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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き
50/62

開戦

 戦いの準備が進んでいく。

 宣戦布告を出してきたのは、あちら側とはいえ、軍を編成し、出陣するのは始めてのこと。

 腕っぷしの強そうな魔族たちは、ようやく戦いだといきり立っている。

 普段は、農作業や建築作業を手伝っている気のいい魔族たちも、人間の国にやってきた本来の目的を忘れていなかったようだ。

 人間の兵士たちも魔族に負けていられないと、なにやら準備に追われている。

 僕は軍人ではないので、要領が分からない。

 通りの道を見ながら、所在なく立ち尽くしていると、隣に僧侶がやってきたので尋ねた。


「僕らは、どうすればいいんだろう? 作戦聞いてないけど」


「勇者まだ聞いてないんですか? あたしは、そろそろ出発ですよ」


「そうなの? 僧侶は今回別行動?」


「そうですよ。あたしは、敵軍が密集しているところにできるだけアトミックサンダー撃ち込んで、できるだけ敵軍減らして欲しいとのことでした。勇者と闘士は別の作戦があるって言ってましたよ。あっ、あたしが参加する小隊が来たみたいです」


 来た兵士は、男3、女1と本当に少ない。

 僕らはいつも四人で行動していたから、それよりは多いけれど、さすがに軍とは言えないだろう。

 多分、僧侶がアトミックサンダーを撃つための補助をするための部隊だろう。

 僧侶は、小隊の人達にニコニコ笑顔を振りまきながら対応する。

 小隊の男の人達は、すでにデレデレしている。

 女を武器に懐柔するの本当にうまいんだから。


「行ってきます」


 手を振る僧侶を見送った。


◇ ◇ ◇


 修行をしに行く雰囲気でもなく、何すればいいのかわからなくて、仕方なしに剣を磨いていると姫が僕のもとにやってきた。


「勇者こちらに来てください」


 姫に人気のないところに連れていかれる。

 逢瀬かなと一瞬思ったけれど、姫がそんなわけない。

 多分人に聞かれたくない話だ。


「勇者、周りに人はいませんか?」


 僕は、魔力感知を働かせる。


「大丈夫だよ」


 姫は一息つくと、話し始めた。


「僧侶には、軍の方をお願いしました」


「それは聞いたよ」


「かき集めて軍を編成しましたが、劣勢なのはかわりません。僧侶の究極魔法を連発してもらい、互角まで持って行きます。あちらもできるだけ軍は分散してくるでしょうがそれでもかなりの数減らせるはずでしょう」


 僧侶の究極魔法の利点は、遠隔でしかも魔法の発現は敵の真上のため、術者の居場所を特定しずらい。

 僕のように魔力感知できなければ、どこから撃って来ているか判断はほぼ不可能だ。


「僧侶は、敵軍から遠く離れたところで休憩と究極魔法を交互にやってもらいます」


「そうなると確かに、僧侶と一緒に行動しても仕方ないね。そうなると僕は軍の方に参加?」


 基本的に近接攻撃しかできない僕と闘士は、僧侶と一緒にいても意味がない。


「いえ、ワタクシは戦線に参加しませんので、勇者と闘士2人だけ参加させて、範囲攻撃魔法を撃たれると動きずらい軍の中では、防げないでしょう」


 僕と闘士は基本的に魔法攻撃はかわすしかない。

 僕の場合、敵軍の中に特攻する戦い方がやりやすいんだけど、そうなると逆に僧侶の魔法に巻き込まれる可能性が高い。

 やることないのなら仕方ない。


「応援するしかないか」


 ここにきて、できることがないなんて悲しいな。

 僧侶が樹霊に雷効かなくていじけてた気持ちがよくわかる。

 仕方ないし、志気があがるように、応援ようの旗でも作ろうかな。


「軍が第一王子に勝てるといいんだけど」


「お兄様には、普通の人間が束になっても敵わないでしょう」


 あれだけ苦戦した第三王子を決闘で倒したのだから、強いのは知っている。

 それにこの世界では、僕らもそうであるように、戦闘は数だけで押し切れるほど甘くはない。


「じゃあ、ダメだよね。第一王子には、束になっても敵わないんならどうするんだ?」


「束になっても敵わないなら、勇者一人でお願いします」


 姫がとんでもないことを澄まし顔でいう。


「いやいやいや、その論理はおかしいだろ」


 今までだって、チーム力で乗り越えてきたのに、なんで急に一人で特攻させるんだよ。


「冗談で言っているんじゃなくて、本当に勇者一人でやらないと勝てません」


「無茶ぶりじゃなくて作戦があるってこと?」


「第一王子、私の長兄は最強ですが、魔法剣士です。魔法使いには、明確な弱点があります」


「えっ、何だろう」


「眠らないと魔力が回復しません」


「そうだね」


 魔力は精神エネルギー、個人個人で多い少ないはあっても無限ではない。

 睡眠による回復は必要だ。

 でもいまさらそんな当たり前のことを言われても。


「いくら兄とはいえ、軍が僧侶究極魔法にさらされれば、究極魔法を使えるお兄様自身が魔法を使わざるをえません。僧侶がどこから発射しているかわからないでしょうから、軍の方に乱発することになるでしょう。魔法を乱発すれば、夜には城に戻って寝ます。きっとちょっとやそっとでは起きないことでしょう。そこを狙って暗殺してください」


