出来るかもしれない。馬鹿の汚名は免れないが、馬鹿正直過ぎたと強弁する道は微かに残る。


 三つ目はそもそも本当に勇者からの手紙だったのか? という点だ。これが嘘なら空手形どころの話ではない。


 だから今、勇者が発したという手紙を取り寄せ必死に解析している。筆跡は一致するのか、と。

 レイモンが小声で囁く。


「姉様、たぶん本物だ。こんな癖字そうお目にかかれない」

「だから不安なのよ。偽物も作りやすいわ」

「誰がなんのために?」


 ……確かに、私達なんていてもいなくても変わりない。恨みから騙そうとした、なんて空想染みている。恨みを買うことはあっても、その者が勇者の行動を読むか知っていなければ話にならない。

 或いは繋がりを持つ者。

 でなければアルタニア強奪など思いもよらないだろう。


 馬車は走り続ける。

 今は聖王国ナルタヤから、都市国家ラウルへと向かっていた。

 丁度聖王国とアルタニアの中間地点にある。

 吉と出るか凶と出るかさっぱり分からない。まずラウルにて情報収集に努める。判断はそれからだ。


 王族が王都を離れるとなれば、相応の理由が必要である。レイモンの見識を広めるため、というなんとも冴えない理由を繕ってみたが、あっさり承諾された。

 兄の許可だが、陛下に判断を仰ぐほどではない。

 私達は所詮その程度なのだ。


 出立の許可は下りたが御者を務める者が必要で、護衛も必要だった。身の回りの世話をする者も同様だ。


「油断出来ない行路ですねー。まあ私がいれば例の勇者とやらが出ても、殿下に指一本触れさせませんが」


 貧乏貴族の次男坊はそう言って笑う。

 御者を務める彼の名はクロウ。一応信頼しているが、使える人間過ぎても困る。事を察すれば止めに入るかもしれない。だから彼が選ばれた。年は二十歳を過ぎていて、私達よりは年上だ。なのに未だふらふらと生きている。


「クロウは勇者を見たことがあるの?」

「ありますよ」


 いともあっさり応じるものだから、警戒心が消え失せそうになった。


「そう。どんな印象だったかしら。戦争を起こしたのよね」

「起こしたというか、もう勝ったらしいですよ」

「アルタニアはどうなるかしら?」

「さあ。我が聖王国も同盟の端くれ、救援に向かう価値があれば出ざるを得ないでしょう」


 つまり価値がなければお父様は動かない。

 兄達はどうだろう? 得体の知れぬ勇者と黒魔術、ミスを犯せば今後に障る。

 となれば騎士団と教会の出方次第か。

 ――彼が端くれと表したことも見逃せない。


「怖いわ。そんなに狂暴な人だったの?」

「無礼な奴ではありましたね」

「無礼?」


 私のレイモンをお前呼ばわりした、これだけで充分無礼だ。けじめをつけねばならないとは思っている。しかしどうやって? 私は無力だ。


「何かしでかしたの? 何も聞いていないわ」

「ははっ」


 顔は見えないがクロウは笑っている。なんとも可笑しいといった風だ。


「野郎、支度金が足りないと抜かしやがったんですよ」

「支度金……」


 任命の儀式から出立の式典。その際、魔王及び魔族討伐の支度金ぐらいは用意されただろう。数合わせに貧乏貴族が出席するぐらいだ、期待のほどが知れる。


「いくらだったのかしら」

「一万シルバーです」

「うん……充分に思えるけど」

「ですね、ゴールドなら千。国は買えないが町なら買える値段ですよ。あいつ、戦費に使ったんじゃないですかね」


 冗談じゃない。なぜ国庫から出た資金が、対アルタニア戦線で使われるの。と、私が憤るのはもうおかしいかもしれない。


「それで足りないとなったら、一体いくら必要と言うの」

「ですねえ。野郎、十万ゴールド寄越せと抜かしてましたよ」

「は? なんの実績もないのに!?」


 思わず声を荒げたが、クロウが訂正した。


「実績はあるらしいですよ。怪物をぶち殺して成り上がった野郎なんで」

「そう、そうなのね」

「俺は見てませんが、冒険者ギルドに証拠でもあるんでしょう。うちはそこまでザルじゃありません」


 だとしてなぜアルタニアなのだろう。

 なぜ私達なの?

 拭えぬ不安にレイモンが微笑を浮かべる。


「姉様、大丈夫だよきっと」

「そうだといいのだけれど……」

「僕がいる。大丈夫」

「ありがとうレイ」


 思わず顔が赤くなる。レイはこんなこと言う子じゃなかったのに。


「あ、そう。姉様とか殿下とか、以降禁止でお願いします」


 クロウの呑気な声に水を差された。

 でも正しい。まともな護衛は彼を含め少ない。今はただその言を受け入れるしかない。


「なんて呼べばいいかしら?」

「お上品過ぎなければなんでも。俺はクロウで構いません」

「僕はいつも通りレイで問題ないよ。姉様の呼び方に気をつけないとね」

「ですね! 間違いない!」


 クロウの無駄な元気さが、暗い道中を明るくしてくれる。仕方ない、姉さんとでも呼ばせるか。

 ふっとそんな考えが浮かび思わず笑みが零れる。


 街道は真っ直ぐ都市国家ラウルへと続いていた。

・金銀の価値

現在銀は、金の1/10の価値。

1万シルバー=1000ゴールド=約1億円。

10万ゴールドは100億ぐらい。

王国や教会が、勇者をどのランクの冒険者と評価しているかが、焦点。

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