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殺戮勇者の使い方  作者: 文字塚
第二次アルタニア争奪戦
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第18話 アルタニア城事件2

 争奪戦が終わったと思えば、今度は防衛戦が始まった。負ければ一体どうなるのか。

 城内の忙しなさは戦時のそれであり、私にとっては全てが未経験。しかし一国を預かる立場、もう逃げ場はない。


 正午前には勇者が出立。数は少なく、とても防衛戦に向かう陣容には思えない。更に、首都経由で防衛線へと赴くと思われる部隊が出て行く。

 どうやら準備は出来ていたらしい。勇者とあの男の落ち着きはここから来ていると読み取れた。


 城内は手薄となりしかも最高司令官は私。

 だが問題はそこではない。

 勇者の出立を見送ってしばらくクロウが戻ってきた。何も手にしていない。


「早速介入してきましたか。ああ遅くなって申し訳ありません。護衛の奴らは外にいます」


 申し訳ないなどとクロウは微塵も思っていないだろう。もう慣れたしそれを受け止める余裕もある。


「護衛にカーテンを用立てに行かせるなんて私が間違っていたわ」

「ですね。が、王子の指示ですからお気になさらず」


 問題の一つはここだ。指示はともかくレイモンの姿が見えない。伝えるとクロウは渋面を浮かべた。


「出立なさいました」

「それはどういう意味?」

「前線を観たいと先程出られたんです。もちろんお止めしましたが、言うことを聞いてくれなくて」


 言葉に詰まるが覚悟はしていた。レイは本気なのだ。本気で転生者という者を捕縛する気だ。

 なら勇者の傍にいる。もしかしたらここよりは安全かもしれない。言いたいことはあったけれど、飲み込むしかない。

 これから前線に向かう者達に「弟が心配」などと悟られれば、士気に関わる。


「分かりました。それより一つお願いがあるの」

「分かっていただけるとは。カーテンならすぐ用意させますが」

「そんなことはお願いしないわ。さっきいた武官風の男を連れて来て欲しいの」

「武官。腐るほどいますがどいつです」

「勇者と親しげに話していた三十前後の男よ。服がとても汚れていたあの人」

「さて捜しても構いませんが、護衛はあいつらでよろしいので?」


 素直に首を縦に振る、一言添えて。


「見ていたのだからすぐに分かると思う」


 この言葉にクロウは苦笑して見せた。


「カーテンがありませんからね。あいつですか、ご用命とあらば仕方ありません。あちらへの用向きはなんです」

「内情を知る者がいなければ私達はなんの判断も出来ない。あなたにとっても悪い話ではないと思う」


 クロウは僅かに目を細めたが、


「左様で。承りました」


 と言い残し執務室を去った。


 既に使者に持たせる書簡の用意はさせてある。いや用意されていた。文言はともかく、勇者のサインが記されたものだ。

 一連の流れは彼らにとっては想定の範囲である。であるならば信じて待つしかない。その間私に出来ることは何か。


 しばらくしてクロウがあの男を連れて来た。

 礼の一つも寄越さず不満がありありと見て取れる。


「お休みのところ申し訳ありません。お話を聞きたくて」

「まあ姫君のご要望とあれば仕方ない。けどね姫君、働き方改革とやらは看板だけですか」

「私も初めて聞いたものですから、後で勇者やあなた達と話し合いたいと思っています」


 正直に応じ丁寧さも添えた返答。受け取った男は頭をかきながら、


「申し訳ない。そうまで素直に白状されてはこちらも不服を並べるわけにもいかん」


 それから自分はオーランドという名の傭兵であると付け加えた。


「こちらはクロウ。私はナルタヤのシスティーナといいます。どうかお見知りおきを」

「ご丁寧にどうも。肩書きだけは存じ上げてます。そちらの侍従は城内で随分顔を売っていたようで」


 水を向けられクロウは致し方なくと言った感で口を開いた。


「仕事だ。口の利き方に気をつけろとは言わない。だが無礼は許さん」

「そうかい。せいぜい気をつけるとしよう」


 穏便に入れたと捉えておこう。男同士のプライドを刺激しては話が進まない。


「長々と話している余裕がないのは承知しています。その上で現状を教えて下さい」

「報告という形ならさっき話していた通りになります」

「つまり相手方の戦力を、正確に把握出来ていないということですね」

「残念ながら」


 応じてからオーランドはクロウをちらりと見遣った。何か口を挟んでくると考えたのだろう。だがクロウは口を閉じている。


「情報網は機能していますか」

「恐らくは。指揮を執るおつもりか」

「いえ勇者があなたに一任した以上、あなたにお任せします」


 オーランドは意外そうな表情を浮かべてから、


「オーランで構いません」


 と発した。少しだけだが距離を縮めることに成功したらしい。


「ではオーラン、この国で一体何が起きていたのか教えて下さい」

「それは自分である必要がありますか? いや知らずにこちらに来られたと」


 無念だがそうなる。ナルタヤの勇者に気を取られ、アルタニアやエストマ三国を意識する余裕がなかった。言い訳だけれど事実なのだ。


「姫君、適任な者は他にもいます。状況をご理解下さい」


 オーランの気持ちが離れていくのが分かる。続けなければと思ったその時だった。


「お前が適任だ。さっさと話せ」


 クロウが口を開いた。意外に思ったのは私だけではないらしい。


「クロウと言ったな。お前も知らずに来たのか。なぜ適任と言える」


 怒りが込められた鋭利な言葉を、


「お前がアルタニア人ではないからだ」


 弾くようクロウは応じた。

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