 つまり、軍での戦いはすべてお膳立てということ。


「昼間に進軍させる理由が兄の魔力を消費させるためだけなんて、皆に言える訳ありません」


 死んでこいといっているようなもんだ。


「勇者は人化したドラゴンには勝てるぐらい強いでしょう。それに、勇者のスキルは本来夜向きでしょう」


「暗殺スキルだから、まあそうだよね」


「城には、もちろん侵入者防止の魔法がいろいろかかっていますが、かいくぐれるのは勇者だけでしょう」


「そうなるのかな」


 風の魔法を駆使すれば、物理トラップがどうなっているかすぐわかるし、魔法トラップは魔力感知ですぐわかる。

 魔力感知を使える人間は、僕の知っている範囲では僕だけだ。

 だけど、できれば夜は戦いたくない。なぜなら、あちらの世界で昼間に寝なければいけないから。

 僕がなかなか首を縦に振らないので、姫が言葉を重ねてきた。


「あちらの生活があるのは知っていますが、勇者お願いします。みなの死を無駄にはしたくありません」


 酷いな、相変わらず。

 皆に死ぬように仕向けているのも姫なのに。

 ある意味脅しじゃないか。


「やるけどさ」


 姫の指示ならなんなりと。

 否が応もない。


「でしたら、王子と一緒ににあの城にいる幹部も根こそぎお願いします」


「注文増やさないでよ」


 王子の前に全員倒しておいた方がいいだろう。

 簡単な方から先にやってしまうのがコツだ。


「あとこれが城の魔法障壁を解除するための魔法が込められた呪符です。各部屋の鍵も用意してあります」


「用意周到だね」


「元々父の城ですから、私も何度か訪問しています」


「へぇー……」


 へぇーじゃないや。

 つまりこれらは、もともと父親暗殺も視野にいれて用意してたものか。

 いつから用意してたんだよ。

 訪問してたって何年も前だろ。


「これが城の構造です。荷物になりますので、今のうちに覚えてください」


 コの字型の簡単な構造だ。

 王子がいるであろう部屋の位置も頭に入れる。

 あとは現地で、魔力感知でどうにかなるだろう。

 こっちの世界で、魔力が完全にない人間は闘士以外にあったことはない。


「勇者が昼間寝て魔力を回復している間に、近くまで闘士に運ばせます」


「国境付近まではともかく、戦場で馬とか使えないんじゃない? 城まではどうするの」


「担いでに決まっています」


「あいつ馬より足速いもんな」


 瞬発力なら僕も負けないけど、持久力はどうやっても闘士が上だ。


「姫はどうするの?」


「ワタクシはやらなくてはいけないことがあります」


「わかったよ」


「聞かないのでしょうか?」


「いいよ。終わったあとで聞かせてよ」


 こういう言い方をするときは、聞いてほしくないというのを僕は知っている。

 現場の指揮とかいろいろあるのだろうから説明していられないのだろう。

 気にしていられない。

 今は、王子暗殺のことだけに集中しないといけない。


「十日後に僧侶に仕掛けるようにいってあります。その次の日に作戦実行してください」


「了解分かったよ」


 姫が調整してくるているのだろう。

 十日後はちょうどあっちの僕が長期休暇に入る。

 1日ぐらい寝て過ごしてもいいだろ。


「あちらから先に攻撃仕掛けてきたらどうする?」


「それは軍で対抗させます。今は連絡手段がありませんので、僧侶の攻撃時期を変更はしません」


 今は僧侶はあっちの世界にはいけない。

 僕と僧侶の連絡手段は使えない。

 そもそも、最初から姫との連絡手段はなかった。


「作戦失敗もそうですが、死んだら許しませんよ」


「分かってるよ。姫も気をつけて」


 姫はこくりと頷くと、他の者に指示を出しに戻っていく。

 離れていく姫の背中を見ながら、僕は、ぼそりとつぶやく。


「こういう時は、作戦失敗しそうなときは逃げてくださいとかいうものじゃないかな」


 まあでも、あの姫が死ぬなと言っているだけ、愛情を感じる。


「姫のために頑張るか」


 目標は定まった。

 あとは殺るだけだ。

 

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