第一王子戦
僕は現実世界でベッドに寝るとスリープの魔法を自分自身にかけた。
すぐに世界を移動する。
もう慣れたものだ。
目を開くと、目の前に広がるのは、戦場。
日はとうに暮れていて、頼りになるのは、月明かりだけだ。
担いでくれている闘士が声をかけてくる。
「起きたか勇者。もうすぐ城見えるぞ」
視界が悪いのに、荒れ地だろうが、岩だろうがお構いなしに闘士は爆走している。
途中、野営している敵とすれ違ったが敵は速すぎて何がなんだかわからなかったに違いない。
ちらりと見えた敵は随分消耗しているように見えた。
傷を負ったままの兵士が多数見かけた。
ヒールが追い付いていないのだろう。
それだけ戦場の凄惨さを物語っていた。
僕と闘士は遠くから見ていただけだが、一発目のアトミックサンダーで戦いの火蓋が切って落とされて、そこからは遠距離魔法の応酬。
火属性魔法は、ずっと飛び交っていたし、風と水の魔法でずっと戦場は嵐のようだったし、地属性魔法で大地は変化し続けていた。
刃が交わる音は絶えることはなく、これがこちらの世界の戦争の実態。
一日でどれだけの命が散っていったか分からない。
「勇者どっちが勝ってると思う?」
さすがに魔力感知でもざっくりした敵の量しかわからないけど、それから推察すると、
「互角かな」
つまり、最初劣勢だったはずなので、被害を与えた量は、こちらが多いということ。
「やっぱり僧侶のアトミックサンダーが強いね」
敵軍も、土属性魔法で防ごうとしているが、攻撃が真上から来るせいで防ぎきれていない。
しかも、今日一日で三回以上放たれるのを見た。
多分、撃つたびに睡眠をとっているのだろう。
「本当に僧侶強いよな」
「そうだね」
それでも、今回姫は、第一王子を倒すのを、僧侶ではなく、僕に頼んだ。
それだけ第一王子の魔法は強力で、僕と僧侶と姫の三人合わせても、魔法力で上回れないということだろう。
「城が見えたぞ」
「あれか」
白い外壁に、よく研いだ鉛筆みたいに尖った塔がたっていて、いかにも魔法の世界の城といった感じだ。
僕の実家の和風建築の城とは大違いだ。
闘士は僕を下ろすと、指をさした。
「俺はあっちの平野側で待機してるから、終わったら魔法で合図してくれ」
「わかった」
僕は闘士と別れて、城に向かって駆け出す。
夜が明けるまでに終わらせないと
気分はサンタクロース
運ばないといけないものは、死だ。
夢も希望もありはしないが、確実に運ぶという使命感だけは同じように持っている。
僕は、城に近づくと魔力感知をいつもより精密に働かせる。
トラップ魔法も正面ゲートにいくつかあるが、魔力感知がある僕がかかるはずがない。
ただし、回避するのがめんどくさいし見張りがいると厄介だ。
僕は、結局壁を超えていくルートを選択する。
壁を垂直に登りきると、上から、姫が見せてくれた構造図と実態のズレを修正する。
「窓からいくか」
王子の魔力は消耗しているとはいえ、明らかに大きいので、すぐわかる。
予定通り、王子は後回しにして、できるだけ離れたところから処理していくと決める。
ベランダに降り立つと、火属性魔法で窓の鍵の部分のガラスだけ素早く溶かし、一部屋目に侵入する。
自分より強者でなければ、気づかれないことよりも早さの方が大切だ。
どんな人間か寝ているかろくに確認もせずに、魔力の中心に向かって、振り下ろす。
一人目は、いびきをかいて寝ていたので、仕留めるとむしろ静かになった。
「よし」
まずは一人。
姫にもらった鍵をつかってもいいが窓から行った方がよさそうだ。
むしろ中の惨劇を発見される方が問題なので部屋の扉の鍵が締まっているかを確認する。
