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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き
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死霊

 闘士との、訓練のあと宿屋で休んでいるとアイカを見かけた。


「久しぶり、アイカこっちの町にいるなんて珍しいね」


「ユイク、うぅ」


「どうしたの?」


 なんだか疲労困憊しているし、普段はものすごく多いのに、魔力量もほんの少ししか残っていない。


「姫と今まで、死霊系の魔物と戦ってて」


「死霊系の魔物って、たしか一万人に1人がなるっていうあの?」


「そうですよぉ」


 一万人ってどっかできいたなあ。どこだったけなぁ。

 ……僕らが殺した第三王子の軍か。


「僕、姫から声かかってないけど」


 さっきまで一緒にいた闘士も参加していない。だけど、僧侶は朝から見かけない。


「僧侶さんは、いましたよ。死霊系って、物理攻撃効かなくて、魔法しかきかないんだよ。逆にあっちからの精神攻撃とかレジストできれば、効果はないし、一番まずいのは、仲間を操られること」


「それは確かに僕と闘士は役に立たないかも」


 魔力が少ない僕と魔力がない闘士は戦力外。

 メインアタッカーではないことはよくあるけれど、完全においてけぼりは初かもしれない。

 パーティー組んで戦うゲームでおいて行かれるメンバーの気持ちになる。

 なんか寂しい。

 仕方ないけど。


「夕ご飯一緒に食べる?」


「今日はもうだめ。眠い。寝ますzz」


 半分目を閉じたアイカが、自分の部屋にたどり着くのを見届けていると、入れ違いで僧侶が帰ってきた。

 珍しく僧侶も疲れた顔をしている。


「おかえり、僧侶。アイカから死霊系の魔物と戦ったって聞いたけど、どうだった?」


「はい。あたしの雷もあまり効かなくて苦戦しました」


「そうなんだ」


「あたしとアイカが魔力を姫に渡して、姫が全部倒しました」


 姫は完全に魔力タンクとして、二人をつれていったわけか。


「ネクロマンスは死霊には効果抜群なんだろうけど、普通はどうやって倒すんだろう」


「それで、帰りに調べて来たんですけど、どうやら、魔力で存在自体をレジストするみたいです」


「魔力そのものでぶん殴る感じ? 魔力ってどうやって外に出すんだろ?」


 構成通さずに、そのまま発動すればいいんだろうか。


「ちょっと練習してみないと」


 僧侶もまだよくわかってないらしい。


「未だにわからないことばっかりだな」


 毎日毎日魔法の研究やっているけど、奥が深すぎる。

 最近は自分で構成書き直して魔法を使ったりするけど、ちょっとした違いで威力が大きく違ったりする。


「そう……ですね」


「なんか元気ないね」


「あたしもまだ勝てない敵がいるのがショックで」


「僕なんかいつもそうだよ」


「不安じゃないですか」


「別にそんなことないけど、誰かが倒せればよくない? 今日だってそうだろ。僧侶は死霊倒せなくても、姫は倒せるんだから問題ないじゃないか」


 人間助け合って生きている。

 一人で全部できるなんて思っていない。

 戦いも同じだと僕は思っている。


「あたしは、姫に会うまでは、一人で生きてきました。誰にも負けなかったから、今も生きています」


「でも、眠らないと魔力回復しないよね。夜とかはどうしてたの」


「あたしは、眠らなくても多少は魔力回復します。使い切らなければ、ちょっと寝れば相当回復します」


 魔力量と同じように、魔力回復力にも個人差があるのは知らなかったな。

 よく考えると、僕は、基本は勇者の魔力を使っているので、あっちの世界にいる間は、勇者の魂が寝て魔力を回復しているわけだけど、僧侶の魂は実質ずっとおきているようなものだから、回復力が強いのは当たり前か。


