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夢見る僕と非道の姫  作者: 名録史郎
第二章 夢の続き
40/62

部活動 病弱少女系

「はあ」


 レミちゃんがため息をついている。


「どうしたの? レミちゃん」


「なんだか最近、ののか先輩に避けられている気がします」


「えっ。なんでだろう。原因はわかる?」


「こっちの世界で王子と戦ってからですかね」


「ああ、まあ、それは……」


 あれからののかは少し精神不安定だ。

 生徒会長は行方不明で、友達は落ち込んだままだという。

 それに引きずられてか、ののかも元気がない。


「頑張って生徒会長助けるしかないよ」


 助けられるかわからないけど、できる限りのことはしたいと思う。


「あたしの場合は、それだけじゃないですね」


「というと?」


「ののか先輩、姫の記憶を持ってるんですよね」


「そうだね」


「あっちの世界のあたしと、こっちの世界のあたしが紐付いちゃったんですよ」


 僕の所為だ。

 ののかの友達を助けるためだったとはいえ、僕が明確に教えてしまった。


「でもそれは僕も同じだよ」


「あたしの場合は違うんです。あたしは、姫に処世術をおしえてもらったんですよね。そういうのを身に付ける前のあたしは、人からどう思われるかなんて何も気にせず生きていました。そんな最悪なあたしを姫は知っていますから、嫌われて当然ですよね」


