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殺戮勇者の使い方  作者: 文字塚
1章 殺戮勇者とアルタニア
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第12話 道化と観衆

 広場は熱気に溢れていた。人だかりなんてものではない。まるで聖王国祭に繰り出したようだ。

 観衆達は、これから起こる残酷なショーが目当てなのだろう。

 彼らを見ていると身につまされる思いがする。

 私だっていつああなるか分からない。


 ――アルタニアの王族を連れ首都へと移動。

 私達も同行し簡易裁判が行われる。

 結論は決まっているのだからさっさとすませて欲しい。そう思っていたのに当てが外れた。

 勇者が私達に委ねると言い出したからだ。


 知りもしない王侯貴族や高官達、一体どう裁けというの。

 困惑する私とは対照的に、レイモンは落ち着き払い受諾した。

 道中、レイモンは書類に目を通し何か印を付けている。

 私も同じ物を眺めてはいるが判断など出来ない。実感がないのだ。どの罪状も私には無関係。


 もし問えるものがあるとすれば、彼らの祖先が私の先祖を追い出した。この朧気な歴史的事実だけだ。

 同乗したクロウにやんわり尋ねてみると、


「さあ、うちは代々ナルタヤの出なので」


 と素っ気のない回答を寄越した。

 素性が明瞭であることは、彼のささやかな自慢なのかもしれない。私の癇に障らぬようすぐに話題を変えてきた。


「で、どうするんです。えらいことに巻き込まれて」

「どうって私達が決めることじゃないわ……」

「それで勇者は納得するんですか?」

「……しないと思う」

「参ったな。あんまり深入りして欲しくないんですが」


 言っておいてクロウの顔には他人事だと書いてある。これも癇に障る話だが、こればかりは触れずにいられない。実際彼は巻き込まれているし助言も欲しい。


「勇者の野郎、殿下に責任押し付けやがって。俺は挨拶もしてませんよ」

「クロウ、勇者さんを悪く言うな」


 レイモンが目線を下に向けたまま口を挟んだ。指摘されてもクロウに遠慮というものはないらしい。


「ですけど結論は決まってるじゃないですか」

「だとしても悪く言う理由にはならない」

「随分肩入れしますね……」

「さあね。とにかく言葉に気をつけて。少しは姉様を見習うんだ」

「……あいさ」


 クロウは不承不承といった感で首を窓へと回す。

 私を見習え、か。

 昨晩のことがあり、今までのようレイモンを幼い子供と見ることが出来ない。あれはなんだったのだろう。

 今のレイモンは平然とし今までと変わりない。

 間接的な形にはなったが、愛の告白を受け私の心はざわめているのに。

 熱い視線を感じたのか、


「姉様、問題ありませんよ」


 レイモンがちらりとこちらを見遣った。

 視線が交わることを恐れ、私は手元の資料に目を向ける。そっと置くように一言だけ呟いて。


「そうね。滞りなく進むといいわね」


 ーー今私はバルコニーにいる。高台から見下ろすよう、罪人とされた者達を眺めていた。


「諸君これが君達の敵だ!」


 勇者の言葉に観衆が沸き立つ。


「諸君らの家族そして友人、仲間を苦しめたのは彼らである! 間違いないな!」


 怒声の混じった歓声は増し、熱気がここまで届いてくる。彼らの憤りは本物らしい。

「私達の仇を!」「そいつらを殺して!」「八つ裂きにしろ!」


 観衆の怒声と罵声が入り交じる。


「では裁きを与えよう。だが俺の一存というわけにはいかない。と言って長々と裁判を開く余裕もない」


 役者のつもりか。それとも扇動者か。勇者のそれは実に堂に入っている。


「この度わざわざ聖王国から首脳が来訪してくれた。諸君らは知っているだろう、あの平和だった時代を」


 一転観衆が静まり返った。しんと音が消え失せた。私の心臓まで機能を停止したかのような静けさだ。

 それはざわめきへと移り行き視線が一点に、我々へと集中される。

 やめて、私は何も知らない。誰からも聞いていない。こうなると分かっていたから、全て勇者に押し付けてしまいたかったのに。


 硬直し、それから身体を震えさせる私の隣で、レイモンが悠然と手を振っていた。

 観衆の視線を受け止め、勇者の意図を汲み取り泰然と振る舞っている。


「姉様お手を」


 そう言ってレイモンは私に寄り添う。身体が触れ合うが今は何も感じない。全てが麻痺してしまっている。


「観られるのも僕らの仕事です。大丈夫、僕に任せて。もう流れは掴んだ」

「……本当?」

「言葉よりお手を」


 促されレイモンの顔を確かめる。レイモンは温かな眼で私を見ていた。昨夜のことなどなかったかのよう、私を支えようとしている。


「俺はやんなくていいんですかね」


 唐突、クロウが探るよう口を開いた。彼も身の置き場がないのだろう。なんともぎこちない。


「やらなくていいと思う。うちの親戚を騙るならやればいいんじゃないかな」

「んなこたしません」


 憮然とするクロウを見てレイモンは可笑しそうだ。自然、硬直した身体と思考が溶け始める。


「ありがとうレイ。クロウ」


 違う、言葉より今は観衆に応えることが優先される。

 二人の表情も確かめず私は手を振っていた。

 さあ勇者、次はあなたの番よ。

 道化た自分鼓舞するよう勇者を見下ろすと、あいつは笑みを浮かべていた。

 よくやったと言わんばかりに。

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