死霊
闘士との、訓練のあと宿屋で休んでいるとアイカを見かけた。
「久しぶり、アイカこっちの町にいるなんて珍しいね」
「ユイク、うぅ」
「どうしたの?」
なんだか疲労困憊しているし、普段はものすごく多いのに、魔力量もほんの少ししか残っていない。
「姫と今まで、死霊系の魔物と戦ってて」
「死霊系の魔物って、たしか一万人に1人がなるっていうあの?」
「そうですよぉ」
一万人ってどっかできいたなあ。どこだったけなぁ。
……僕らが殺した第三王子の軍か。
「僕、姫から声かかってないけど」
さっきまで一緒にいた闘士も参加していない。だけど、僧侶は朝から見かけない。
「僧侶さんは、いましたよ。死霊系って、物理攻撃効かなくて、魔法しかきかないんだよ。逆にあっちからの精神攻撃とかレジストできれば、効果はないし、一番まずいのは、仲間を操られること」
「それは確かに僕と闘士は役に立たないかも」
魔力が少ない僕と魔力がない闘士は戦力外。
メインアタッカーではないことはよくあるけれど、完全においてけぼりは初かもしれない。
パーティー組んで戦うゲームでおいて行かれるメンバーの気持ちになる。
なんか寂しい。
仕方ないけど。
「夕ご飯一緒に食べる?」
「今日はもうだめ。眠い。寝ますzz」
半分目を閉じたアイカが、自分の部屋にたどり着くのを見届けていると、入れ違いで僧侶が帰ってきた。
珍しく僧侶も疲れた顔をしている。
「おかえり、僧侶。アイカから死霊系の魔物と戦ったって聞いたけど、どうだった?」
「はい。あたしの雷もあまり効かなくて苦戦しました」
「そうなんだ」
「あたしとアイカが魔力を姫に渡して、姫が全部倒しました」
姫は完全に魔力タンクとして、二人をつれていったわけか。
「ネクロマンスは死霊には効果抜群なんだろうけど、普通はどうやって倒すんだろう」
「それで、帰りに調べて来たんですけど、どうやら、魔力で存在自体をレジストするみたいです」
「魔力そのものでぶん殴る感じ? 魔力ってどうやって外に出すんだろ?」
構成通さずに、そのまま発動すればいいんだろうか。
「ちょっと練習してみないと」
僧侶もまだよくわかってないらしい。
「未だにわからないことばっかりだな」
毎日毎日魔法の研究やっているけど、奥が深すぎる。
最近は自分で構成書き直して魔法を使ったりするけど、ちょっとした違いで威力が大きく違ったりする。
「そう……ですね」
「なんか元気ないね」
「あたしもまだ勝てない敵がいるのがショックで」
「僕なんかいつもそうだよ」
「不安じゃないですか」
「別にそんなことないけど、誰かが倒せればよくない? 今日だってそうだろ。僧侶は死霊倒せなくても、姫は倒せるんだから問題ないじゃないか」
人間助け合って生きている。
一人で全部できるなんて思っていない。
戦いも同じだと僕は思っている。
「あたしは、姫に会うまでは、一人で生きてきました。誰にも負けなかったから、今も生きています」
「でも、眠らないと魔力回復しないよね。夜とかはどうしてたの」
「あたしは、眠らなくても多少は魔力回復します。使い切らなければ、ちょっと寝れば相当回復します」
魔力量と同じように、魔力回復力にも個人差があるのは知らなかったな。
よく考えると、僕は、基本は勇者の魔力を使っているので、あっちの世界にいる間は、勇者の魂が寝て魔力を回復しているわけだけど、僧侶の魂は実質ずっとおきているようなものだから、回復力が強いのは当たり前か。
「僧侶が強いのはしっているよ」
僕は僧侶のために、土属性の魔法使いは早めに倒すようにしているけれど、鞭などを使えば、僧侶は余裕で倒せるのだろう。
だけど、そうだったとしても
