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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第一章 僕と姫
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部活動ホラー系

 僕とののかは生徒指導室に呼ばれた。


 どうやら抱きついていたのを、どこかの先生に見られてしまったようだ。

 そのくらいいいじゃないかと思うけれど、世間的にはお堅い進学校ということになっているので、まずいのかもしれない。

 とはいえ、体裁だけなのだろう。

 生活指導を行っているのは、明らかに業務を押しつけられたような若い女の先生である。

 先生はなにかいろいろ理由をつけて頑張って説教しているが迫力がない。


「もう! 聞いていますか?」


 目をつり上げて怒っているが、むしろかわいいぐらいだ。

 怒られている自分が言うのもなんだが、もっと強面の先生を選任すべきだと思う。

 なんだかあきてきたなと思っていたら、先生から死角になるように、ののかが手をつないできた。

 恋人繋ぎとかではない。


 この手の繋ぎ方は、『指相撲』だ。


 ののかの方を見ると

 もう、ちゃんと先生の話きいてるの?

 といわんばかりの神妙な顔をしているが、絶対ののかの方が聞いてないのは間違いない。

 仕方なしに視線は先生の方にむけると、キュッとののかが握力をつよくした。

 つまりこれは、ゲーム開始の合図のようだ。

 顔は、怒られているので反省していますといった顔をしなくてはいけない。


『変則にらめっこブラインド指相撲』


 にらめっこか指相撲かどちらかで負けると負けだ。

 多分、負けた方は何か言うことをきかないといけない。

 アイコンタクトでそうつたえてくる。

 これは負けられない戦いだ。


 指先に神経を集中しようとしたところで、

「悠久君反省してますか」

 先生がきりっとにらみつけてきた。


 いや、絶対なんにも反省してないのは、ののかだから。

 まあ、抱きついたのは、僕なので、悪いのは、僕なんだけれども。


「一応、親御さんに連絡しますからね」


「あ、はい」


 先生はそういうと目の前で電話をかけ始めた。

 どうやら僕の親父にかけているようだ。

 先生は電話をスピーカーにした。一通り先生が説明したあと、親父が質問してきた。


「相手はののかちゃんか?」


「ええ、そうです」


「息子が自分の彼女に抱きついたくらいで仕事中に電話かけてくるなよ」


 電話の向こうから舌打ちが聞こえてくる。

 ガラ悪いな親父。

 完全に先生は怯えている。


「先生」


「えっ、あっ、はい」


「いかがわしいことは家でやれって言っといてください」


 ブチッと電話が切れた。

 家ならいいのか親父。

 あいかわらずむちゃくちゃだな。


「……」

 意気消沈する先生。

 モンスターペアレントの相手大変だなぁ。

 

 まあ、僕の親父なんだけど。


「……。次はののかさんです」


 今度はののかのお母さんのようだ。

 同じように一通り説明すると、ののかのお母さんも同じように、質問した。


「悠久君ですか?」


「ええ、そうです」


「あらあら、まあ、そうですか」


 さっきとは打って変わって朗らかな雰囲気で、先生もほっとしている。


「お母さまからも注意してもらえますか?」


「わかりました。えーと。なに注意するのかしら。そうそう、今日の夕ご飯はハンバーグだから、買い食いせずに早めに帰ってきてね。悠久君もいいかしら?」


 自由だな。ののかのお母さん。

 僕とののかは「はーい」と返事した。

 切れた電話をぽかーんとした表情で見つめている先生。


 電話をかけた相手が悪かったな。

 これがうちの母さんとののかのお父さんだったら、普通の反応だっただろうに。

 ただ親父も、ののかのお母さんも抱きついた相手がだれかだけは、ちゃんと確認していた。

 その辺はちゃんと親だよなぁと思う。


 意識が戻ってきた先生はのろのろとこちらを見ながら言った。


「……。あなたたち親公認?」


「公認かどうかよくわかりませんけど、今日もののかの家でご飯みたいですね」


「今日もって、いつも行っているみたいな」


「みたいじゃなくて、いつも行っていますよ」


 先生は、怒気を強めて睨みつけてくる。

 指導を始めた頃より断然怖いぞ。


「私は相手すらいないというのに!」

 

