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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き
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姫の実家

 姫の生家に来ていた。

 第三王子を倒したことで、戦いも落ち着き、一度見ておきたいと姫に誘われた。

 姫の生家は、よく拠点にしている樹霊に襲われたことのある町の郊外にひっそりと建っていた。

 家自体はそれほど、大きくないが、庭が広く色とりどりの植物が生えている。


「へぇー。ここが姫の実家かぁ」


 庭の見えるテラスに案内された。

 腰から剣と魔導書も外して、机の上におき、椅子に腰掛ける。

 木漏れ日の中、優しい風が気持ちいい。

 庭の手入れはさせているようだが、常時使用人を置いているわけではないようで、姫が自らお茶を持ってきてくれた。

 姫は僕の対面に座りながら、話はじめる。


「小さな頃は、お母様と二人でここで暮らしていました。キリーナを引き取ってからは、3人で暮らした家です。学園に通っていたころにお母様は亡くなりましたが、キリーナがずっと手入れしてくれていたようですね。あの頃と変わりません」


 姫は普段から考えられないような穏やかで懐かしそうな顔をしている。


「姫のお母さんも貴族だったの?」


「母は貴族ではなく、王宮お抱えの占い師でした。父に見初められて、妾になり、ワタクシを生んだのです。ワタクシを身ごもってから、父にここ一帯の領土を与えられたとのこと。実際の領主としての仕事はあなたの父親がしてくれていましたよ」


 姫はいつになく饒舌だ。

 自分のことをすんなり話してくれる姫は珍しい。

 本物の勇者の記憶にもない。

 姫は持っていた、書類を広げる。


「たまには、こういう休日もよいでしょう」


「いやいや、姫働いているよね」


 早速仕事を始めているのに何言ってるんだろう。


「このくらい働いているうちに入りません。あなたもあちらの世界では暇な時は常に本を読んでいるでしょう」


「あれはただの趣味だから」


 僕の読書と一緒にされても。


「こういう部下のまとめた資料を読むのは、あちらの世界でいう新聞みたいなものでしょうか」


 見れば、印鑑や筆記用具のようなものは、準備していない。あっちの世界でいう新聞みたいなものなら趣味かもしれない。


「まあ、それならギリギリ仕事じゃないかもね。何書いてあるの?」


「魔物ではない野生動物が増えすぎて、農作物に被害がでているようです」


「魔物が減ってるからかな。天敵がいなくなったら動物は、食料の量がどうとか考えずに、増えすぎてしまうから、たまには間引いてやらないとね」


「なるほど。人間に脅威だからと魔物を倒しすぎてしまうのもよくないのでしょうね」


「バランスが崩れる原因は他にもあって、例えば一種類の動物が好きすぎて保護してしまうと、全体のバランスが崩れてしまう。日本の歴史だったら生類憐れみの令とかがいい例かな」


 あっちの世界でも、よくもめる話題だ。

 可哀想で物事を判断してしまうと、全体が酷いことになりかねない。

 ただ気持ちは分かるから、難しい。 


「人間が何もしなくても、動物が増えすぎれば、植物側は、すぐ絶滅してしまいそうですがどうなのでしょうか」


「植物側も負けてないよ。毒をもったりとか、食べにくくしてみたりとか、でも、植物は動けないから、動物に木の実を運んでもらいたい植物なんかもいる、ただし増えすぎて、全部食べられるのも困るよね」


「どうするのでしょうか」


「豊作の年と、凶作の年があるのはそのためだよ。凶作で動物がある程度餓死してくれた次の年を豊作にすれば、木の実は余る。余った木の実は、保存しようとして、地中に埋めるから、忘れられた木の実は、目を出すことができるよ」


