第24話 アルタニア城事件8 勇者の魔法使い
「アルベルトです。城外からの報せ」
「入れ」
クロウの指示に従いアルベルトが入室する。焦りが見て取れるが何事だろう。
「戦況報告ではないようだな」
「そうなる」
クロウを一瞥した後、アルベルトは私へと報告を述べる。
「城門に侵入者あり」
「城に侵入されたというの?」
「いえ、城門前に居座り立ち退きません」
誰が? 彼は何を言っている。
代弁するようクロウが反応した。
「貴公は報告下手か」
「想定していない。東、ラウルから来たらしい」
言い訳めいたそれは確かに伝わってくる。
構わずクロウが続けた。
「だから誰なんだ。騎士団か商会か」
「勇者殿に会わせろと」
いない者に会わせろでは確かに戸惑うかもしれない。だがクロウには関係ないようだ。
「用件は分かった。で、誰だ」
「南方の魔法使い、と本人は言っている」
「ほう。で、そうなのか」
「いや、確認出来ない。知らぬ顔で紹介状も持参していない」
「そうか。貴公はどう判断する」
「だからこうしてここに来た」
「訪問者が来る度、ごねる度確認に来るのか」
嘲りを受けアルベルトの顔が恥辱に染まる。
「私は伝令官ではない!」
「戦士だものな。丁重に追い払え。本人がいないのだ、後日決める」
「だから……!」
アルベルトは声を荒げ、
「ゴーレムを並べ城の出入りが出来ない! 会わせなければ街道をゴーレムで封鎖すると言うて聞かん! どうしろと言うのだ!」
なんなのそいつ。街道を封鎖って、馬鹿な真似を!
私ですら驚くのにクロウは一向に動じない。
「そうか。排除しろ」
「出来たらしている! 私も外に出て確認するのが精一杯だった! なんなんだあれは!」
気持ちは分かるがそれを吐露してはならない。
「出来ないときたか。貴公はかかしか。この城にまともな人材はおらんとみえる」
「見ていないから言えるのだ……!」
なんて無様。アルベルトに恥の概念はないの。事実この様は見るに堪えない。
「戦場帰りが聞いて呆れる」
「貴様……!」
「殿下、私めにお任せを」
「ええ、いない人には会わせられないわ」
思わず許可し頷いてしまう。
「侍従、出来ぬとなればどう責任を取る!」
恥をそそぐ好機と見たかアルベルトは好戦的だ。しかし、
「やるのだ。貴公では出来んのだろう?」
「失敗した時の話をしている!」
「失敗は存在しない。結果を出すのが我々の役割。少なくともわざわざ殿下にお伺いは立てない」
報告はするが。と付け加えた後クロウは衛兵を呼び護衛の任を託した。まだ若い、私と変わりなく見える。
「では失礼します。アルベルト殿、もうお休みになられよ」
「どういう意味だ」
返答はなかった。言葉のままなのだろう。
クロウが去り部屋に三人取り残された。
致し方なく衛兵に尋ねる。
「あなた名前は?」
「ハランドと申します。私は騎士では……」
言葉を制し続ける。
「二人共付いて来なさい」
「しかし殿下、あの魔法使いはゴーレムを」
「見たのですか?」
「見ました」
なぜかアルベルトは強く言い切る。まるで現場を見たことが成果であるように。衝撃を受けたことも伝わってくる。私自身、話に聞いても目にしたことはない。
「どんなものです」
「城壁に達する大きさでした」
なら本当に魔法使いのようだ。これは見逃せない。クロウの自信も確めなければ。改めて指示を出す。
「付いて来なさい。嫌なら別の者と……」
「行きます」
「同じく」
些か頼りないが、いないよりはましだろう。
クロウを追い私達も城門へと足を運ぶ。
全く、夜も更けたというのになんて騒ぎ。アルタニアの使える者はこの城にはいないのか。
嫌な予感を抱きながら私は歩き続けた。
「勇者に魔法使い……まるでおとぎ話ね」
小さく呟きながら。