第22話 アルタニア城事件6 主従
戦後処理も終わっていないのに三方から攻められる。アルタニアの地理的不利は否めない。
だがカラクーム山脈の東、都市国家ラウルとの流通を断たれない限り問題はない。怖いのは挟撃だ。戦争などしたこともないが私でも分かる。
正面突破されれば五万の木偶を使うしかない。
だがこの戦争、消耗戦にはならない。敵方が対魔族部隊を用いたからだ。
「自殺行為だわ」
既に使者を三国へと送り出した。
勇者は高圧的な文言を残したが、それで良かったのだろうか。アルタニアの旧王族達が加わっていれば、彼らにも正統性がある。大義名分は充分だろう。
三国の勝算、目論見を知りたい。
まずはラウル。彼らさえ押さえれば三国は自滅する。魔族から補給でも受けない限りだけれど……。
「クロウ、ラウルの実情はどうなっているの」
「実情とはなんです」
「奴隷売買やアルタニアの政変を彼らはどう受け取っているかしら」
「ふむ……」
ラウルは混乱していた。誰も歓迎しない隣国の政変。そして難民。勇者が乗っ取った商会もラウルにあるのだろう。
使いたいが実情が分からない。誰を送ればいいのかすら思い付かない。
勇者はなぜ何も知らせず出立したのか。
オーランの警告を正しく受け取るべきか。
「緩衝国ですからね、ラウル程度に出来ることはありません。嫌がらせぐらいでしょう」
「奴隷は見かけた?」
「いえ。ですが存在はするのでしょう。ゆえに、それと分かれば我々の覚えめでたからず」
「要するに自由民と待遇は変わらない」
「魔族と戦う血縁がいれば恐らくは。兵士の家族が本来受け取る年金などは知りませんが。ある程度待遇に差を付け、それでいて不満が出ないようにする」
そう、そうしなければラウルの規模では対応出来ない。都市国家ラウルは一つの街で形成されている。周囲に村は存在するがごく小規模。
戦奴だけが消耗し蜂起に繋がった……。
違う、勇者が煽ったのだ。
「オーランは自分も信じるのに時間がかかったと言っていたわ」
「妥当ですな。前線の彼らとて信じがたい。しかし勇者の何を信じたのやら」
当て付けのようクロウは呆れるが、素直に受け止める。
「ラウルに誰を向かわせればいいかしら」
「まず我々の仲間に連絡を。内情を探らせます」
「そうね。勇者の商会に使いを。乗っ取られては敵わないわ」
「身から出た錆びですがね」
経緯などどうでもいい。ナルタヤならともかく国外の話に興味はない。
「そう私達の騎士団……」
「会いますか」
金にしか興味がない連中。オーランの言は手厳しい。今会って言い訳を聞くのも説得されるのも面倒だ。
「彼らが来れば対応しましょう。とにかく態勢を整えこの戦後に備えます」
明言すると、
「即位されるおつもりと。奴らの真意も分からぬのに。軽率ではありませんか」
クロウは小さくかぶりを振っている。
しかし説得の色は褪せ始めた。
この仕事が終われば主従関係は解消される。
形勢不利となったら脱出、彼にとってどちらがいいのか。
ラウルに送る使者を用立てラウルの内情探らせる。段取りよくとはいかないが、全て手配し時間は過ぎていく。
アルタニア城を夕暮れが包む。
朱色のそれは美しく輝いて見えた。
城は鮮やかに彩られているだろう。
戦場に流れる血を映す鏡のように。