表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
僕らのその後
61/62

部活動 乙女の秘密系

 トウヤが僕らの姿を見つけた。

 トウヤが驚いた表情をして、駆けてきた。


「レミちゃん?」


 信じられないといった顔だ。


「そうですよ。偽物の方のレミです」


 あっているけど、自ら偽物を名乗るってすごいな。

 トウヤは感極まって、レミちゃんの手を握る。

 抱きついたりしないところがトウヤらしい。


「でもどうして?」


 二度と会えないと思っていたのだろう。

 当然そういう疑問になるよな。


「あの頃本当の私は病気で寝込んでました。私の魂の一部がレミに取り憑いていたんですよ。ようやく回復して、あの頃のことを思い出して会いに来ました」


 そういうストーリーでいくのか。

 レミちゃんはことのいきさつを説明する。

 幽体離脱をしていたと、今ではそんなことはできなくなったと、

 長い時間をかけて準備しただけあって、よく作り込まれている。

 確かに僕は、レミちゃんのことを悪霊のようなものとトウヤに説明した。

 意外と悪くないかもしれない。

 レミちゃんはトウヤに車の免許証を見せる。


「私の本当の名前は莉愛といいます」


「あれ? 確か夢では、本名はレミーシアだって」


 レミちゃんはほんの少しだけ嬉しそうな顔をして、悲しそうな顔になった。


「それは夢での話ですよね」


 嘘のストーリーを押し通そうとすると、そのことはなかったことにしなければいけない。

 傍目にも心が通ったように見えた出来事だった。

 それをなかったことにするのは、レミちゃんにとって辛いことだろう。

 

「二人とも同じ夢を見ていたんですよ。同調夢ってやつですね」


 レミちゃんはそう言ってしまった。

 あのときのことを全部なかったことにしたくなくて、思わずといった感じで。


「そうなると本名は、レミーシアじゃないんじゃ……」


「それは……」


 せっかくの再会だというのに、二人の顔がかげる。

 レミちゃんにいたっては泣きそうだ。

 ののかは呆れてため息をついている。

 いや、きっと姫の方か。

 姫ならば嘘をつくのに、そんなへまはしない。

 目的のためならば、味方ごとだます。

 自分の心すら押し殺して。


 だけど本当はトウヤをだます必要なんてない。

 普通に正直に話した方がトウヤはすんなり受け入れてくれただろう。

 嘘をうまく組み立てられなければ、矛盾が生じるものだから。

 本来とんでもなく難しいのだ。

 今からでも素直に真実を話しても、間に合うと思う。

 だけど、レミちゃんはそれではダメなのだ。

 レミちゃんにとっての夢は、普通の可愛いお嫁さんだから。

 異世界の住人なんて、もうすでにNGなのだろう。

 トウヤが偶然あちらの世界に来てしまったときは、感情的にいろいろとしゃべってしまっていた。

 だからトウヤが過剰に希望を抱かないように、

 レミちゃんがあとあと言い訳しやすいように、僕は逃げ道のために、夢だよと強調しておいたのに。

 

 レミちゃんが困ったように僕をちらりとみる。

 

 戦闘は誰よりも強くて

 見た目は、大人っぽくなったのに、

 いつまでも世話のかかる後輩だ。


 そんなに悲しそうな顔をしないでよ。

 わかってるよ。

 僕は僕の最善を尽くしてみるから。

 僕はトウヤの方を向いて言った。


「トウヤ、最後に校舎見て回ろうよ」


「なんでいまさら」


「記念だよ」


 強引に、トウヤの背中を押して、校舎のほうに戻す。


「ののか。レミちゃんと先に僕の家に行ってて」


 最初から三人で卒業パーティーをするつもりだった。

 せっかく最後に四人そろったのだ。

 レミちゃんも交えてやりたい。

 もちろん楽しく。


「私は……」


 ののかはののかでレミちゃんと二人っきりになるのはまだ不安そうだ。


「大丈夫だろ?」


 だってののかの中には姫がいるんだから。

 『姫、二人を頼むよ』と心の中で語りかけると、ののかの影が頷いたような気がした。

 僕とトウヤは桜散る学校の中に舞い戻った。


◇ ◇ ◇


 僕は校門から少し進んだ木の下で立ち止まった。


「ここでレミちゃんに初めてあったんだったね」


「そうだな」


 初めて四人がそろった場所。

 僕があちらの世界を正しく認識はじめたきっかけでもあった。


「忘れられないよな」


 トウヤもしんみり呟いた。

 なんでもない木の下も思い出があれば素敵な場所になる。

 勧誘場所、教室、中庭、グラウンドいろんな場所に僕らの三年間がつまっている。  

 最後に僕らは部室を訪れた。

 もちろんこの場所が一番の思い入れがある。


「結局、後輩入ってこなかったなぁ」


 三年にあがるときも勧誘はした。

 案の定というか、だれも入部してはくれなかった。

 部員の人数を満たしていなかったのに卒業まで使わせてくれた生徒会長には感謝しかない。

 来年この部屋は、他の新しい部に受け継がれるとのこと。

 僕らがオカルト部から受け継いだように、青春がバトンタッチされていくのだろう。


◇ ◇ ◇


 僕はいつのまにか自分の席になっていた。

 パイプ椅子に座った。

 トウヤも自分の席に座るが俯いている。


「せっかく高校生最後の日なんだ。部活動をしよう」


 うつむいていたトウヤが顔を上げる。


「おい。悠久こんな時に何を言ってるんだ」


「こんなときだから言っているんだよ」


「こんなときって、そんな気分じゃ」


 僕は、トウヤの言葉は無視した。


「テーマはそうだな。乙女の秘密系にしようか」


 トウヤはあきれ果てていた。


「悠久はいつも俺の言葉聞かないよな。わかったよ。付き合えばいいんだろ。テーマはなんだって?」


「乙女の秘密だよ」


「乙女の秘密? そんなジャンル聞いたことないぞ」


「ジャンル名は僕が考えたんだけど、パターンはよくあるよ」


「どんなやつだよ」


「クラスで可愛い彼女実は人には言えない秘密があって……とか、クラスで一番美人の女の子の秘密を僕は知ってしまい……とか、一見普通の女の子その正体は……とかで始まるタイプの物語かな」


