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殺戮勇者の使い方  作者: 文字塚
1章 殺戮勇者とアルタニア
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第3話 お前らにくれてやる

 レイモンが言うには、やはり内容は同じだった。

 ただし前提条件がある。

 私には「アルタニアを差し上げたい」レイモンには「姉が断った場合、お前が来い」と記されていたらしい。

 わ、私の大事なレイモンをお前呼ばわり……許さない。


「姉様落ち着いて。姉様に、届いていませんか?」


 レイモンの真摯な眼差しが痛い。かなりまずい話であり、安易に応じることは出来ない。レイモンが私を担いでいるなんて、考えたくもないけれど、絶対にないと言い切れるだろうか。

 誰かの差し金かもしれない。レイモンはまだ子供だ。


「私には分からないわ。でもこの話は誰にもしない方がいい。分かるわね」


 諭すよう声をかけると、レイモンの表情が曇った。


「姉様、僕はこの話には乗りません」

「当然でしょう。本物かどうかも分からないし、そもそもおかしな話だわ」

「でも、姉様は受けるべきだと思う」


 思わず顔を見合わせる。頼りなく儚げだったレイモンの顔つきは、今私の知るそれではない。


「知らない間に大人にならないの。ちゃんと言ってからになさい」

「冗談で言っているんじゃないんです」

「じゃあなんなの。あなたは勇者とやらを、知っているの?」


 冷たく突き放すと、レイモンは姿勢を正した。

 背が私を越えている……あんなに幼かったのに。


「少し、いえかなり調べました」

「嘘でしょう?」

「勇者自身は詳しく分かりません。ですが周辺の情報なら、足がつかない」


 レイモンは静かに周囲を見回した。警戒はしている、と言いたいのだろう。


「どういうこと? いえ、もうやめましょう」

「姉様、勇者はかなりのやり手だ」

「レイ……ダメよ」


 指を立て黙らせようとした。昔はこれですんだのだ。あやすのは私の役割で、喜びでもあった。

 だけれど、レイモンはもう黙ってくれない。


「機械人形を知っていますか」

「レイ、ねえお願い」

「自動人形でもいい、戦闘用の作り物です」

「ねえレイ、怒らせないで」

「あいつ、その職人を囲い込んで工場みたいのを作ったんです」


 お願い、レイモン黙って。どうして、言うことをきいてくれないの。あんなに素直でいい子だったのに。

 思わず耳を塞ぐと、そっと額が触れ合った。


「姉様、僕は姉様を守りたい」


 何を、言っているの。私にあなたは守れない。私にそんな力はない。


「姉様は誰にも渡さない」

「レイ……?」

「アルタニア、受け取るべきだよ。勇者は僕らを必要としている」

「違うわ、利用しようとしているのよ。事実なら」


 思わず応じたことで、私は事実を認めてしまったかもしれない。少なくともレイモンはそう受け止めたらしい。


「やっぱり来ていたんだね」

「やめて……」

「姉様、僕がシスティーナ姉様を守るよ」


 なんて声色、胸に響くのはなぜ?


「こんなところにいたら、いつか姉様と離ればなれになる。そんなのは嫌だ」

「でも、それが運命でしょう? 私達は王族よ?」

「知ったこっちゃない。王族なら、大手を振って何が悪いんだ。なのに僕らは、いつか外様に。もしくは教会、最悪処分される」


 レイモンはさっと首を刎ねる仕草をしてみせた。処刑を連想させるには充分だ。


「きっといい話が来るから、大丈夫姉さんが守るわ」

「そう、その話が舞い込んだ。全く予期しないところからだけど、上手くいけば何も失わずにすむ」


 甘い見通し。甘い果実に飛び付く姿は、やはり幼さの現れだろう。

 気持ちは嬉しい。だけど今止めないと、取り返しのつかないことになる。

 今はまだ、一緒にいられるのだから。


「レイ、あなた勇者の何を知っているの。知っていることと言えば、職人を囲ったとかその程度でしょう?」


 言い聞かせるよう言葉を紡ぐが、逆効果だった。

 レイモンの頬に朱が差していく。


「姉様こそ、知らない」

「何を?」

「奴は教会や商会から巻き上げた金で、逆に商会を買い占めてるんだ。株式の半分以上を押さえられて、乗っ取られた商会だってある」


 ミイラ取りがミイラになってる、のとかなり次元が違う気がする。なぜ乗っ取られてるの?

 違うわ、私は止めないといけない。

 幼いこの子を騙くらかす、悪質な勇者から引き離さないと!


 ――そう思っていたはずだった。

 だのに私は、気がつくとその魅力に取り憑かれている。

 私達はもう、後戻り出来ないかもしれない。

・現在公開されている情報

増えすぎた王族は処分される。有力貴族との婚姻は穏当。

教会へ送り込まれた場合は結婚出来ない。目立たぬよう生きるか、内部での工作活動が主となる。

二人の待遇は恵まれたものではない。

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