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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
僕らのその後
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あたしの幸せな夢の続き

こちらの人間があちらの世界に転生したいと、願いを込めて物語を紡ぐように。

あたしは、あちらの世界からこちらの世界に転生したいと願いを込めて夢を見る。


他人の不幸は蜜の味。

それが、最低なあたし。


なのに自分だけは幸せになりたいと願う。

それも、最悪なあたし。


あたしより、最低で最悪で、兄のようで弟みたいで、

絶対好きにはならない、むしろ嫌いな、いつも背中を押してくれる人は、

最低で最悪でも、幸せになりたいと願ってもいいという。


その言葉自体が、本当に最低最悪そのもの。

本人は、毎日毎日、別の世界で人を殺しながらも、なんの後ろめたさも感じずに、可愛い彼女と楽しそうに過ごしている。

本当にずるすぎる。


あたしもあなたのようになりたい。

あたしもあなたのようになってもいいですか?


全てなかったことにして、

あの日の観覧車から夢を見せてもらえませんか?


◇ ◇ ◇


 あたしたちは、悠久先輩の家でのパーティーをおえて、車に乗っていた。

 親に借りた車。

 運転手は、あたし。

 助手席にトウヤ先輩。

 文芸部の席の間隔と同じぐらいの距離感。

 懐かしく、心地良い。


「相変わらず、ののか先輩、ゲームものすごく強いんですね。悠久先輩がボロ負けでしたよ」


「悠久いつも偉そうだけど、実は運動神経以外は全部ののかちゃんに負けてるんだよな」


「言われてみれば、そうですね。意外と尻にしかれているタイプだったんですね」


「そうなんだよな」


 楽しそうに話すトウヤ先輩、今日の学校でのやりとりを忘れたように、昔のように接してくれる。


 ふと、トウヤ先輩は窓の外の景色を見て言った。


「なんだか俺の家から離れているみたいだけど」


 ああ、ついに気づいてしまったか。

 無意味にぐるぐる車を走らせていたことに。


「よくわかりましたね。どこ行きたいですか? トウヤ先輩の家以外ならどこでも連れて行ってあげますよ」


 なんならこの世界とは違う異世界でも連れて行ってあげられる。


「家に送ってくれるって……」


 トウヤ先輩の困惑した感じが伝わってくる。

 あたしは、家まで送ると嘘ついて、トウヤ先輩を車に乗せました。

 昔は、素直な女の子を演じていました。

 ブランクがありすぎて昔のようにはいきません。


「あたしって、本当は嘘つきで……」


 あたしがそう言いかけると、


「ああ、俺、本当はまだ家になんて帰りたくなかったんだよ。ドライブしたかったんだ。俺の意図汲んでくれて、ありがとね」


 慌てたようにトウヤ先輩が言葉を被してきた。

 トウヤ先輩の言葉で、あたしの嘘が、きれいに消えてしまった。


「レミちゃんはどこに行きたい?」


 あなたと一緒なら、どこにでも。


「トウヤ先輩が決めてもらってもいいですか」


「そうだな。じゃあ、近くの展望台にでも行ってみようか」


◇ ◇ ◇


 車を止め、展望台にのぼります。

 他に人はいません。

 二人で空を見上げると、星が輝いていました。


「星が綺麗だね」と、トウヤ先輩が言います。


 あたしの中には、星を綺麗だと思う心はないけれど、あなたが綺麗だと言うのなら、


「そうですね! すっごく綺麗です」


 きっと綺麗なのだろう。

 雛鳥が、親鳥に疑問を抱かずついて行くように。

 あたしは、感情を書き換える。

 あなたが、教えてくれる普通のことが、あたしにとっての宝物。


 楽しかった夏祭りを思い出す。

 出店は見ているだけで『楽しい』

 金魚は『可愛い』

 可愛い金魚が死んだら『可哀想』

 そして花火はすっごく『綺麗』


 だから、星だって『綺麗』


 そうでないとあたしは、

『普通』の女の子になれないから。


 あたしは、夜空は『綺麗』だと、心に刻みこんで、トウヤ先輩に笑いかけた。


 人魚は、魔女に声を捧げて『普通』の人にしてもらったという。

 でも、あたしは、自分が魔女。

 本音という名の声を捧げて、あたしはあたしに『普通』の人になる魔法をかける。


 でも、魔法は失敗。

 王子から愛をもらえなければ、泡となって消えるのみ。

 だったのに……。


「学校で悠久先輩と何話たんですか?」


 トウヤ先輩が悠久先輩と話したあと、トウヤ先輩から再会したときのぎこちなさが、消えていた。


「たいしたことない、思い出話だよ。悠久のやつはいつも好き勝手はなすんだ。レミちゃんも知ってるだろう」


「そうですね」


 全部は元に戻らないと思っていたのに。 

 ちょっと助けてほしいと見つめただけで、すべて魔法のように、戻してくれた。


「本当に勇者ですよね」

 

