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殺戮勇者の使い方  作者: 文字塚
ナルティア家と王女殿下の秘密
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第38話 殺戮勇者の回答

 アルタニア城に夜が訪れる。

 アルタニアの元王族、姫君を救おうとした騎士は未だ地下に立てこもり、南方の魔法使いミネルヴァは勇者とまだ面会も出来ていないがこちらの説得に応じ未だ城内で待たされている。サキュバスがどうなったかは知らない。

 夜も更けアルタニア城にぽつりとぽつりと松明が灯されるがそれで暗闇を払うことは出来ない。城内に至っては真っ暗闇だ。私もまた暗がりでレイモン、そして護衛達と息を潜めていた。どれぐらい待っただろうか。突然わっと声が上がった。人が駆けていく足音が聴こえ、城内で騒ぎが起き始めたのが把握出来た。どうやら始まったらしい。

 勇者は言った。


 ――ここからが本物の戦争である、と。


 殺戮の勇者が迎撃した西エスターナには魔族の他に転生者がいた。奴はそれを捕縛しアルタニア軍はそれを持ち帰ってしまった。そして次に東エスターナに向かい更に転生者と対峙。だがその転生者は逃げてしまったらしい。殺戮勇者の行動が予想よりも早く引き返したのだろう。

 そして今アルタニア城では戦闘が始まっている。耳を澄ましていると突然扉が開いた。


「おう、王女殿下。始まったので観戦に行くぞ」


 そこにいたのは当の本人、殺戮の勇者で彼はまるであっけらかんとしたものだった。

 小部屋から護衛達が去り私はレイモンと共に勇者の後ろをついていく。城と城壁を繋ぐ連絡橋に誘導され私達はそこで立ち止まった。眺めのいい場所だ。死角はあるが広くアルタニア城内を見渡すことが出来た。


「システィーナ殿下、これが我々の戦争だ」


 勇者はそう言って日常風景を眺めるよう地上を見ている。現実と彼の態度の落差が激し過ぎて、あらかじめ説明を受けていなければどう受け止めていいのか分からなかったろう。戦闘は確かに起きている。アルタニア城の兵士と敵が戦っているのは間違いない。


「わざと引き入れたのね」

「そうなるね」

「本当に私達は戦わなくていいのね。皆は戦っているのでしょう?」

「必要ない。観てればいい」


 興味を失ったのか勇者は夜空に視線を向けている。

 勇者達は策を弄した。アルタニア城は侵入しやすい城であり警備だとさり気なく宣伝し敵方をおびき寄せたのだ。でもおかしい、殺戮の勇者がいる城をわざわざ襲撃するだろうか。今私達が部外者のよう見守っていることとて不自然である。


「さて、忙しかったので説明出来てないことがたくさんありそうだ。色々と知りたいだろう。なんでも聞いてくれ」


 勇者は伸びをして壁に身体を預けてみせた。なんでそんなにダルそうなの……。まあいいとすぐに頭を切り替える。彼らと向き合い付き合い続けるというのはこういうことなのだから。

 しかし知りたいことか。知らないことは山ほどあり知りたいことも唸る程ある。今までの自分なら迷いそうなものだが何から聞けばいいのか私はもう決めていた。クロウ・レッドフィールドと主従の別れを告げたあの時から。意を決し告げる。


「勇者、あなたはなぜ私を担ぎ出したの」


 怒声飛び交い金属音と銃声が鳴り響く中勇者は一つ間を置いた後応じた。


「そこから?」


 呆れた顔を向けられ少し傷つく。私なりに答えは持っている。クロウにも告げた。こいつは何も持たない私に目を付けたのだと。だが違う。私はクロウに意図して嘘をついた。

 そう、アルベルト・タランザが「負けと決まったこのルナリアの大戦」と評したように。


「私なりに考えました。答えもあります。しかしどうやってそれを知ったのです?」

「聖魔法のことなら冒険者ギルド、騎士団上層部は当然知っている。ナルディニア地域の諸国家群も同様。わざわざ調べるまでもなかったよ」


 特段思うところはない。彼の表情はそう物語っていた。

 聖王国ナルタヤ、ナルティア家の秘密をこいつは知った。聖魔法はナルティア家の人間にしか使えない特殊性を帯びている。それは南ルナリアで最大の勢力を誇る、ジョルダード教が秘匿する古代魔術すら上回る万能性を有している。

 そしてこいつは陰ながら聖魔法の使い手として頭角を現し始めていたレイモンに目をつけた。私も知らなかったということはレイも我が身の為隠していたのだろう。ここまでは容易に想像出来る。しかし私となれば話は変わる。確かにささやかな聖魔法なら使えるだろう。我が一族ならば程度はともかく誰しも使えはする。だが私はレイや他の兄姉達のよう使いこなせるわけではない。


 ――シンボル。


 私は最初そう考えた。ナルティア家の正統な血を持つ「若き神輿」として必要とされたのだと。だが違う。であるなら「私である必要がない」のだ。歴史的に、そして現実問題としてルナリア各国の最高責任者に最も必要な条件とは何か。それは、


「私はとても暗殺され辛い。そのような素養がありましたか」

「ほう、薄々勘付いていたか」


 勇者は目を細め素直に感心するかのような言葉を発した。

 やはりその点だったか――

 歴史的に見てもそうだがルナリアにおいて王、そして最高責任者たる者は安易に暗殺されてはならず、またそう思われてもいけない。これが異世界との決定的な違いだろう。レイに確認したけれどあちらには魔法がないらしい。聞けば武力は道具に依存し個人に求めるものではないそうだ。想像するまでもなく暗殺が容易な世界と言って差し支えないだろう。魔法が使えない者は南ルナリアにも当然存在するのだから。

 そして自ら違和感を覚えながら意識してこなかったこの素養は、私がナルティア本家から疎まれていた理由と恐らく一致する。これ以上語るなら我々は本当の意味で運命共同体となる。それでももう躊躇いなどとっくに捨て去っていた。


「我が聖王国ナルタヤは聖魔法によって成立した国家です。ナルティア家の血縁者は皆聖魔法の使い手であり、聖魔法の力が統治の正統性もたらしてきました。今や公然秘密の一歩手前辺りでしょう。国民は知らずとも、南ルナリア最大の勢力を誇るジョルダード教会との距離感を見ればいずれ皆察するでしょう。北ルナリアからの侵略が事態を表面化させました。そしてジョルダード教が秘匿する古代魔術も上回る万能の魔法。それが聖魔法です」


 奴の狙いが聖魔法なのは間違いない。しかしそれでは足りない。


「ですが私には魔法の素養があまりないのです。当初私は、あなたが真に欲するのは聖王国の支援だと思い込んでいました。国家の支援を求めているのだと。だけれど違う、あなたはもっと違うものを欲していた」

「と仰ると」

「あなたはジョルダード教会が秘匿する古代魔術すら欲していますね」


 戦闘が続く中、私達の周囲に静かな一時が訪れた。それは私が事実と真実を提示したからだ。だから勇者は頷き応じた。


「正統派を謳う聖ルナリア教会を含め全ての勢力が持つ技術を提供してもらわねばならない。王女殿下、俺は強欲な人間なのです」

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