敵の幹部は年齢は二十代から六十代と幅があるものの、運がいいことに男ばかりだった
多少の物音はいい。
寝返り程度は誰でもするものなのだから。
一番厄介なのは女の悲鳴だ。
高音はよく響く上に、明らかに異常事態だと分かってしまう。
最後の部屋の2人がいつまでも寝ない。
なんでこいつら夜中になにしてるんだ。
どうも片方が片方の上に乗っかっているような気がする。
もしかして……。
僕は一つ思い当たり、時間がないので強行する事にした。
窓から覗き込むが男は夢中で気づかない。
他の部屋同様に素早く鍵を開けると、風の魔法で音を消しながら、近づき、一撃。
男が急に止まったので、気持ち良さそうな声を出していた女がゆっくり目をあけ、僕と目があった。
「ひっ、わた……」
ひゅん僕は刃を振るった。
びしゃりとあたりに血が飛び散る。
女は使用人の一人だろう。
幹部とはとても思えなかった。
ごめんな。
ちょっと命乞いを聞いている時間もない。
こっちも命がけなんだ。
王子以外で魔力を感じるのは、使用人室のみ。
何人か雑魚寝しているようだが、
姫の指示は幹部を根絶やしだったので、無視でいいだろう。
あとは王子をやれば、全ては終わる。
僕は今度は廊下にでると、姫にもらった鍵で扉を締めて、王子のへやにむかった。
僕は姫にもらった鍵で静かに堂々と王子の部屋に侵入する。
僕は静かに王子が寝ている部屋に入ると、剣を二つとも引き抜いた。
普段の僕がそうであるように、天蓋の中央で王子はぐっすり眠っていた。
もうずいぶんと魔力が回復しているのだろう。
もうすでに僧侶より魔力量が多い。
僕は風の魔法でわずかな音もかき消しながら、王子に近づく。
聖剣とドラゴンキラーで第一王子の胸を一突き。
「がはっ」
と王子が血反吐を吐く。
「よし」
僕は剣を引き抜くとトドメに首を狙ってドラゴンキラーを振りおろした。
王子が首を振って攻撃を避け、逆に僕の服を掴もうとしてくる。
僕はあわてて飛び退いた。
心臓を突かれて動けるのか。
最後に魔法でやられたらかなわないので、窓から飛び出し、離脱した。
最後は驚いたが心臓を突いたのだ、助かりはしない。
「はは、楽勝」
これなら、第3王子の方が大変だったかもしれない。
だけど、この勝利はみんなの犠牲の上に成り立って……。
王子の部屋から、回復魔法の光があふれる。
「そのくらいは折り込み済みさ」
聖剣は回復魔法を阻害する。
聖剣の傷は癒せまい。
次の瞬間、王子の部屋が爆発した。
王子の部屋からドラゴンが立ち上がる。
「まじかよ……」
僕は全力で外に向かって駆ける。
「王子が竜化魔法つかえるなんて、聞いてな……」
とたんに姫がいままでいっていた言葉を思い出す。
『ドラゴンに勝てないようでは、お兄様には勝てない』
『勇者は人化したドラゴンには勝てるでしょう』
そういうことかよ。
あれって比喩的な意味じゃなくて、そのままの意味か。
姫、第一王子は、竜化魔法使うから、その前に倒せってちゃんと教えてくれよ。
だけど、特殊効果のついた二つの剣で攻撃したのだ。
ドラゴンになってもドラゴンキラーの傷はいやせない。
「致命傷のはず……いやまてよ」
ドラゴンキラーの傷を回復魔法でいやして、聖剣の傷をドラゴンの自己再生能力で癒されたら、
「もしかして完全回復?」
僕は全力で疾走した。
絶対勝てない。
前だってドラゴン相手は4人で辛勝だったのだ。
回復魔法も使えるドラゴンなんて、
一人では、到底無理。
城の庭を全力疾走する。
いかに僕が速くても、人間の足で、ドラゴンの機動力に敵うわけがない。
荒れ狂ったドラゴンが翼を翻し、僕に急降下を仕掛ける。
「マズい」
想定外の動きをされて魔法も構成が間に合わない。