 たいして強くもないのに、あのパーティーでの中心は、いつだって悠久先輩だった。 

 絶対、世界を救ったりしたいなんて思ってもいないのに、仲間の為ならどんな卑怯な手を使ってでも成し遂げる。

 私達の勇者。


「悠久がなんだって?」


「いえ、なんでもないですよ」


 やっぱり、あたし一人ではすぐにボロが出る。

 

 本当は、こっちの世界に来てすぐに、悠久先輩にあって、いろいろ相談すればよかったのに。

 一人でいろいろやった所為で、余計にダメになってしまった。

 これから先も続けていけば、もっとボロが出るだろう。


 ならば、これで最後にしてしまった方がいいのかもしれない。


「ありがとうございました」


 あなたと会えて、本当に良かった。


「あたし、帰りますね」


 帰ろう、あたしのいるべき世界に。

 全部の魔法が解けたなら、あたしの悪事が花開く。

 拷問をした女の子達。

 死んだ後に、人生を奪われた女の子。

 全部の責任を負わされる、もう一人の自分。

 不幸になってしまえばいい。

 他人の不幸が、普通でないあたしにとっての幸せなのだから。

 

 そして、なんて酷い女だったと思ってくれれば、きっとトウヤ先輩は、次に進んでくれると思うから。

 

 背を向けて、歩きだそうとすると、トウヤ先輩に手を掴まれた。


「帰らないでよ。レミちゃん。ずっと一緒にいてよ」


 熱い手、どこまでも必死で一生懸命。

 誰よりも、あたしのことを思ってくれる人。

 決意が揺らぐ。

 夢を見続けたいと心が叫ぶ。


「なんで……なんで……そんなこと言うんですか。あたしが本当はどんな女か、気づいてますよね」


 トウヤ先輩は、首を横に振る。


「文芸部の部室で、いつも楽しそうに笑ってる。それが俺にとってのレミちゃんだよ」


 あたしが嫌いなあたしを嫌いで、あたしが好きなあたしだけを好きになってくれるそんな人。


「なら、もう一度言ってもらえませんか」


 何をなんて言わない。

 ほしいのは、あの日の言葉。

 きっと伝わる。

 そう信じてあたしは、言葉を待った。

 

「レミちゃん、付き合ってほしい」


 あの日の夢が今に繋がる。

 人生で一番嬉しかった言葉。

 夢の中で答えられなかった回答を今なら言える。


「はい! 喜んで」


 感情が涙とともに溢れてくる。

 純粋で自分自身が最初からもっている本当のこと。


「大好きだよ。レミちゃん」


「あたしも大好きです。トウヤ先輩」


 夢見る資格を与えるのは、いつだって自分自身。

 誰になんと思われようとも、あたしはあの日見た幸せな夢の続きを追い求める。


 だってあたしはあなたのことが『大好き』です。

 この感情だけは、絶対嘘じゃないから。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 人生で、はじめて挑戦した長編になります。


 自分の恋心の為に戦う姫。

 自分の快楽の為に戦う僧侶。

 自分の金の為に戦う闘士。

 そして、姫と仲間のため『だけ』に戦う勇者。


 世界の為とか、

 よく知らない誰かの為に

 勇者パーティーは戦わなくてもいいじゃないか。


 そんな思いを込めて書いた物語です。


 そして、この物語を象徴するようなレミーシア。

 善良な人々すら拷問し、人の苦しむ様を見ては笑う。

 救いようがないほど、悪の権化みたいな性格です。

 他の物語ならきっと彼女は、悪役として倒されるのではないでしょうか。


 彼女は、こんな残酷な世界で生き残る為には『最低』な方がいいと言いながら、『普通』を追い求める女の子でもあります。


 彼女もハッピーエンドになりました。


 これで、この物語は一応、完結になります。


 だけど、彼らの物語は、『夢見る僕らの文芸活動』で続いていきます。


 この物語の部活動の部分だけを凝縮したような話なので、今後も楽しそうに会話する彼らをみたい方は、そちらもよろしくお願いします。 


 

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