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殺戮勇者の使い方  作者: 文字塚
1章 殺戮勇者とアルタニア
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第2話 第五王女と第七王子

 勇者がアルタニアを陥落させたとの報せは、瞬く間に広がった。

 聖王国ナルタヤもまた例外ではない――。


「システィーナ様お持ちしました」

「ありがとう。こんな物普段は見ないのだけれど」


 とんでもありません、とへりくだる女官に礼を言い、民草のように新聞を広げてみせる。

 バルコニーには穏やかな陽光が差し、文字を読むには充分だ。


「あの勇者本物の馬鹿だったのね」


 聞こえるように言って、食後の紅茶にゆっくりと手を伸ばす。しばらく時間がかかると演じるためだ。

 まだ女官が傍にいる。侍女達も油断ならない。

 貴族家の令嬢は特に要注意だ。こんな話が漏れたら私の立場が危うい。

 あの勇者どうしてくれようか。


 内心毒づきながら見た目は穏やかに振る舞う。

 聖王国の王女が、これぐらいのことで動揺してはならない。


 しかしあの提案が本気だったとは未だに信じられない。

 一月ほど前のことだ、手紙が届いたのは。

 そこには、

「アルタニアを召し上げるので差し上げたい」

 と綴られていた。

 何を言っているかさっぱり分からなかった。そもそも勇者とは面識もない。儀式にだって参加していない。

 上に五人の兄と四人の姉がいる。

 勇者任命の儀式及び出立の式典、私はそこにいなかった。


 はた迷惑な話というより、ああ活動費が尽き無心してきたな、と返答もしなかった。

 だが事実アルタニアは陥落した。今は勇者に支配されつつあるという。

 周辺国が黙っていないだろうから、そう簡単にいくとは思えないけれど。

 私達も同様だ。聖ナルタヤはアルタニア王国と同盟を結んでいる。

 地理的に魔族の領域に近い彼らの領土は、最前線にあるエストマ三国を支援する要衝である。

 彼らに踏ん張ってもらわないと、領域がぶつかり私達が最前線に立たされる。


 なのに勇者はそれを攻め落としてしまった。

 聞けば五万の大軍を率いてのものらしく、前代未聞というほかない。


 どうして私なのだろう?

 疑問に思うがあの手紙は危険極まりない。災厄をもたらしかねない。裏で糸を引いていたのが私、なんてことにされたら第五王女の首など一瞬で消し飛ぶ。


「ただ静かに生きていたかっただけなのに……」


 思わず呟いたが小さすぎて誰も反応しなかった。

 今考えるべきなのは勇者の次の行動だ。

 また手紙が届こうものなら闇に葬るか、洗いざらい表に出し潔白を証明するしかなくなる。

 なんで私を巻き込むの?

 思わずため息をつくと、


「姉様、お疲れのようですね」


 不意に声をかけられた。声変わりしたて、それでも少し高く聴こえるそれは弟レイモンのものだった。

 今年十四歳を迎える三つ下の弟。

 黄金色の髪は淡く煌めき、肌は透き通るように白い。華奢な身体に優しく端正な顔立ちは、可憐な少女すら連想させる。実際誤魔化せば信じる者もいるだろう。

 ――どこの姫君ですか、と。

 愛するレイモンを前に自然と頬が緩む。


「あらどうしたの? 武芸やお勉強はすみましたか?」

「はい。今日は先生もお忙しいらしいのですみました」


 堂々と言うものだからつい笑ってしまう。


「それはサボっているということよ」

「でも実際いません。僕より大事な用があったのでしょう」


 不服さを微塵も感じさせない所作を私は哀れに思った。

 第七王子などいつ廃嫡されても仕方ない。

 予備の予備のそのまた予備だ。


 いずれどこかの貴族家を乗っ取るため、面識もない者と婚姻させられるのだろう。

 まあそれは私も変わらないのだけれど。


 いつもは大人しいレイモンがさりげなく周囲に目を配っている。人払いしろと暗に言っているのだ。


「皆さん、レイモンと久しぶりにゆっくり話したいわ。どうも勉強がうまくいかないみたい」

「お姉様……」


 わざとらしく拗ねる幼さを見て皆空気を読む。人はいなくなり私達二人きりだ。


「どうしたの? お勉強なら教えてあげるわよ」


 まだ甘えたい盛りであろうレイモンに笑顔を作ってみせる。レイモンはスッと近づき声を落とした。


「今お話よろしいですか」

「本当にどうしたの」

「大事な用向きです」

「それは分かるけど今でないといけないの?」


 確かめると「早ければ早い方が」とレイモンらしからぬ言葉が返ってきた。仕方なく周囲に注意を向けながら耳を傾ける。


「言ってご覧なさい」

「勇者という輩はご存じですか」

「聞いたことぐらいはあるわよ」

「文のやり取りは」


 ゾッとするとはこのことだろうか。なぜレイモンが勇者を持ち出すのか。しかも手紙についてまで……。


「なんのこと?」

「姉様、知らないのですね」

「ええ。それに今その名は口にしない方がいいわ」


 忠告しても、レイモンは聞き入れなかった。


「先日勇者を名乗る者から手紙が届きました」

「ねえレイモン……」

「姉様にも届けたと」

「レイモン……」

「聞いて下さい。内容は同じはずです」


 同じ? どういうこと?


「ただし続き、いや前提が少し違うはず。僕のものには"姉が断った場合お前が来い"と記されていた」


 ……なんですって。

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