迫り来るドラゴンの牙を見て、死を覚悟した時、横合いから飛んできた金の巨大な弾丸のようなものにドラゴンが吹き飛ばされる。
もちろん闘士だ。
「闘士! 助かった」
「なんでこんなところにドラゴンがいるんだよ。王子はドラゴン飼いならしていたのか」
闘士が真っ当な推論を述べる。
「おい。勇者、失敗したのか」
「あれが王子だ」
僕がドラゴンを指差すと闘士が呆気にとられる。
「嘘だろ」
ガラガラと崩れる岩の中から無傷のドラゴンが立ち上がる。
「いいから逃げるぞ。2人じゃ無理だ」
「ああ」
僕は火球で魔法を解除しながら、城の門を潜り抜けて草原を全力で疾走する。
草原側に逃げたのは失敗だった。
遮蔽物がなく、上空から見下ろすことができるドラゴンから僕らの姿が丸見えだ。
僕は、火属性の魔力の急激な収束を感じ取る。ドラゴンブレスだ。
勇者の魔力では明らかに出力負けするのが見えていたので自分自身の魂から水属性の魔法を構成する。
「アクアウェーブ」
僕は、移動と防御を両方兼ねた大波を召喚し、闘士を抱えるとサーフィンの要領で、逃げる。
「距離取ってるな」
闘士の拳を警戒しているのだろう。
一定距離から降りてこなくなった。
距離がある相手に真っ先に思いつくのは、
「勇者、アイスドリルだ」
闘士が僕に指示を出す。
「ごめん。この魔法と同時には使えないんだ」
僕は自分自身と勇者の魔力を同時には使えない。
僕は氷属性がないので、アイスドリルは作れない。
「おい、勇者、この魔法どのくらい待つんだよ」
「五分くらいかな」
断続的に放たれるドラゴンブレスを防ぎながら移動しているため、消費が激しい。
「逃げきれなくね?」
姿をくらませそうな渓谷に向かっているが、いかんせん距離が遠いとても持ちそうにない。
「なんかいい案考えてくれ」
闘士が思案して、口を開く。
「勇者、いい人生だったな」
「諦めるの早いって」
「悔いがあるとすれば」
「あるとすれば? 」
「もっと金稼ぎたかった」
「なんでだよ!もっとこうなんかあるだろ。僧侶と恋仲になりたいとかまともな話が。死ぬ間際でもそんなんだから頭おかしいって言われるんだよ」
「勇者、後悔と高望みは別だぞ」
「そうかもしれないけどさ」
くだらないことを話している間に自分の魔力が尽きてしまった。
勇者の魔力は残っているとはいえ、初級魔法でどうにかなる相手ではない。
王子はドラゴンブレスのモーションに入る。技が何が来るか分かっているのに、防御するすべがない。
ドラゴンがブレスを吐こうとする一瞬前に、天空より雷が飛来する。
雷鳴が大気を引き裂き、ドラゴンに直撃した。
「これは……」
見慣れた魔法アトミックサンダー。
「僧侶か」
でもどうしてこんなところに、昼間は、はるか後方にいたはずなのに。
そう考えていると、目の前に、赤い巨大な隕石のようなものが降ってきた。
大地を震撼させる。
見上げると目の前にもう一体のドラゴンが立っていた。
「レッドドラゴン、どうして? ドラゴンには援軍要請しないんじゃ」
ドラゴンの背中から、僧侶と姫が顔をのぞかせる。
「もちろんしていません。だから、ワタクシの部下にお願いしました」
「部下なのは俺様じゃないけどな。嫁がどうしても助けてあげてというから、仕方なしにだ」
レッドドラゴンが答える。
「ああ、そういうことか」
つまりブルードラゴンにお願いしたら、レッドドラゴンが来たということだろう。
というかブルードラゴンは姫の中で部下認定なのか。
「目には目を、歯には歯を、ドラゴンにはドラゴンでしょう」
最強には、最強を。
すべてを利用し、勝利をもぎ取る。
それが姫の流儀。
ドラゴン領まで、馬車で十日。
急げばもっと短くてすむ。
