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殺戮勇者の使い方  作者: 文字塚
第二次アルタニア争奪戦
20/59

第20話 アルタニア城事件4 王女の覚悟

 オーランが去り静けさに包まれた執務室で、


「木偶?」


 私は一言呟いた。

 恐らく黒魔術を使った機械人形のことだろう。だけれど、機械人形なのに木偶呼ばわり。

 それでいて覚悟しろと言い残した。

 意味は分かるが、使えるかどうかが分からない。そもそも勇者から何も伝え聞いていない。


「どういう意味かしら」

「使うな。使うなら覚悟しろということでしょう」


 クロウの解釈は私と変わらなかった。

 今執務室には二人しかいない。他にすべきことはあるが、今はクロウの立場を考慮した振る舞いが要求されている。


「木偶とやらについては調べましたか?」

「物は見ました。一見人型ですがかかしと変わりません」

「木製ということね」

「そうなります」


 それでも遠目で見れば見分けはつかない。五万となれば迫力もあったろう。


「今はどうなっていますか」

「都市国家ラウル、東の守りに使っているようです。この城にもかなり残っていますね」


 用意周到とはこのことか。挟撃はさせないと手を打っている。つまりは使えるということだが、私には向いていない。いや、教会を刺激するため使うなとも取れる。

 勇者だけでなく新生アルタニアの武人達も侮れない。

 これなら自分の役割に徹することが出来そうだ。


「クロウ、あなたはこれからどうするつもり」

「お言葉ですが殿下、今なら引き返せます」


 予想通りクロウは慎重だ。彼が博打に乗る理由はない。だけれど、それだとおかしな点が一つ出てくる。


「ならどうしてレイモンを止めなかったの」

「首に縄でも付けろと仰いますか」

「いざとなればそうするべきではなくて?」

「出来ません。それに勇者が許さないでしょう」


 やはり正確に状況を把握している。勇者は私の代わりとしてレイモンを指名している。クロウは全て知っているのではないだろうか。


「勇者の意図はなんでしょう」

「さあ、戦争に勝つためならなんでもする。そんなところかと」

「もう少し踏み込んで欲しいのだけれど」

「殿下、繰り返しますが今なら引き返せます」


 上からクロウに見下ろされると迫力がある。これまでの軽さはもうどこかに消え失せた。


「そうはいかないわ。せめてこの戦争の行く末は見届けないと」

「お気持ちは分かりますが、形勢不利となればどうします」

「あなたに任せます」

「殿下、もう不利です。これは政治的に不利だ」


 横に並んでいたクロウが正面へと回った。


「正統性などでっち上げかもしれない。しかも我が国の勇者。正式な許可もなく勝手に仕出かした」

「そうみたいね。王国騎士団の人間と話したいわ」

「護衛に付かせるなら賛成です。帰路を奴らに任せれば私も心強い」


 どこまで本気なのか。先程から私を説得しているようだが、どうも腑に落ちない。


「どうしてそんなに戻りたいのです」

「私はなんの許可も取っていません。まず間違いなく罰せられる」

「取りなしましょう」

「無理ですよ」


 クロウは苦笑し私の程度を突きつける。


「なら手土産が必要ね」

「いえ無事が第一です」

「なるほど。手土産と共に無事に帰ればギリギリ許される、ということですね」

「殿下……」

「素直に仰い。今帰りますとなって困るのはあなたよ?」


 条件めいたものを突きつけると、


「情報は得ました」


 クロウが口を滑らせた。しばし沈黙を用いると本人も察したようだ。


「殿下、お人が悪い」

「いえ、その情報が必要なのです」


 彼の嘆息は可笑しいほどわざとらしかった。


「そうまで仰るなら仕方ない、話しますが俺の立場を考慮してくれるんですね?」


 元に戻ったクロウの軽さが伝わり、私の心を軽くする。


「あなたがいてくれて良かった。お互いベストを尽くしましょう」

「言葉でお願いしますよ殿下」

「あなたの立場精一杯考慮します」


 はっきり言葉にするとクロウは、


「分かりました。じゃまず王族共どうします?」


 重いことを軽く言い放った。

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