 僕が向こうの世界で初めて会ったころ、僧侶は僕に対しても猫をかぶっていた。

 それはもう拷問士をやっていたなんて想像できないほど、おしとやかな乙女を演じていた。

 僕には、今みたいに昔のことを話してくれるのは、話したところで嫌われないともうわかっているから。

 聞けば聞くほど、僧侶の幼少期は劣悪で悲惨だ。

 その大部分は本人の気質の所為であり、自業自得。

 人をいたぶって殺したりしたことを、ののかは笑い話にはできないだろう。


「ののか先輩、姫の魔力があるから、ナイトメアもレジストされるでしょうし」


 魔法でどうにかしようとするのは、悪手だろう。


「今まで通りすごしてたら、ののかも元に戻るよ」


「そうだといいんですが、悠久先輩はいいですよね。何やっても嫌われなさそうで」


「そんなことはないよ」


 以前より戦いは激しさをましているし、今では敵は完全に人間だ。

 ののかは、魔族を倒していた頃の記憶で止まっている。たまに姫のことをののかに聞かれても、曖昧にしか返していない。


「多分ののかは、ようやく姫の記憶が現実だと感じ始めたんだよ」


 僕もそうだった。映画を見ている感覚だったのに、いきなり現実味を帯びてきたら困惑する。


「できれば避けたかったんだけど」


 どちらも現実であるのは、間違いないけど、あちらの世界にいる間、こっちの僕は、夢を見ているというのも、事実だ。

 夢か現かではなくて、夢でもあり現でもあるが正しい。

 けど、ののかは受け入れられないだろう。

 ののかだけでなく、大体の人にとっては、そうであるように。

 生徒会長を乗っ取った王子は、あっちの世界に帰ることは確定していた。


「無理に深追いせずに、王子を放置して姫に報告した方がよかったのに」


「終わったことをくよくよしても仕方ないですよ。ののか先輩は仕方ないですけど、少なくとも、トウヤ先輩にはバレないようにしたいです」


「わかった。それは協力するから」 


 問題は、やっぱりののかなんだよな。

 口止めしておくか、どうするか。

 わざわざそういう話をするとののかは余計意識するだろう。

 かといって、ののかとトウヤは同じクラスなので、僕がいないところで話すことも多いだろうし。


「悠久先輩、そんなに思い詰めないでください。トウヤ先輩には最終手段として、ナイトメア使えますから」


「それは本当に最終手段だよね」


 魔法は人の心も操れる。

 光属性魔法は肉体に影響を与えることができる。

 つまり脳に影響を与えることができるということ。

 好きは魔法で作れる。

 あちらの世界でエルフが極悪だと言われているのは、そういう理由だ。

 あちらの世界ではほとんどの人が魔力を持っていて、

 レジストできるけれど、こちらの世界ではそうではない。


「やっぱりだめだよ。この間の回復魔法は仕方なかったとはいえ、こっちの世界で魔法でどうにかするのはやめておこう」


 僕の言葉に、レミちゃんは不服そうだ。


「行き来してるのは、あたしたちだけじゃないと思うんですけど、どうして、みんなやりたい放題しないんですかね?」


「僕が知る限り、今のところあっちの世界からこっちに来たのって姫と王子とレミちゃんだけなんだよね」


「そうですね。先輩はこっちからあっちですからね」


「三人に共通してることは?」


「えっ? なんですか」


「究極魔法をつかえること」


 姫のネクロマンスは、姫以外に使っているのを見たことがない。

 厳密には違うのかもしれないけど、究極魔法と言っても過言ではないだろう。


「レミちゃんが、こっちに来た時、本人は死にかけてたんだよね」


「そうです」


「魔法が使えたとしても、その状態からどうにかなるのは、光属性でしかも上級以上の魔法がつかえるとなると結構な確率だとおもうんだよね」


「逆もおなじじゃないですか」


「逆の場合なら、自分自身が使える必要はないんだよ。大規模なパーティーなら一人ぐらいは使える。しかも戦場なら、わりと死にかけて、完全回復かけてもらうということもあると思う」


「なるほど、そうですね」


「レッドドラゴンの話だと、僕らみたいな夢見者はさらにすくなくて、転生者なら、こっちに来てしまうと新しい魔法は覚えるのがかなり難しい」


 回復魔法と状態異常魔法は、魔法構成が全然違うので、レミちゃんみたいにヒーラーなのに、攻撃魔法も使える魔法使いは少ない。


「使える魔法だって、自分の魔導書でたまに復習しないとかなりきついですよね」


 初級魔法だって、1+1みたいな簡単なことではない。

 上級魔法となれば、テストで毎回100点取らなければいけないような難易度だ。


「つまり、こっちの世界からあっちに行こうと思ったら、いきなり戦場に放り込まれても、いきなり人を殺せるようなおかしな人か」


「あっちの世界からこっちの世界に来るやつで魔法をバリバリ使えるのは、ヒーラーなのに攻撃魔法も使うような頭おかしいやつしかいないってことだよ」


「誰のことですかね」


「さあ、誰のことだろうね」


 規格外の王族を除いたら、そんな奴、僕とレミちゃんしかいない。


「「はぁ」」


 僕らは同時にため息をついた。


「あ、ののかだ」


 僕は闇属性の魔力を感知した。

 扉があくと、ののかとトウヤが一緒にやってきた。

 レミちゃんはさっきまでの憂鬱さが嘘みたいに笑顔で二人を迎えた。


「おふたり、こんにちは」


「レミちゃん、こんにちは。二人とも早くね?」


 トウヤが笑顔で返してくる。


「だから、二人のクラスが遅いんだよ」


 ののかはトウヤの後ろから入ってくると、何も言わずに席に着いた。


「ののか? 大丈夫?」


「あ、ごめん。考えごとしてて」


「それならいいんだけど」


 本当はあんまりよくはなかった。

 あからさまに、レミちゃんを避けたように見えたし、本当に考え事だったとしても、表情から、あまりいい考え事には思えない。


「調子悪いなら帰ろうか?」


「えっ。あはは、何言ってるの。大丈夫だよ」


 いつも通り、ののかは笑って見せる。

 逆にそういわれてしまうと、体調が悪いことにして、連れて帰るわけにもいかない。


「悠久、今日のテーマは何だよ」


 いつも通りのトウヤから促されて僕は立ち上がった。

 僕まで落ち込むわけにはいかない。

 努めていつも通りのテンションで、ホワイトボードに思いついたテーマを書く。

 