「うまくできていますね」


「種族としてはね。でも、個々の命で見たら、動物側は餓死してるやつもいるし、植物側は食べられてしまう木の実もある。皆が幸せというわけでもない」


「あちらの世界と違って、こちらの世界では、人や魔族もそうでしょう。自分たちが幸せになるために殺しあっています」


「あちらの世界も同じだよ。血はあまり流れなくなったけど、金の奪い合いという形に姿を変えている」


 今の主権争いは経済戦争。

 貧富の差は広がるばかりで、同じ民族の中でも上と下の開きは大きい。

 力による支配もまだ残っている地域もあるし、こちらの世界より混沌としているかもしれない。


「魔法があれば、あちらの世界の技術と組み合わせれば、エネルギー問題も、農業も解決するんだけど、それはそれで争いの種になるんだろうな。魔法があったら、あっちの世界はもっと酷いことになっていたかも」


 核ミサイルのような凶悪な化学兵器も、魔法を使えば発射だけなら簡単にできそうだ。

 シャレにならない。

 一人の人間の自暴自棄で世界が滅びるなんてことになりかねない。


「もしもの話をしても仕方ないでしょう。あっちの世界には、魔法はないでしょう?」


「いや、あったと思うんだ。僕は、あっちの世界でも自分の魂で問題なく魔法が使える。魔力を生み出す感覚に気づけるかどうかだけ。人間は何億人もいるんだ。こっちの世界に渡った経験がなくても、気づいた人間がいてもおかしくないと思う。それに世界各地に魔女狩り、いや女に限らず、不思議な力を使う人物を処刑した記録は残っている」


 魔法は使えたとしても、個人個人で力の強さが違う。

 魔法は、平等に与えられる力ではない。

 力を持たぬ大多数の者が力を持つ少数の者を怖がり殺してしまうのは、当然かもしれない。


「勇者が魔法使えるのがバレたらどうなるでしょうか」


「多分怪しい機関に連れ去られて、人類の為だとか言われながら、解剖されたりするんじゃないかな」


 ちょっと想像力が豊かすぎるだけかもしれない。

 けど、多くはないと思うが、魔法が使えるのは、僕だけではないはずだ。

 だけど、魔法を使われたということがニュースになることはない。

 僕と同じようにみんな警戒しているのか。

 使ったとわからないようにしているのかどちらかだろう。

 少し姫が青ざめている。


「ののかさんは」


「大丈夫。ののかは魔法使わないし、使わせない」


「話は……」


「できるわけない。ののかは怖がりだから、そんな話をすれば、ずっと震えてすごすことになるよ」


 ネクロマンス、他人を好きに動かせる魔法なんて悪いことし放題だ。僕らがしてきたように。

 ただ、ののかは魔法で、悪用しようという発想もないだろう。

 それにネクロマンスは悪いこと以外に使い道がない。

 ののかは魔法をちょっと使ってみようなんて思うことはないだろう。

 科学技術が発展した世界に、魔法はないほうがいい。

 逆もしかり。


「こっちの世界にも、死者蘇生の魔法がないのは救いかな」


 いくら魔法がある世界とはいえ、死人まで蘇りだしたら、世の理は崩壊するだろう。

 僕はそうかんがえていたら姫の回答は意外なものだった。


「死者蘇生の魔法はあります」


「聞いたことないよ」


「いままでの魔法の知識があれば、勇者でもわかるでしょう。それに使える可能性がある者も」


「ちょっと全然わからない」


「仕方ありませんね。説明しましょうか。光属性魔法の上級魔法は、完全回復。であれば、究極魔法は死体から肉体を回復するゾンビ化の魔法だと言われています」


「それって死体がかってに動く魔法だよね」


 死体を無限に兵隊として使えるのは、確かに究極魔法にふさわしい。

 だけど、生き返るうちには入らないような?