「もっと僕らのこと頼ってくれていいんだよ」
僕らが僧侶のこと頼っているように、じゃないと不公平だ。
「ドラゴンは四人がかりでも、姫の霊躁術をかけるので精一杯だっただろ」
「確かにそうですけど」
こんなに気落ちした僧侶を見るのは初めてだ。
本当は、戦いに勝てなかったのは間接的な理由で、ののかとうまくいっていないのが相当堪えているらしい。
僕は話題を変えることにした。
「この間、トウヤ先輩の空手の試合に応援しにいったって言ってただろ、どうだった?」
「トウヤ先輩以外の悔しそうな顔が最高でしたね。皆さん彼女いないんでしょうね」
「煽るの止めてあげて、トウヤ掛け持ちだから、部活出たり出なかったりで他の部員からあたりきついみたいだし」
「それでもトウヤ先輩が一番強いですけど」
「昔から空手好きで、努力家だしな。あいつ」
部活動でというより、道場での稽古の方がメインらしい。
部活は大会に出るために入っているようなものだと言っていた。
「そうなんですよ。やっぱりトウヤ先輩はカッコいいですよね」
ぼんやりと頬杖をついて、トウヤのことを思う姿は恋する乙女そのもの。
「ははは」
「なんですか?」
「いや、普通に僧侶はトウヤのこと好きなんだなと思って」
「そうですね。そうなんでしょうね」
僕がそういうと少し困惑している。
「トウヤも僧侶のこと好きだと思うから、告白して付き合えばいいのに。ああ、わかった。誘い受けしてるの?」
乙女らしく、男から告白してもらいたいのかもしれない。
「そんなんじゃないです。私のこと嫌いな人はもちろんだめですけど、あんまり自分のこと好きではないので、勇者みたいに私のこと全部大丈夫なのも、無理と言いますか」
「え、僧侶、僕のこと嫌いなの?」
「恋愛対象としての話ですよ。好きか嫌いかの二択なら勇者は嫌いかもしれません」
「酷いな僧侶」
好きの反対は無関心というし、明確に嫌いの方が、まだいいのかな。
勇者の記憶の影響で最初は混乱したが、僕も今は全く僧侶を恋愛対象とはみていない。
そういう意味では、僕も恋愛対象としては、僧侶のこと嫌いなのかもしれない。
「ののか先輩はもちろん好きです」
「それももちろん知ってるよ」
「文芸部のみんなで過ごした夏休みは楽しかったです。夏祭りや、勉強会も」
勉強会という名のゲーム大会はたのしかった。
ののかとレミちゃんは疲れて二人でくっついてソファーで寝ていて、姉妹のようだった。
「人生で一番楽しい夏でした」
僧侶がしみじみと言う。
「そんな最後みたいな言い方やめようよ」
「海も恥ずかしいなんて言ってないで行けばよかったです。ののか先輩と可愛い水着選んで、トウヤ先輩に見せるんです。きっと楽しかったと思います」
トウヤはきっと、見たいくせに恥ずかしがってまともに見ないんだろうなぁ。
確かに楽しそうだ。
「来年は行こうよ。僕らは受験前だけど、ずっと勉強しないといけないほどでもないだろうし」
「来年か遠いです。あたしは生きてますかね」
一度の負けが死につながる世界だ。
どんなに強くなっても、すぐ死んでしまうかもしれない。
また話がもとに戻ってしまった。
本当に今日の僧侶はとことんネガティブだな。
「じゃあ、次の休みに四人で遊園地にでも行こうか」
夏だけが楽しいわけではない。
他にもたくさん楽しいことはある。
来年が待てないのなら、明日の楽しみを見つけに行けばいい。
毎日の楽しかったを積み上げていけば、季節も巡るだろう。
「いいですね! トウヤ先輩とののか先輩ちゃんと誘ってくださいよ。約束ですよ」
ようやく笑顔を見せてくれる。
戦いは頼りないかもしれないけど、そうやって頼ってくれればいい。
得意分野は、頑張るからさ。