世界征服ではなくて
「昨日は昼間からずっと寝てるからビックリしたよ」
ののかの方が珍しく僕の家に来ていた。
昨日は昼間からずっと寝ていたので心配したらしい。
「ごめんって」
疲れがきて、とかいろいろ言い訳が頭をよぎったけれど、ののかには素直に話すことにした。
暗殺などは伏せて、あちらの世界で夜通し戦ったこと。
第一王子を倒して、姫が王国も支配したことをきかせた。
「ということは、ようやくあっちの世界の戦いは終わったんだよね」
「終わったは終わったけれど、世界征服? 完全に悪役の終わらせかたなんだけど」
「ふふふ、姫らしいね」
「らしいけどさ」
「姫がなしたことは、世界征服じゃなくてもっといい呼び方があるよ」
「なんだろう?」
「天下統一っていうんだよ」
「確かにそっちの方がしっくりくるかもしれない」
姫がやりたかったことが天下統一であれば、確かに王子は邪魔だったのかもしれない。
「征服って武力で支配するって意味合いが強いけど、姫が支配した地域の人たちは姫のことどう思ってる?」
「結構みんな姫のこと好きなんだよな」
姫の領地で姫のことを悪く言う人はいない。
魔族もそうだ。半分は騙されているとはいえ、姫のことを悪く言うものはほとんどいない。
「戦国の世を治めた豊臣秀吉も、だれもかれもというわけではないと思うけど、きっと人望は厚かったよ」
「そうだよね」
織田信長は力はあった。
だけど天下統一はできなかった。
人望がなくて、部下の明智光秀の裏切りにあったからだ。
姫の部下である、僕も僧侶も闘士も姫を裏切ることはないだろう。
無理やり操られていた前魔王の娘であるアイカですら、今では姫のことを慕っている。
「でも全然姫の本心は全然分からないよ」
嫌いにはならない。
だけど何を考えているかはまるで分らない。
「素直じゃないだけだよ。姫はぶきっちょだけど、優しいからね。本心を話してくれないかもしれないけど、悠久は信じてあげて」
「どうしてののかはそんなことわかるんだ」
「わかるよ。だって姫の魂と一度は融合したから」
そういえば、そうだった。
僕と勇者と違い融合。
記憶どころか感情も共有したにちがいない。
そういえば、姫がしょんぼりしているとかののかは言っていたっけ。
懐かしいな。
あの頃はまだ魔族と戦っていたころだ。
「ねぇ。もう戦いが終わったなら、あっちの世界の話をもっと聞かせてよ」
「それは、その……」
戦争とはいえ、たくさん殺してきた。
それをののかには話たくない。
「うん。わかるよ。私も戦いの話がききたいわけじゃないの。あっちの世界は戦いばかりだったかもしれないけど、それがすべてじゃないよね」
「まあ、確かに」
今思えば、いろんな場所に行った。
いつもの4人で。
余裕はなかったけど、笑っていたこともたくさんあった。
最初は仲が良くなかったけど、今では大切な仲間だ。
旅先でいろんな人にあった。
沢山言葉を交わした。
いい人がいっぱいいた。
ずっと戦っていたきがしたけれど、剣は鞘に収まっている時間の方が長かったはずだ。
ののかの顔をみる。
今なら、思い出として話せるかもしれない。
「話長くなるよね。今日はこっちに泊まっていい?」
「さすがに隣通しとはいえ、泊まるのはダメなんじゃない」
近すぎて、同性の友達にアリバイをつくってもらうという手が使えないのがたまにきずだ。
「悠久のお父さんとお母さんはいつも通り出張でしょ。うちのお父さんとお母さんも旅行でいないんだ」
「ののかをおいていくなんて珍しい」
「社員旅行だよ。家族も同伴できるけど、私ついていかなかったから、お父さんは私を一人残すなんてって言っていたから、悠久がいるから大丈夫って言っておいたよ。余計心配そうだったけどね」
確かに、ののかのお父さんが心配になる気持ちもわかる。だって、
「泊まってもいいけど、理性がきくかわからないよ」
一年に一回あるかないかのチャンスだ。
気持ちが暴走してしまうかもしれない。
「理性なんて働かせる気ないくせに」
ののかはクスクスと笑う。
「でも健全な高校生活は送らないとね」
つまり、妊娠しなければオーケーということ。
こういう時の為に両親が使っている『あれ』の場所は把握している。
あちらの世界でも、敵に襲われる心配ももうない。
姫との約束は12時。
無理して早く寝る必要もない。
今夜は長そうだった。