姫のやるべきことは、ドラゴンを連れて来ること。
悔しいけれど、姫は僕が作戦を失敗する可能性も見越していたらしい。
失敗するなというわりに、全然信頼されていない悲しさ。
敵を欺くには味方から。
その味方には当然僕も含まれている。
姫らしいなあ本当に。
「30年前の屈辱、お前ではらしてやる」
雷で墜落した王子にドラゴンはそう宣言する。
レッドドラゴン仕方なしとか言っときながら、絶対私怨はいっているだろ。
攻撃態勢に入ったレッドドラゴンの背中から僧侶が急いで飛び降りる。
「二人は、やっぱりあたしがいないとだめですね」
僧侶は得意げだ。
「おう。助かったぜ」
こういう時、闘士は素直だ。
「姫も降りて、そんなところにいたら危ないよ」
「いえ、降りません、なので勇者、合図をしたら氷結魔法を私にかけてください」
「姫一体なにを?」
姫はレッドドラゴンに乗ったまま、竜化した王子を見つめた。
王子はアトミックサンダーから回復し、レッドドラゴンにたいして敵意を向ける。
相対する二匹のドラゴン。
もうこうなってしまったら、魔法は意味をなさない怪獣バトルだ。
両者雄たけびを上げると、取っ組み合いなどはせずに、間合いをはかった。
王子とレッドドラゴン二つの火属性の魔力が収束していく。
姫はそんな中、ドラゴンの頭の上に登っていた。
姫が僕に合図を送る。
「「ドラゴンブレス」」
灼熱と灼熱がぶつかり合い、強烈な爆発を引き起こす。
レッドドラゴンは押し負けまいと足を地中に潜り込ませて踏ん張っている。
僕は、姫と自分たちに向かって氷結魔法を放つ。
「なにしてるんだよ、姫」
ドラゴンの頭の上に姫がいなければいけない理由がわからない。
雷で援護しようとしていた僧侶に僕は声をかける。
「僧侶、攻撃はいいから姫にヒールを僕の氷結魔法だけでは、防げない」
「わかりました」
直接、火を浴びているわけでもないのにこの熱量だ。
姫の場所はここ以上だろう。
第三王子のヘルファイヤーも相当だったが、ドラゴンブレスはエネルギー量がすさまじい。
熱波は数分間、世界を覆い尽くした。
先に力尽きたのは王子だった。
ドラゴンブレスはその名の通り、竜の吐息に魔力を乗せたもの。
肺を使えば、当然心臓に負担がかかる。
それに加え、王子にとっては、昨日からの連戦、さらに回復魔法や僕と闘士を追い詰めるために放ったドラゴンブレスでも相当量魔力を消費していた。
本家の全力のドラゴンと真っ向勝負すれば、魔力も底がつくのは道理だろう。
魔力がなくなれば、ドラゴンの姿を維持できない。
魔法が解けると、王子は本来の姿に戻っていった。
僕は王子の心臓でクロスするように、剣を突きさしていた。
二つの剣の特殊効果が重なった点のような傷。
ドラゴンにとってはたいしたことがなくても、人間には致命傷だ。
王子は力尽き大地に倒れ込む。
姫はレッドドラゴンから降りてくると僕に言った。
「勇者はワタクシと来てください」
「了解」
「他のみんなはここで待機を」
「ああ」
「わかりました」
闘士と僧侶は素直に返事をする。
レッドドラゴンは人化すると
「がっはっは」
勝利の高笑いを上げていた。
言われたとおり僕だけ姫についていった。
姫について行くと、草の上に王子が横たわっていた。
まだ息はあるが、
胸の中心から魔力と生命力が霧散していっている。
もう長くはないだろう。
「兄様は相変わらず優しい。最後ドラゴンブレスの威力弱めましたね? 子供の頃に1回遊んだだけの、腹違いの妹を殺せませんか?」
「酷い妹だ。わかっててあんなところにいたのだろう」
「他の兄弟みたいに、殺せばよかったでしょう?」
「僕は誰も殺していない。ほとんど他の兄弟も……父さんと母さんも殺したのはダグルだ」
