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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
闘士のその後
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これから一緒に生きる人

 はあ、イヤになる。

 好きな男が自分を訪ねて来てくれるのは、嬉しいが、話す内容は、他の女との旅の話ばかり。

 内容は面白いが、どうして旅で隣にいるのが自分ではないのだろう。

 親から早く結婚しろと愚痴も多くなってきた。

 そろそろこの関係を終わらせて、次に進むべきなのかもしれない。

 心が血を流すのを覚悟で、いいたくない言葉を口にした。


「カミリ、あなた僧侶様と結婚しないの?」


「するわけないだろ」


 回答は意外とあっさりしたものだった。

 そうだとしても腑に落ちない点もある。


「だってあなたいつも一緒にいるじゃない」


 それに、あなたは僧侶様のこと好きだったでしょう。

 とは口に出せなかった。


「ああ、だけど、あいつ別に恋人いるし、振られたから」


「振られたのっていつ?」


「戦争終わった直後」


「でも、あなたこの間も僧侶と二人で旅してなかった?」


「そうだけど、どうかしたのか?」


 信じられない。

 振った男と二人で旅する女も、振られた女と二人で旅する男もどっちも。

 初めて会った時から、常人と感覚がずれまくっていたから、この人に常識を当てはめるのは無意味むしろチャンスと思うべきなのかもしれない。

 意を決して、私は言った。


「じゃあ今度は私と旅しませんこと?」


「えっ、嫌だけど」


 秒で断られた。

 振られた女とは旅するのに。

 友達の私と旅はしてくれないのはどうしてなのか。

 友達としてはともかく、女としての魅力はゼロなのだろうか。


「ど、どうして?」


「だって、もう戦えないっていってただろ。人間と魔族の戦争は終わったけど、魔物はいっぱいいるし、仲悪い種族も当然いるから、旅をしてたら戦いになるからな」


「あ、ありがと」


 そっかぁ。

 私のことを思ってくれて……。

 すごく嬉しい。


「で、でも、あなたレジストできないわよね。僧侶様がいないとき困るんじゃ」


「大丈夫、僧侶からこれ貰ったから」


 レジストのお守りを見せてきた。


「なるべく目立つ位置につけておけって」


 超高度なレジスト魔具。

 レジスト回数も10回と申し分ない。

 さすが僧侶様。

 でもこういう系統の魔具は所持しているだけで効果が発動するから目立つところに付ける必要はないはず。

 デザインも女性からの贈り物そのもので、カミリの他の装備から浮いている。

 僧侶様は自分が与えたものを身につけさせるなんて、他の女が寄り付くのを邪魔している。

 つまり、どう見ても自分の恋路の邪魔をしているようにしか思えない。

 聖女のような方だと思っていたけど、どうも悪意が見え隠れする。

 でも、きっと勘ぐりすぎですわね。

 カミリと同様ちょっと感覚が普通の人と違うだけでしょうね。


「なら、別に危険な場所にいかない旅するならいいわよね。例えば、あなたの地元とか見てみたいわ」


 冒険がしたいわけではないので、未開の地に行く必要はない。

 ちょっと別の町に行って、おいしいもの食べて帰ってくる日帰り旅行ぐらいがちょうどいいかもしれない。


「いや、無理だって」


「ど、どうして?」


「地図あるか」


「ええ」


 私は、地図をテーブルの上に広げた。


「俺の実家ここ」


 闘士は世界最高峰の山の中腹あたりを指差した。


「こんなところ人行けるの?」


「むしろ普通の人間がこないから俺の種族はこんなところに住んでるんだ」


 話を詳しく聞くと、どうやらカミリの種族は魔力がないそうで、魔力耐性がゼロとのこと。

 世界は混沌の魔法全盛期。

 通常より肉体的には優れていた種族のため、人が寄り付かない場所で暮らすことにしたとのこと。


「僧侶様は行ったことあるわけ?」


「俺を勧誘しに来た時一度だけなら」


 あるんだ……。


「なら、私も行くわ」


「いや、無理だって」


「無理じゃないわよ」


「どうしたんだよ。今日はそんなに」


「だって僧侶様はいけたのよね」


「あいつは行けるよ。あいつはどう考えても、普通じゃない。知ってるだろ」


「それは……そうだけど」


 この町に攻め込もうとしていた大軍を、一撃で崩壊させたと言われている伝説の魔法使い。

 ただカミリもその伝説のパーティーの一人なのだ。

 カミリと一緒にいようと思えば、実力が追い付かなければならない。

 すぐには無理でも、せめてカミリの町ぐらいには行けるようになりたい。


「それに俺は、嫁見つかるまで帰ってくるな言われてるんだよ」


「なら、絶対行く」


「お前、言ってる意味わかってるのか?」


「わかってるわよ」


「なんだよ、お前、俺のこと好きだったのかよ」


「そうよ。わ、悪い」


「悪くはない。むしろ嬉しいけどよ。あいつのことはもういいのか?」


 あいつとは、ロミスミのこと。

 きっとカミリは、負い目を感じて、ずっと心配してくれていたから会い来てくれていたのだろう。


「いいわけではないけど」 


 恋人だった。

 だけど、結婚していたわけでも、子供がいるわけでもない。

 なんの繋がりもなしに、ずっとずっと思っていられるほど私は強いわけでもない。

 悲しむことに疲れた。

 このまま前に進まなかったら、むしろ嫌いになってしまうかもしれない。

 だから、一緒に悲しんで、共に生きてくれる誰かがほしい。

 それが今、私が好きだと感じている人だといい。


「でも、あなたが好き。今度一緒にお墓参りいってくれる?」


「そうだな。報告しないとな」


 お互い少し寂しげで嬉しそうな顔をして、唇を交わした。

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