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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第一章 僕と姫
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エキドナ討伐

「今日は討伐を行います」


 食堂で朝食を取っていた僕と僧侶に姫はそう告げた。

 訪れているこの町の外れで、魔族の目撃されたとのこと。

 国からの任務ではないようだが、あまりに戦わないと体が鈍るので、任務でなくてもはぐれ魔族の討伐はよく行う。

 町から報酬をもらったりはしていないようだから、ボランティアみたいなもんだろう。

 トレーニングするより軽めの実戦の方が僕としても楽だ。


「被害は?」


「特にはでていません」


 それで討伐するのも可哀想ではあるが、魔族と人間は戦争中だ。

 害獣駆除みたいなものだろう。


「了解」

 僕はあくびをしながら、いつも通りそう答えた。


 目撃情報を頼りに地図をみながら、森を探索すると、地面に物を引きずったあとのようなものを発見した。


「足跡がないので、蛇系の魔族、エキドナですか」


 僧侶が姫に確認する。


「目撃情報には、女の魔族と書いてあるのでそうでしょう」


 エキドナかぁ。下半身が蛇の女性しかいない魔族だ。

 炎系の魔法を得意とするが、一人であればたいしたことはない。


「勇者、魔力感知を」

 姫が短く指示する。


「了解」

 僕も短く答えて、魔力感知を働かせた。


 僕は、魔力の出力が弱く、初級魔法しか使えないが、そのかわり、他人の魔力に敏感で索敵に向いている。

 勇者なのに小技ばっかりが得意なのは悲しいが、人には向き不向きがある致し方がない。


「うん。確かに火属性のそこそこ大きな魔力なら感じるかな」


 僕は、魔力を感じる方に進む。

 しばらくすると、洞窟にたどり着いた。

 洞窟の奥の方から、魔力を感じるので、エキドナが潜伏していると思われる。

 どうやらまだこちらには気づかれていない模様。


「勇者、僧侶、お願いします」

 姫の合図で僕は魔法を放った。


「アクアリバー」


 僕の手の前から水が流れ出る。

 たいした威力もないただの水だ。

 殺傷能力はない。

 それをただひたすら洞窟に向かって流し込む。

 相手は火属性、威力がなくても魔法を封じることができる。

 流れ込んだ水が洞窟の中で、敵にふれた感覚があった。


「僧侶、お願い」

 僧侶は頷くと手を掲げ魔法を放った。


「パラライズサンダー」

 水に僧侶が放った電気が流れる。


 洞窟の奥で「ぎゃあああ」と叫び声が上がった。


 戦いというより、やっぱり害虫駆除だなこれは。

 ありの巣を駆除している気分だ。


「あーあ、俺の出番はなしかよ。つまんねーな。姫様、俺帰っていいか?」


「ええ、構いません」


「先戻ってるぜ」

 闘士は、そういうと頭の上で手を組みながら帰ってしまった。


 僕が魔法を止めたあと、そう広くない薄暗い洞窟を進んでいくと、突き当たりでのたうち回っている魔族がいた。

 予想通り、見目麗しき女性の魔族エキドナ。

 上半身だけならばただの人だ。

 下半身の蛇のような体をしているただ下半身は女性の骨格が浮かび上がり艶めかしい。

 その容姿をみただけで恋に落ちる者もいるだろう。

 女しか生まれないエキドナのような魔族は人と交わることで子を成す。

 昔は人型の魔族は亜人とよび、人と亜人のカップルも多かったそうだ。

 子をなさなければ、種族は滅びるが、こんな世の中だ。人と仲良くなるわけにもいかず、かといって番を見つけなければ里にも帰れないので、こんなところでひっそりと暮らしていたのだろう。


「私は、人間に害をなしたりしません」


 エキドナは体を痙攣させながらどうにか声を出した。

 そんなエキドナを姫は冷たく見下ろす。


「害をなさないからなんだと言うのですか。魔族は退治するただそれだけです。あなただけでなく、あなたの一族も滅ぼして差し上げましょう。さあ、あなたの里がどこにあるか教えなさい」

 冷酷無慈悲に姫は言う。


「い、嫌です」

 エキドナは首を振った。


「僧侶」

 姫が促すと僧侶が頷いた。


「はい。パラライズサンダー」

 間髪入れずに僧侶が電気を流す。


「かはっ」

 美しい亜麻色の髪が電気で逆立つ。

 目や口からいろいろなものがながれでた。


「どうですか。まだ言いませんか」


「い、嫌です」

 先ほどと同じように、拒絶する。

 それを何度か姫は繰り返した。


 姫は飽きたようにため息をつくと、僕に言った。


「勇者、殺してください」


「もういいのか?」


「あまり粘っても時間の無駄なので、猿ぐつわもしてないでしょう。別に自害するならしてもかまわなかったのです。わざわざ聞き出さなくても里もそのうち見つかるでしょう」


「あなたたちに心はないんですか」

 エキドナが悲痛な表情で言う。


「ちゃんとありますよ。ただ魔族を殺してもなんとも思わないだけで」


 姫は会話は、終わりといわんばかりに口を閉じた。

 エキドナは僕にすがるような視線を向けるが、僕はそれを無視して、姫から言われたことを実行するため鞘から剣を引き抜いた。

 エキドナの顔を絶望が覆い尽くした。


「魔族が何をしたと言うんですか」

 エキドナは、僕に対して聞いてくる。


「さあ? 僕は何も知らない」


 僕は胸の真ん中に剣を突き立てた。

 心臓を突き破る感覚が手に伝わってくる。

 もう慣れた感覚だ。

 エキドナは口から血を吐き、恨めしい目つきで僕を見つめながら、絶命していた。

 終わったと言わんばかりに、姫と僧侶が洞窟をでていく。


 僕も後を追いながら、振り返って、人形のようにこと切れているエキドナを眺めた。


「これが現実かもしれないだって?」


 今更すぎる。

 僕はもうすでに殺すことに慣れてしまっている。

 慣れてしまった?

 躊躇ったことがあっただろうか。


 テイマー系の物語の主人公なら、きっと助けるんだろう。

『あの子は魔族だけど関係ない僕が助けてみせる』とかなんとか言って。

 意志疎通が出来る美しいモンスター娘なんて普通に考えてヒロイン枠にちがいない。

 魔族とはいえ、美しい女性を惨たらしく殺す僕に誰が共感してくれるというのか。


 僕は主人公にまるで向いていない。

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