「確かによく聞くパターンだな」


「物語も作りやすくて、ヒロイン側の女の子に、人には言えない何かしら属性を持たせるんだよ。よくあるのは、殺し屋とか、化け物とか、宇宙人とか、本来怖めの属性だね。逆に女の子って属性は、それだけで柔らかい印象を受ける。さらに美人とか可愛いとかで怖めの属性が中和されていい塩梅になる。冒頭は、偶然女の子のなにかしら、殺しの現場だったり、変身するところを偶然見てしまって……ていうボーイミーツガールの王道を使用できる。主人公の男の方は普通でいいから感情移入がしやすいし、自分以外にばれないように走り回って、女の子と仲を深めていって、最後は結ばれハッピーエンドっていうのが典型パターンだから話も作りやすいんだ。秘密の深刻さ具合でも、物語の感度を調整しやすい。殺し屋でも無差別に殺しまくるのと、悪人を殺すのでは、印象が違うしね。男の子側も悪側にそまってしまうとか、逆にヒロインと対立する側になるとか、バリエーションも作りやすいから、小説かいてみたなぁぐらいの人のぜひ書いてほしいね」


「そういわれると、書いてみたくなってくるな」


 よしよしトウヤもいつもの調子がでてきた。

 ここからが本番だ。


「あともう一つ、乙女の秘密には、典型パターンが他にもあって、こっちはホラーとかで使われるやつなんだけど、乙女の秘密を知ってしまうとバットエンドになるタイプの物語だ」


「なんだよ。それ?」


「だれでも知ってる例だと、童話の鶴の恩返しがこれに当たるかな。有名な話だからトウヤもあらすじぐらい知ってるだろ」


「そりゃな」


「突然訪れて、一緒に暮らすようになった美女、性格もよく、不満も特にないけれど、機織りの最中だけ決してふすまを開けないでくださいという、男は秘密を知りたくて、ついにふすまを開けてしまうと中には一羽の鶴がいた。美女は本当は昔助けた鶴だった。知られてしまったら一緒には暮らせないと別れが訪れてしまう。あらすじとしてはこれだけだね。鶴の恩返しには怖い要素はないし、子供にも悲恋の寂しさを伝えやすいいい作品だと思うんだ。怖めの話になってくると、雪女の伝承とかもこの手の類かな。妖怪の美女なんて大体、秘密を知ったら食べられてしまうものだからね。どちらの物語にも共通して言えることは、秘密を男が知ろうとしなければ、幸せでいられたんだ。愛情よりも好奇心が勝ってしまえば碌なことにはならない。僕はこの手の話を読むたびに、主人公の男は馬鹿だなぁと思うんだ。恋人にだって言えない秘密は、みんなあるもんだよ。トウヤもそう思わないか」


「俺は……」


 トウヤの目が泳ぐ。

 君のことが大好きだと言いながら、ほんの少しだけ昔の恋人のことを思い出す人間もいるだろう。僕はそのくらい悪いとは思わない。

 そのことを相手に伝えなければ、別にいいじゃないか。

 純粋無垢の人間なんて、本当に一握りだろう。

 僕もそうだ。

 ののかに姫の記憶があったとしても、僕があちらの世界で殺してきた人間のことをののかに話したりしない。

 笑って過ごすためには、秘密にすることは大切だと思う。


「かわいい女の子が、好きだからという理由だけで、命をかけて会いに来てくれたんだ。鶴でも雪女でも魔女でも宇宙人でも化け物でもなんでもいいじゃないか僕がもしもそういう物語を書くとしたら、男は一生秘密を知らないまま、幸せに暮らしたというハッピーエンドにしてやりたい」


 僕が何を言いたいかトウヤにはわかるだろう。

 僧侶は酷いやつだが、嘘つきではない。

 姫のように、終始一貫して嘘をついたりできない。

 トウヤが秘密に迫ろうとすれば、あっさりバレるだろう。

 二重人格やらの超常現象は、もうトウヤも体感している。

 魔法があるわけないと笑い飛ばせるほど、トウヤも馬鹿ではないだろう。

 だから、二人がハッピーエンドを迎えるためには、トウヤが秘密から逃げるしかない。


「悠久は……」


「僕は、自分がかきたい物語の話をしているだけだよ」


 だから、まずは僕にもこれ以上質問しないでほしい。

 ここが最初の関門なのだから……。

 トウヤはいろんなことがないまぜになった顔をして、ごくんと飲み込んだ。


「ありがとな。悠久」


 ようやく晴れ晴れとした顔を見せてくれた。


「応援してるよ」


 僕はトウヤに笑いかける。

 幸せになるためには、真実は全部知らなくたっていいはずだ。

 覚えておかなきゃいけないことは一つだけ。

 レミちゃんはトウヤのことが大好き。

 これだけでいい。

 

 トウヤが歩む道はいばらの道だとは思う。

 だけど、きっと綺麗な花もいっぱい咲いているから。

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