「つまり、その動く死体に魂を固定してしまえば生き返るでしょう」


「魂を固定するなんて、そんな方法あるわけ……」


 いや、僕は何を言っているんだ。

 僕は目の前にいる姫を見る。


「そう。闇属性の究極魔法であるネクロマンスを使用すればそれも可能でしょう」


 光属性と闇属性の究極魔法を両方使えると死者蘇生できるのか。

 となると、死者蘇生の魔法が使える可能性がある人物は、


「アイカか」


「そうなります」


 光属性も闇属性も魔力量、出力共に究極魔法を使えるのに素質は十分ある。本人に魔法を極めようという意志がないだけで。


「でも、実例はないんじゃ」


 アイカが究極魔法を使えるようになるまで努力しようという姿は想像できない。


「いえ、死者蘇生で蘇った人物がヴァンパイアの始祖だと言われています。つまり、キリーナの祖先でしょう」


 ヴァンパイアが生きた死体と言われる由来は死者蘇生の究極魔法でよみがえったからか。

 確かにそれなら不老不死であることも納得だ。


「ヴァンパイアが光に弱いとされている理由は」


「光属性の究極魔法をレジストできるのもまた、他人の魔法をレジストできる光属性。そういうことでしょうね」


「なるほどね」


 杭でも、十字架でも、光属性エンチャントしやすければ、なんでもいいわけか。

 究極魔法なのだから、そう簡単にはレジストできないだろうが、それでも心臓にダメージを与えながら、レジストできれば倒せる可能性がある。

 そういうことだろう。

 今後戦う可能性があるかどうかわからないが、覚えておいた方がいい。

 それに、分からなかったことが分かるようになるのは好きだ。

 姫と話していると、この世界の謎が解けていき楽しい。


「楽しそうですね。勇者」


「まあね。それに、たわいもない夫婦の会話は大事だろ」


「まったく勇者は、またそういう言い方をする」


 姫はそっぽをむいてお茶をすする。


「ちょっとは慣れなよ。姫も」


 姫は僕が愛や恋なんか言い出したら、すぐ逃げ出すからな。

 ほんの少しずつ慣らしていかないと、触れ合うスキンシップなんていつになることか。

 まあ、でも慌てなくていいか。

 第一王子も何故か大人しいし、膠着状態がずっと続けば、たまに姫と、こんな感じでお茶でも楽しんで……。


 玄関にエンチャントしてある風属性の魔法が発動して、風鈴が鳴る。


「誰か来たようです」


 侵入感知の魔法が発動している。


「アイカかな?」


 噂をすれば、なんとやら。

 闇と光の二属性持ちなので、ほぼアイカで間違いない。

 侵入者の可能性もゼロではないので、僕は、腰に剣を差した。

 姿を現したのは想像通り、アイカだった。


「はあ、はあ、姫様、お手紙持ってきました」


 アイカが息を切らし、胸を揺らしながら、庭に入ってくる。


「どうしたんだよ。そんなに慌てて」


「第一王子の使いの者が手紙を持ってきたので、はあ、はあ、、急いでもってきました」


 僕は、カップに紅茶をついであげる。


「あーおいしい。なんですかこのお茶?」


 なんのお茶かは、まるでわからない。


「なんだろね」


「えー。なにかわかってないもの飲ませないでよ」


 聞いてもよくわからないから、おいしければ、なんでもいいと僕は思っている。

 姫は、手紙の封をきると真剣な表情で目を通す。


「アイカ、中を読みましたか」


「いえ、読んでいません。あ、ただその使いの人が第二王子が亡くなったと話していましたよ」


 姫が口元を緩める。


「ようやく死にましたか。ちゃんとかわいい妹の贈り物食べてくれていたようですね」


 姫の口振りで僕は想像する。


「ちょっとずつ毒を持っていたりしないよね」


「そんなまさか、おいしい食べ物ばかり送っていましたよ。王子ですから、ちゃんと部下に毒見させるでしょう」


「それはそうだよね」


「もともと体が悪い人でしたから、おいしくて、普通の人には毒でなくて、体に負荷がかかるようなおいしい食べ物は探せばたくさんあります」


「それって……」


 そういえば以前肝臓に影響する食べ物ばかりを調べていた時期があったな。

 こちらの世界は医学が発展しているわけではないから、なにが体にどう悪いかなんて書いてある文献はほぼない。

 死ぬ確率を上げる手段としては、有効だろう。

 だけど、もうすでに死んでしまった第二王子のことはいい。

 それより手紙の内容だ。


「姫、何がかいてあるの?」


「このタイミングでくる手紙の内容は決まっています」


「なんだろう?」


 姫は読み終えると、書類を読めなくなるほどバラバラに破り捨てた。


 姫はゆっくり間をとってから言った。


「宣戦布告でしょう」

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