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殺戮勇者の使い方  作者: 文字塚
第二次アルタニア争奪戦
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第19話 アルタニア城事件3

「傭兵と言ったのはお前さんだ。肌も青白い。血管が透けて見える。かなり南の生まれだろう」


 それから一転、クロウは落ち着いた素振りで付け加える。


「と殿下は仰りたいのだ。皆まで言わせないでくれ。時間が惜しいのはお互い様じゃないか」


 やり合う気は双方ないらしい。オーランは、


「そうなる。最近まで東エスターナで戦っていた。傭兵になったのはつい最近だ」


 静かに受け止めた。場が荒れなくて何よりだ。


「傭兵として戦っていたのではないのですね」

「そうなります」

「それはつまり……」

戦奴(せんど)だ。遠慮は必要ありません殿下」


 明言してくれたのは正直ありがたい。同時に話の先が見えてきて心は重くなる。


「アルタニアは戦奴を用いていたのですね」

「奴隷制なんて珍しくありませんよ。戦場に赴けば家族は自由民として扱われます。そう悪い話じゃない」


 オーランの口ぶりからは憎悪が感じられない。状況がそうさせているのか本心なのか。今は読み取れない。


「奴隷は主に国外からですね」

「エストバルを出れば魔族の領域です。生きるにはここを死守するほかありません」

「勇者はエストマ三国は身動きが取れないと言っていました。けれど動いたわ。彼は読み違えたのでしょうか」

「さあこれから分かることです」


 重要な部分をぼかされた。内乱を誘発する前に攻めこまれる。三国が連携してだ。

 けれど勇者もオーランも動揺してはいない。


「魔族と対峙する西エスターナが、なぜ魔族と組んでいるのです? 東も同様。転生者とは一体何者ですか?」

「今断言出来ることはありません」

「察しろと仰るのですね」

「この世界は複雑です。簡単にこうと説明出来ません」


 これにクロウが反応した。


「よく分からず国家転覆に手を貸したのか」

「お前さんには分かるまい」

「当たり前だ。正気とは思えん」


 クロウの挑発的な発言は役割分担のつもりだろうか。確かにオーランは「今は話せない」と言っているに等しい。


「正気だからやった。俺も信じるのに時間はかかったが、ジリ貧なのは間違いない。カラクーム山脈の向こうから一体誰が助けに来てくれた」

「我が国の騎士団はいたはずだ」

「ナルタヤの王国騎士団など物の数ではない」

「無礼だな。彼らを侮辱するか」

「お詫びしよう。金にしか興味がない連中と訂正するよ」


 二人の間には溝がある。当然だ。片や首都防衛を任された司令官。片や国に戻ることを前提とした侍従。

 クロウは今情報分析官としての任を背負っている。吐けるだけ吐けと言いたい気分だろう。実際ここまで情報収集に努めていた。


「騎士団や商会、冒険者ギルドはどう動きます。今までどうだったのですか」


 空気を変える為わざと範囲を広げた。教会を含めなかったのは影響力が強すぎるからだ。何より彼らを目にしていない。


「当人達へ聞いて下さい」

「今までと仰っている。貴公の立場は分かるが曲げてくれ。もう手間は取らせない」


 クロウの勝手な言い分だが、彼にはそうするだけの理由がある。オーランはクロウへの苛立ちを隠さず、それでも応じてくれた。


「騎士団っても色々だ。王国騎士団なら模様見したまま、危うく本物の模様になるところだったよ」

「血塗れの模様になっていないのなら幸いだ」

「そうだろう。ナルタヤへの配慮もある。それは信じてもらっていい」

「受け取ろう」


 クロウがリードし始めたがこの流れで構わない。オーランもクロウを侮ってはいない。


「他の騎士団は缶詰めだ。わざと動けないようにしてある。今もだ」

「正気か。戦力は足りているのか」

「邪魔されるよりはマシだ」

「商会は」

「勇者の商会なら全力で使ってるよ。そうラウルに気を付けろ。代表のいない商会を潰すなら今だ」


 気を付けろと言われても……いやラウルに人を残しておいて正解だった。そうだ、ラウルまで裏切ったら、私達は包囲された挙げ句挟み撃ちされる。

 これは重要な点だ。危うく見逃すところだった。


「冒険者ギルドについては言わずとも分かるだろう」

「随分険悪らしいじゃないか。冒険者ギルドより勇者を選んだわけだな」

「そうだ。組合など当てにならん。結局あいつらは自分さえよければそれでいいのだ」

「勇者は違うと言いたいわけか」

「知っていて言うなら露悪的だな」


 クロウは返答せず二人の対話は終わった。

 私から確かめる最後の機会。

 迷ったが、


「勝って下さい」


 勝利を願う姿勢を選んだ。これこそ彼らが求めていたものではないだろうか。

 オーランは私をじっと見つめ、ため息を一つついてから口を開いた。


「期待されても何も出ません」

「分かっています」

「私は前線には行かない」

「承知しています」

「では失礼。無礼をお許し下さい」


 無言で頷きオーランの背を見送ろうとした。

 そのオーランは扉の前でピタリと止まり、


木偶(でく)にはあまり期待しないように。使用者がいない。あれはナルタヤの姫君が使って良いものではない。それなりの覚悟を」


 警告するよう言い残しオーランは部屋を去った。

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