 いや、私怨を込められても、困るんですけど。


「いいですか。私は注意しました! これからは節度ある高校生活を心がけてください!」


 のしのしと足音をたてながら部屋を出ていく先生の後ろ姿を見ながら、ののかが言った。


「節度ある高校生活ってなんだろね?」


「エロいことするなってことだろ」


「エロいことって、どの辺まで?」


「妊娠しなければいいんじゃない」


「そっかぁ」


 付き合って一年以上のカップルの会話ってこんなもんだよね。

 指相撲は普通に負けていた。


◇ ◇ ◇

 

「こってり絞られたか」


 文芸部の部室につくと、トウヤにそうきかれた。


「いーや?」


 多分、ダメージは先生の方にはいっていた気がする。


「大体、トウヤの髪色はそれで怒られないのか」


「地毛で押し通してるから、逆に他の色にならなければ、セーフ」


 なに言われても『地毛です』て返されて先生が根負けした情景が浮かんだ。きっとトウヤの指導もあの先生だろう。

 可哀想だな。


 ののかは説教されていたことなんかすっかり忘れて、

「ラッキー、だったね。部室もらえて」

 部室を手に入れたことを喜んでいた。


 部員が4人になったので、部活動として認められ、ちょうど3月でオカルト部が廃部になったらしく申請したら、すぐ部室がもらえたらしい。

 そのかわり散らかってるから、片付けてほしいとのことだったので、快く引き受けたそうだ。


「レミちゃん、入ってすぐ、片付けとかさせてごめんねー」


 ののかが、レミちゃんに抱きつきながら、そう言った。レミちゃんは目を見開いて驚いている。

 いかんせん見た目は姫そっくりだけど、中身は別人なので困惑しているのだろう。

 僕があっちの姫になれるのに時間がかかったように、レミちゃんは、ののかに慣れるのに時間がかかるかもしれない。


 レミちゃんは鳥肌たった腕をさすりながら、

「いえ、トウヤ先輩がほとんどしてくれました」

 そう答えてにっこり笑った。


「何張り切ってるんだよ」

 僕は、トウヤを肘でつついた。


「いいじゃないか別に」

 トウヤは、そっぽをむいて赤面している。


 かわいい女の子の後輩ができて張り切ったのだろう。

 単純でわかりやすい。

 派手に見えて、誠実なやつなので、いきなり変なことはしないだろうし、もう少し2人っきりにしてやってもよかったかもしれない。

 ふと部室の机の上を見ると手書きのノートがおいてあった。


「このノートはなに?」


「資料整理していたらでてきたんですけど、オカルト部の活動記録ですね。この町に伝わるオカルトを調べてたみたいです。先輩みてもらっていいですか?」


 渡されたノートを開いてみる。



・憑き物

 この町では、昔から突然性格が変わったようになる人が多い。ただ記憶などはしっかりしているため、本当に性格が変わってしまっているだけの可能性もあるが、なにか憑き物がついているのではないかと言われている。



 僕はレミちゃんの顔を見た。

 多分同じことを考えているのだろう。

 レミちゃんの境遇によく似ている。



・ドッペルゲンガー

 数年前に警察に『自分に殺される』といって駆け込んできた人がいたそうだ。

 訳が分からないと警察はとりあわなかったそうだが、数日後、その人は死体でみつかったそうだ。

 外傷はなく、死因がよくわからなかったため、心臓発作ということになったらしいが私はドッペルゲンガーではないかと予測している。



 えーと、ドッペルゲンガーって自分とまるっきり同じ姿の人物にあうと死ぬとかだったかな。ちょっとこれはよくわからない。



・フライングヒューマン

 この町では、たびたび空飛ぶ人の姿が目撃されている。



 これはシンプルだな。

 スーパーマンかなにかか?

 やっぱりよくわからないけど。



・夢か現か

 この町では、昔から起きているのに、夢を見ていると言う人がいるらしい。

 その人曰く、本当の自分は別の世界にいてこちらの世界が夢の世界ということらしい。

 その人のいう本当の世界は、ドラゴンがいたり、魔法が使えたりとファンタジーの世界なので、どちらかと言うとそちらの世界の方が夢としか思えないが。


 

 夢か現かという言葉は、昔中国の荘子という人の話が有名だろう。夢の中で胡蝶(蝶のこと)としてひらひらと飛んでいた所、目が覚めたが、はたして自分は蝶になった夢をみていたのか、それとも今の自分は蝶が見ている夢なのか、という説話。

