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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第一章 僕と姫
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リンクする夢と現実

 僕は、目が覚めると、宿屋の食堂へと向かった。

 食堂には、僧侶がいた。

 僕と僧侶はいつも朝が遅い。

 今までは、同じ魔法使いだからと気にもしていなかったし、魔力回復に睡眠がいるというのも本当ではあるが、二人の共通点を考えると、現実で寝た時間が関係している気がしてきた。

 こちらの世界には時計がないので、正確にはよくわからないが、あちらで今日は9時に寝た。日の昇り具合からこちらでは午前9時頃な気がする。

 こちらの世界では、明かりが原始的なものが多く、魔力回復には、多くの睡眠が必要なので日暮れとともに眠っているということは、夕方六時から七時頃にねているとしたら、あちらの世界でのちょうど起床時間ということかもしれない。確証はないけれど。

 そこまで考えて僕は僧侶に声をかけた。


「おはよう。僧侶」


「おはようございます。先輩様」


「なんか混ざってるよ」


 はっはっはと笑って、はーとため息をついた。

 僧侶のボケは現実でのことを覚えていなければありえない。

 途端に現実と夢がリンクしている実感がわいてきた。


「朝ご飯一緒に食べていい?」


「どうぞ。私も昨日の件……。いえ、あっちの世界と呼びましょうか。そのことについて話したかったので」


 僕は、席について、ベーコンエッグを口に運ぶ。


「勇者様は、こちらの世界を夢と言いましたが、食べ物の味しますか?」


「普通においしいよ」


「あたしもそうです。あっちの世界でもしっかり味しますし、怪我したら痛いです。普通夢だったらすぐ忘れるものだと思いますけど、しっかり全部記憶もあります」


 状況はすべて一緒だ。


 僕とは、現実と夢の認識が逆転しているだけで。


「僕もそう。こうなってくるとどっちが夢か分からないね」


「もう一人同じ状況の人がいると多数決とれるんですけど」


「多数決で決めていいものなのかな?」


「そうですよね。どっちも現実だと仮定して行動するしかないんでしょうね。はぁ」


 僧侶がこんなに気怠げなところ初めて見る。

 それに、

「なんかいつもより話し方雑じゃない」


「まあ、あっちの先輩達見て、少し猫かぶるのも疲れたと言いますか。なんというか、ぶっちゃけこっちの私達仲良くないじゃないですか」


「そうだっけ?」


「そうですよ。戦いのこと以外で一緒に行動する事もないですし、朝ご飯ですら、一緒に食べるの初めてですよ。大体名前ですら呼ばないじゃないですか。私の名前覚えてますか?」


「えーとなんだったか?」


 普段から僧侶としか呼んでない。

 僧侶で、不自由しないしなぁ。

 設定では何年も一緒に戦ってきたのに。

 名前も覚えていないとか、確かに仲良くないかもしれない。 


「もう一度教えて」


 呆れて、僧侶は首を振る。

 

「どうせ略したら、あっちと同じレミですよ。それに今更です。こっちでは今まで通りの僧侶でいいです」


「ああ、うん。わかった」


 技合わせやら、魔法の知識の交換などはするけれど、それも含めて基本一緒に行動するのは、戦いためだけ。

 戦い終われば、4人で打ち上げしても良さそうなのに、敵を倒して宿屋で解散。

 姫に呼ばれて集合するのがいつものパターン。

 確かに味気ない。


「お互いの名前も覚えてないような仲なのに、あっちでは三人で楽しそうですし、こっちでは姫に仕方なし付き添ってる感じなのに、あっちではラブラブとか訳わかんなさすぎます」


「でも二人の中身別人だよ」


「それはわかりますよ『レミちゃん文芸部入ってくれて嬉しい。わーい』とかこっちの姫がしてたら、鳥肌たてて、あたし死にますよ」


 酷いいいようだな。

 でも、これが素の僧侶なのだろう。


「そうだよね。ようやく僕もこっちの姫になれてきたけど」


「ようやくって、こっちに来てから、どのくらいですか?」


「半年ぐらいかなぁ」


「意外と最近ですね。ああ、それで最近、勇者の戦い方変わってきたんですね。昔は連携とか全然気にしていなかったのに。あ、もう敬称もつけるのやめますね。面倒くさいですので」


 いつのまにか、僕のことを勇者と呼び捨てにしている。一人称も私からあたしになっていた。本当に無理した口調で話してたんだな。


「それは、いいけど、戦い方変わったってなに?」


「なんか昔より思い切りがよくなったというか。強さに貪欲というか。昔の勇者を思い出すともう完全に別物ですね。少しずつ変わっていたので気づきませんでしたけど」


 こちらの世界に来た初めのうちは、自部の中にあった戦い方の知識を参考にしていたけど、しっくりこないところを徐々に変えていっているうちに元は全く違った戦い方になっている。

 一番違うところは、昔は両手で剣を構えて、剣から魔法を放っていたが、今では両手剣である聖剣を片手で振り回しながらもう片方の手で魔法を放つ戦い方に変えていた。

 戦い方もそうだけど、自分だったらそんなことしないだろうという記憶も多い。


「ということは、僕がこの世界を夢みる前から勇者はいたということは、前の勇者は別だったのかな」


「そうなのかもしれません」


「なんかはっきりしないな。仲間じゃないのか」


「いやだから、あんまり仲良くないんですよ」


「普段はやさしく笑顔でヒールかけてくれてるのに」


「当たり前ですよ。あたしは雇われ、傭兵です。いわばビジネススマイル。仕事中に同僚と仲が悪くていいことなんてないですから、別によくもないんですけど」


 なんかちょっと幻滅。


「いつも内心は、『ざーこ、ざーこ、ばーか、あほ』て思いながら勇者と闘士には、ヒールしてますよ」


 あんなエンジェルスマイルで、そんなこと考えてるのか。


 ちょっとじゃないな普通に幻滅だ。


 だけど、なんというかそんな内面も話してくれたということは、少し心は開いてくれて、仲良くはなれたのだろうか。

 まあ、僕も性格がいいわけではないから、今までより断然こっちの僧侶がいい。


「ということで、明日からは文芸部であたしも楽しみますからね。よろしくお願いします」


 いつもの天使な笑顔ではなくて、小悪魔な笑顔を浮かべて言った。

 

「せ・ん・ぱ・い」


 生意気な後輩だなぁと思いながら、

「了解」

と、僕は答えた。

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