「僧侶が強いのはしっているよ」


 僕は僧侶のために、土属性の魔法使いは早めに倒すようにしているけれど、鞭などを使えば、僧侶は余裕で倒せるのだろう。

 だけど、そうだったとしても

「もっと僕らのこと頼ってくれていいんだよ」


 僕らが僧侶のこと頼っているように、じゃないと不公平だ。


「ドラゴンは四人がかりでも、姫の霊躁術をかけるので精一杯だっただろ」


「確かにそうですけど」


 こんなに気落ちした僧侶を見るのは初めてだ。

 本当は、戦いに勝てなかったのは間接的な理由で、ののかとうまくいっていないのが相当堪えているらしい。

 僕は話題を変えることにした。


「この間、トウヤ先輩の空手の試合に応援しにいったって言ってただろ、どうだった?」


「トウヤ先輩以外の悔しそうな顔が最高でしたね。皆さん彼女いないんでしょうね」


「煽るの止めてあげて、トウヤ掛け持ちだから、部活出たり出なかったりで他の部員からあたりきついみたいだし」


「それでもトウヤ先輩が一番強いですけど」


「昔から空手好きで、努力家だしな。あいつ」


 部活動でというより、道場での稽古の方がメインらしい。

 部活は大会に出るために入っているようなものだと言っていた。


「そうなんですよ。やっぱりトウヤ先輩はカッコいいですよね」


 ぼんやりと頬杖をついて、トウヤのことを思う姿は恋する乙女そのもの。


「ははは」


「なんですか?」


「いや、普通に僧侶はトウヤのこと好きなんだなと思って」


「そうですね。そうなんでしょうね」


 僕がそういうと少し困惑している。


「トウヤも僧侶のこと好きだと思うから、告白して付き合えばいいのに。ああ、わかった。誘い受けしてるの?」


 乙女らしく、男から告白してもらいたいのかもしれない。


「そんなんじゃないです。私のこと嫌いな人はもちろんだめですけど、あんまり自分のこと好きではないので、勇者みたいに私のこと全部大丈夫なのも、無理と言いますか」


「え、僧侶、僕のこと嫌いなの?」


「恋愛対象としての話ですよ。好きか嫌いかの二択なら勇者は嫌いかもしれません」


「酷いな僧侶」


 好きの反対は無関心というし、明確に嫌いの方が、まだいいのかな。

 勇者の記憶の影響で最初は混乱したが、僕も今は全く僧侶を恋愛対象とはみていない。

 そういう意味では、僕も恋愛対象としては、僧侶のこと嫌いなのかもしれない。


「ののか先輩はもちろん好きです」


「それももちろん知ってるよ」


「文芸部のみんなで過ごした夏休みは楽しかったです。夏祭りや、勉強会も」


 勉強会という名のゲーム大会はたのしかった。

 ののかとレミちゃんは疲れて二人でくっついてソファーで寝ていて、姉妹のようだった。


「人生で一番楽しい夏でした」


 僧侶がしみじみと言う。


「そんな最後みたいな言い方やめようよ」


「海も恥ずかしいなんて言ってないで行けばよかったです。ののか先輩と可愛い水着選んで、トウヤ先輩に見せるんです。きっと楽しかったと思います」


 トウヤはきっと、見たいくせに恥ずかしがってまともに見ないんだろうなぁ。

 確かに楽しそうだ。


「来年は行こうよ。僕らは受験前だけど、ずっと勉強しないといけないほどでもないだろうし」


「来年か遠いです。あたしは生きてますかね」


 一度の負けが死につながる世界だ。

 どんなに強くなっても、すぐ死んでしまうかもしれない。

 また話がもとに戻ってしまった。

 本当に今日の僧侶はとことんネガティブだな。


「じゃあ、次の休みに四人で遊園地にでも行こうか」


 夏だけが楽しいわけではない。

 他にもたくさん楽しいことはある。

 来年が待てないのなら、明日の楽しみを見つけに行けばいい。

 毎日の楽しかったを積み上げていけば、季節も巡るだろう。


「いいですね! トウヤ先輩とののか先輩ちゃんと誘ってくださいよ。約束ですよ」


 ようやく笑顔を見せてくれる。

 戦いは頼りないかもしれないけど、そうやって頼ってくれればいい。

 得意分野は、頑張るからさ。

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