 この説話自体は、自由な発想を持つようにとかそういう意味合いだと思うけれど、自分とレミちゃんの境遇はまさにこの状態である。

 もはやどっちが現実かわからなくなってきている。


「どうかしたのか。いろいろ書いてあるみたいだけど」


 トウヤが不思議そうに聞いてきた。


「いや、なかなかジャンルは偏っているけど、ホラーや妖怪系の話を書く資料としてはいいなと思って」


 僕は、ごまかすように適当なことを言った。


「なんだよ。ちゃんと小説書くのか」


「当たり前だろ。文芸部を何だと思ってるんだ」


 トウヤは、合コンか何かと思っているんだろうけど、こっちは大真面目に部活をするつもりだ。


「片づけ終わらせてくれたから、ちゃんと今日から部活するよ」 


 僕は自分は立ったまま、みんなに座るように促す。


「今日のお題はホラー系にしよう」


 僕はトウヤとレミちゃんに鉛筆と原稿用紙を渡した。ののかは自分でカバンから取り出す。


「いきなりホラー系書けと言われてもどう書けばいいんだ」


 渡された紙を見ながら、困惑したようにトウヤがいった。


「ホラー系でも、スプラッタ系、殺人鬼系、呪い系、お化け系、ゾンビ系といろいろあるけれど、共通していえることは、恐怖を感じるということかな。人間が一番恐怖を感じることは何かわかる?」


「『死』じゃね?」


「そう、なので、何かが原因で誰かが死ぬ。その死が主人公にも迫ってくる。その死を主人公がどうにかする。もしくはできなくて主人公が死ぬっていう流れで書くといいよ」


「なるほど、原因ってやつはどうすればいいんだ?」


「推理要素があると読後感はいいんだけど、初心者には難しいので、最初のおすすめはひたすら理不尽なやつがいいんじゃないかな。殺人鬼系が設定考えるの楽かもしれない。有名どころのジェイソンみたいに、危ない武器持たせて、恐ろしい容姿にしたら出来上がり」


「3分クッキングみたいに言うなよ」


「コツとしては、最初の方に登場人物を多めに出した方がいいよ」


「なんでだよ?」


「途中で何人か死んで人が少なくなっていくからに決まっているよ」


「物騒すぎるだろ」


「あとはできるだけ死んでほしくないと思わせるようなキャラを死なせることかな」


「酷すぎるだろ。お前に人の血は流れてないのか?」


「何言ってるんだよ。物語の話だろう」


「そうだけど、ちなみに例えばどんな人を死なせればいいんだよ?」


「初心者におすすめなのは、恋人かな」


「お前な。初心者にそんなのすすめるなよ。大体、お前はののかちゃん死んだらどうするんだ?」


「あと追って死ぬよ」

 ぼくは、間髪入れずに答えた。


「ふふっ、嬉しい」

 ののかが頬を赤らめる。


 トウヤの顔を見ると、ドン引きしていた。


「いやいや、お前ら二人ともおかしいだろ。レミちゃんどう思うよ」


「えっ、あ、はい。悠久先輩みたいな人は、ホラー小説の主人公にはふさわしくないと思います。物語が終わってしまうので」


 トウヤは、そうだけどそうじゃないみたいな不思議な顔をしている。ツッコミするのを遠慮しているのだろう。

 難儀な奴だな。

 レミちゃんもレミちゃんで、なんか違ったかなと不思議そうな顔をしているが、遠慮して質問できずにいる。


 似たもの同士か。


 ふたりとも僕には遠慮なく何でも言うくせに、遠慮しあっている。


 初々しいなぁ。


 トウヤは、鉛筆を机におくと僕に不平を言った。


「そもそも初心者にホラー小説はむいてないだろう」


「そうかな。人が死ぬところを書く練習にはいいと思うよ。人は意外と簡単に死ぬからね」


「よく人を殺すような言い方をするなよ」


「本当に人を殺すわけないだろう」


 ははは、と僕は笑った。

 「まあ、そうだよな」と、何かと文句をいいながら、トウヤは律儀に少しずつ紙に文章を書き始める。


 それを見て、僕も自分の創作に取りかかった。


 僕は紙に、

 『殺人鬼が人を殺した』

 と書いてみる。

 もちろん現実での出来事ではない。


 僕だって、人を殺したことはない。

 そう、そのはずだ。


 少なくともこちらの世界では。


 僕はまだあちらの世界が夢であると信じている。

 

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