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殺戮勇者の使い方  作者: 文字塚
第二次アルタニア争奪戦
25/59

第25話 アルタニア城事件9 勇者の魔法使い2

 城門近くに人だかりが出来ていた。

 騒然としているが、注目を集めるのは一人の男と一人の女。まだ若く、華奢な身体にくたびれた旅装束をまとっていた。フード付きで表情は窺い知れず会話も聴き取れない。

 近づきたいが皆私達に気付かない。

 すると、


「持ち場に戻れ! 戦場で戦う同胞に恥ずかしくないのか!」


 アルベルトが衛兵達を一喝し、ようやく我々を認めたらしい。皆敬礼しすごすごと持ち場へと戻っていく。

 勇ましいだけが取り柄か。扱いの難しい人物だ。レイモンが恋しい。レイならこの男でも使いこなすのだろうか。

 とにかく今はゴーレム。


 アルベルトが頷き、城壁内の回廊へと先導する。声と表情、どちらも確認出来る場所はあるだろうか。ゴーレムにも興味が尽きない。

 ランタンと松明、階段を上っているとアルベルトが壁を指差した。


「本来ならここから外が窺えます。狭間、銃眼がありますので」


 ハランドはランタンを近づけるが壁しかない。少し色は違うけれど……。


「もしかして……」

「ゴーレムです。城壁に取り付いています」


 なんてことを。事実なら攻城兵器と変わらない。違う、意思を持つ攻城兵器がすぐ傍にある。

 ハランドが現実に気付きランタンを震えさせた。暗闇の影が左右に揺れている。


「こちらです」


 一度目にしているからか、アルベルトは躊躇いなく先へと進む。一国を預かる最高指揮官が赴くのは危険。

 ーー軽率ではありませんか。

 クロウの言葉が胸に響く。だけど今更戻れるものか。アルベルトやクロウが身体を張って、私が逃げてどうする。

 誘導されるまま回廊を進み、狭間から外が見られる場所にたどり着いた。

 アルベルトが確認した後私も続く。


 想定以上の光景だったーー


 城壁の高さに届くゴーレムが堂々城門前にそびえ立っている。土壁のそれは黒く沈むような塊だった。

 つまり一体を城壁取り付かせ、もう一体を交渉カードに使っている。

 闇夜に存在するその様は魔界を連想させた。


「信じられない……」

「お静かに。あちらにも聴こえます」


 アルベルトに指摘されゆっくり頷き口をつぐむ。

 これが南方の魔法使い、肩書きに偽りはないらしい。アルベルトの慌てようも今なら理解出来る。

 だけれど、ならクロウのあの泰然とした振る舞い、自信はどこから来るというの。

 続けてそっと二人を見やる。

 声は小さく聞き取りづらい。こればかりは仕方ないと思っていたら、アルベルトが貝殻のような物を取り出した。耳に当て使えということらしい。素直に受け取る。


「嘘をつけ! さっきの男はここにはいないと言っていたぞ! いるのかいないのかどっちだ!」


 女の高圧的な声が聞き取れた。なるほど便利な代物だが、彼はこれを持ち歩いていた?

 そっと疑念の目を向けるがアルベルトの表情は変わらない。


「行き違いです。いないのならどうせ会えません」

「さっきから言ってるだろう! 勇者殿はどこへ行った! 私はそこへ向かう!」


 魔法使いの目的はどこまでも勇者らしい。あいつまた何か仕出かして、恨みを買ったんじゃないでしょうね。把握出来ていないことが多すぎる。

 興奮気味の魔法使いに、それでもクロウは冷静だった。表情こそ見えないが声は落ち着いている。


「ご用件はなんです?」

「加勢に来たと何度も伝えた! いい加減にしないと無理矢理にでも城に入る!」


 なんて強引な。この城にはいないのに。


「やめましょう。勇者の心証が悪くなるだけです」

「嘘をつくお前らに言われたくはない!」

「では後日お引き合わせしましょう」

「今会わせろ! その為に来た!」

「無理です」

「なぜだと訊いている! ここにいないならそちらへ向かう! いい加減にしろ!」


 その一言で、城門前にあるゴーレムがずずっと音を立てた。本気でこじ開けるつもりなの? 魔法使いは平静を失っている。いや、そもそも城が目的かもしれない。

 ここにいては危ない。私だけでなくクロウや皆もそうだ。誰か対処出来る者を用意しないと。でも、私はそれすら知らない!


「なぜって戦時だからに決まっている」

「だから加勢に来たのだ! 疑う気か、無礼な奴め!」


 魔法使いの怒りがゴーレムを通して伝わってくるようだ。闇夜にそびえる様は迫力なんてものではない。


「疑うのも仕事です」

「知ったことか!」

「勇者には会えます。おとなしくしていれば」

「誰に命令している! 貴様何者だ! 名を名乗れ!」


 クロウの肩が目に見えて沈んでいく。


「ですから私はアルタニア最高本部付き、勇者殿の指示によりこの城の防衛を任された者」

「肩書きを訊いている。名は!」

「だからクロウです。最高司令官補佐」

「ならば知っているだろう、勇者殿はどこだ!」

「言えるわけないだろう!」


 突然のことだった。クロウの怒声が闇夜に響き渡ったのは。

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