「ダグル兄様は、結局ワタクシが殺しましたよ」
姫が殺した兄様? ああ、第三王子のことか。
「あいつダグルの件は、確かに悪かった。弟なんだ。最後に手をかけることができなかった。父と母を殺した後でさえ、きっと反省してくれると思った僕が甘かった。その所為で僕に対して用意していた軍を君に向けることにダグルはしたのだから、好きにさせて本当に悪かったと思っている。魔族の連中も人間に仲間を大量に殺されたのだ。人間皆憎し、その天辺たる僕を憎いというのは、よく分かる。だが、魔族を治めているのは、お前だったノノアール、たった一度しか会ったことはないけれど、君はとても優しく賢い子だった。だから、僕は君に同盟を結ぶ手紙を出した。君は進軍しないことを決めることができたはずだ。僕は進軍してこないと思っていた。魔族の犠牲を大量にだしてまで、進軍してきたのはなぜだ?」
善悪が入れ替わる音が聞こえる。
勝利が犠牲もなしに得られることではないことは分かっている。
だけど、戦い自体が必要ないのだとしたら?
それだと話が変わってくる。
王子の言うことに矛盾はない。
姫が宣戦布告だと言った王子からの手紙の内容は、姫しか知らない。
「父と母のようになるのが、嫌だった。本当は魔族とも仲良く平和な世界を作りたかった。でもダメだった。優柔不断な僕は、兄弟に手をかけれなかった。せめて僕の死が平和の為になることを祈っているよ」
王子はそっと目を閉じる。
生命力は尽きてしまった。
「終わりました。勇者、よくやってくれました」
姫はにこやかに僕に言う。
姫の作戦は綿密で、確実に王子に勝てるように組まれていた。
多くの犠牲が出ることが前提として。
「どうして、姫は僕に王子の話を聞かせたんだ。黙っていればわからなかっただろう」
僕も王子の話を聞くまでは、王子から宣戦布告を受けながらも、勝利を収めた偉大な姫だと思っていた。
別にそれでよかったはずだ。
結末は変わらないのだから。
自分一人で真実を抱えるのがつらいというのなら、闘士と僧侶も連れてきたらよかった。
いつだって秘密は、4人で共有してきた。
胸をはれることじゃないことも多い。
今回の件だって、姫の思惑があるのだろう。
必要だった犠牲かどうかは分からないけど、間違いなく、平和な方には向かうだろう。
だけど、重いよ。
僧侶と闘士がこの場にいれば、僕は、いつものことかと笑ってごまかせられるのに。
せめて、そうせめて、
「酷い理由でもいいから、姫の本心を教えてほしい」
僕らはいつだって会話が足らない。
兄が憎くて憎くて堪らなかったというのならそれでもいい。
本当は魔族も憎くて、数を減らしたかったというのならそれでもいい。
「僕は、どんな姫でもついていくから、嫌いになんてならないから」
ただ理由を教えてほしい。
僕は姫のために戦う勇者。
正義とか善とかは関係ない。
この戦いの結末が、姫のためにどう役立つのかを、ただ知りたい。
僕はいつだって、姫の本心が知りたいだけなんだ。
僕が姫を見つめると、姫は僕から目をそらした。
朝日が昇り始めている。
「私は急ぎ城に用があるので、勇者、今日はゆっくり休んで、今後の話は明日しましょう。疲れたでしょう勇者、闘士と僧侶と宴でもして、ゆっくり楽しんで来てください」
今日はここまでと言わんばかりだ。
明日にするということは、話す気はあるということなのだろうか。
「姫!」
それでも、僕は叫んだ。
今知りたいんだ。
それでも姫は僕の目を見ない。
「勇者はいつもねぼすけですから、明日12時に城の王の間で話しましょう。ひとりで来てくださいね」
姫のいつもより優しい声が、今の僕には無性につらかった。