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殺戮勇者の使い方  作者: 文字塚
第二次アルタニア争奪戦
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第17話 アルタニア城事件

 報せは唐突に訪れる。

 思考もままならない私を前に一人の兵士が飛び込んできた。


「勇者殿、エストマ三国が裏切りました! 奴ら裏切りやがった!」


 怒髪天を衝くような勢いだが首から上は真っ青だ。それを見て私の思考は少しだけ明瞭になる。更に武官風の男が続く。やけに衣服が汚れていた。戦場帰りか、何か作戦にでも従事していたようだ。年は三十前後に見える。この男は落ち着き払ったものだが二人共挨拶もなければ入室の許可すら取っていない。それだけの重大事と理解はするけれど、警備はどうなっているのだろう。


「西エスターナ、東エスターナ、都市国家クラハントまで裏切りやがった。どうするよ勇者」


 武官風の男は伝えてから私達を確認し頭を下げてみせた。だが慇懃だ。敬意は感じられない。私達は所詮余所者、或いは新参の来訪者だと態度に出ている。

 これが引き金となり私ははっきりと現状を認識出来た。想像していた事態が起きたのだ。


 アルタニアの政変にエストマ三国が介入してくる。時遅しとクロウは言ったが、戦争が戦争を呼び起こす可能性は常に危惧していた。安定しない時を狙い撃つ。常道であり常識だ。

 事実私は即位もしていない。

 そう言えばクロウはどうしたのだろう。カーテンを用立てに行ったまま戻って来ない。


 勇者は青ざめる兵士を一瞥してから、武官風の男に言葉をかけた。


「裏切った、じゃ分からん。何が起きた」

「三方から攻めてくる。事実だ、もう始まってるかもしれん」

「つまり対魔族用の部隊をこちらに向けてきた、ということか」

「恐らくな。後、逃した王族がいたろう。貴族や有力者もだ。あいつらもきっといるぜ」


 それでは領域の防衛はどうなるの。これに乗じ魔族に攻められたら、エストバル地方の西側は完全に制圧される。


「そうか。戦力は」

「ああ、南から西エスターナの軍勢。数は少ないが魔族が混ざってる可能性ありだとよ」


 どういう意味……魔族の力を借りるというの!


「急ごしらえだな。西は」

「都市国家クラハントは正規部隊だ。首都に一番近いのはこいつらになる。で、だが……」

「構わん続けろ」


 武官風の男は微かな躊躇いを見せたが、


「北から東エスターナの軍勢。後詰めに恐らく転生者とやらがいる」


 続けられた報告に執務室の空気が一変した。正確には二人。勇者とレイモンだ。レイは転生者を知っている。そして強く望んでいる。静かな緊張と興奮がこちらにまで伝わってくる。


「そうか。ご苦労休んでいいぞ」

「おいおい指示をくれよ大将」


 不服そうな男を、勇者は観察するよう眺めてから告げた。


「働き過ぎだ。とりあえず休め」

「おい、国家の大事だぜ。この領域の生死がかかってるんだ。休んでられるかよ」


 気色ばむ男に勇者は目を細める。


「お前が国家を語るのか」

「悪いか。もう俺達の国だろう」

「そうか。だが我が国は働き方改革を始めるので、模範となる者が必要だ」

「……なんだそれ」


 ほんと、なんなのそれ。


「半日休め。後の指揮は任せる」

「半日かよ! ってか俺が指揮を執るのか?」

「状況が整い次第首都防衛に回れ。最高司令官はあちらだ」


 そう言って顎で私を指し示す。私が司令官。当然と言えば当然だけれど、いきなり戦時で請け負うことになるなんて。


「あれがナルタヤの姫君。使えるのか?」


 この男といい勇者といい、本当に礼節というものがない。だけれどもう怒りは湧いてこなかった。


「無理は要求するなよ。お前が仕切れ」

「なんだ、働き方改革じゃないのか」

「戦時で半日休むんだ、お前にとっちゃ革命的じゃないか」


 大きなため息が室内に広がる。武官風の男はそれから苦笑して、小さく頷いた。


「お前はどうする」

「迎え撃つ。裏切り者は許さん。二度と逆らえんようにしてやる」


 勇者は打って出るらしい。これも当然なのだろうけど、不思議な感覚を覚えた。こいつが、彼が「自分は戦争屋ではない」と言ったからだろうか。

 まさか、アルタニア強奪の首謀者は勇者なのに。


「ってわけで殿下、俺は支度せにゃならん。昼には出るだろうから言いたいことはこいつに言ってくれ」

「……分かりました」


 伝えたいことも確かめたいこともあったけれど、この状況では難しい。

 私が飲み込んだのを確認してから、勇者はレイモンに話しかけた。


「王子、侍従はどこだ?」

「さあ。カーテンを探しに行ったまま戻ってないんだ」

「カーテン……全く機転が利くのか利かないのか」


 ほんとクロウはどうしたのだろう。こんな時にいないなんて。私の護衛が彼の役割なのに。

 そうして男二人が退室した。

 降りてくるような沈黙を三人それぞれに受け止めている。そう思っていたところで唐突、


「王女、使者を用意しろ」


 勇者が言葉を発した。


「三国に届く数。なんなら信号弾を撃ち込んでもいい」

「それは信号を撃ち込むの?」

「魔法弾だよ。使者を受け入れてもらえるか分からないからね」


 補足するレイモンに頷き、


「分かったわ。いえ分かりました」

「あらかじめ用意しておいた書類にこう書き記せ」


 更に頷く。


「貴国は何を以て我が国の領土を侵犯するのか。一歩でも踏み入れば国家及び人民の存亡は一切確約しない」


 頷けない私に、


「後は適当に文面を飾ってくれ。ちなみに俺名義だ。形式上はまだ責任者だからな」


 付け足すよう勇者は言った。

第2次アルタニア争奪戦開幕。

 

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