「トウヤも結構書き慣れてきたころだと思うから、そろそろ難しいジャンル純愛系にいこうと思う」


「なんでハーレムより純愛の方が難しいだよ」


「物語は、現実にないからいいというのもあるからね。突拍子もないことは気を引けるからそれだけ読んでもらえるということ、またハーレム系のときも話したけどハーレム系は当たり判定が広い。いろんな女の子が出てくるから、読者が気に入る女の子が一人出てくればそれだけで読んでもらえる。逆に言うと純愛系は当たり判定が狭いのに万人受けを狙わないといけないから難しいんだよね」


「確かに、そう聞くと難しそうだ。どうすればいいんだよ」


「でもやることは、一つだけ、とにかく女の子を魅力的に書くしかない」


「それはそうだろうけど」


「あとは、女の子一人を深堀しやすい属性をつけることかな」


「属性ってハーレムでもやった、幼馴染とか年上とかアイドルとかだろ? 深堀しやすいって、どんなのがあるんだよ」


「もちろんどれでもやろうとおもえばできるんだけど、やりやすいのだと、病弱少女かな。彼女の余命は幾ばくも無い。だけど精一杯生きている。僕はそんな彼女を精一杯最後まで支えてあげたい。なんてストーリーにしたらあらすじだけでぐっとくるものがあるよね。最初から病気なのか、途中からなのか、どんな病気なのか、いろいろあると思う。時間が進めば進むだけ進行していく病状、それによって変わっていく心境の変化、二人で紡いだ思い出。最後の瞬間にかわした言葉。あとは僕は彼女のことを思ってずっと生きていくとかいってきれいに締めくくればいい感じの物語になるよ」


「なんだか悠久にそういわれると、物語はかけそうな気分になるけれど、安っぽくもなるな」


「まあ、そういうなよ。とっつきやすいようにさっくり話してるだけなんだから。ちなみに純愛ものの中でも、病弱少女のジャンルはノンフィクション好きにも受けがいいジャンルでもある」


「確かに現実におこってもおかしくないもんな」


「病弱な少女っていうだけで、頭の中に儚げで優しい美少女が思い浮かぶだろ。最初はすごい美少女だったけど、病気でどんどん醜くなってしまうけど、どんな姿になっても君が好きみたいなストーリーもいいかもしれないね。中身が悪くても、見た目がよければ、惚れるのもわかるし、中身がよければ、見た目が悪くても惚れるのもわかる」


「私は?」ののかが聞いてくる。


「見た目も中身も最高!」


「わーい。やったね」


 いつもみたいにおどけて見せる、ののか。

 部活が始まっていつものテンションに戻ってきたようでよかった。


「お前ら懲りないよな……」


 いつものようにトウヤに呆れられて、少しだけホッとする。

 レミちゃんもクスクス笑っている。

 いつもの部活動って感じがする。

 僕は話をつづけた。


「実際文字だと、醜くなっていくと書いても、最初に出来上がったイメージはなかなか崩れないから、頭の中でヒロインがいつまでも綺麗だったりするのが物語のいいところかな。映像がないという利点があるよ。それに物語が一人称視点だと主人公の思い出補正がかかるから、どんな状態でもヒロインがかわいいと思えることに違和感がない」


「確かにドラマや映画だと病弱なはずなのに、すごい美人の女優が演じていたりして違和感があるもんな」


「もちろん女優みたさにストーリーは二の次で、見てしまうということもあるから、集客としてはいいんだけどね。物語はそういうのがないから、利点であると同時にハードルの高さでもあるって感じかな」


「逆はどうなんだ?」


「逆ってなに?」


「病弱な男の子」


「あーうん。別にいいとは思うんだけど、あまり需要がないね」


 まるでないわけでもない。読んだことはある。


「なんでだよ」


「守ってあげたいっていう男の子と守ってほしい女の子はおおいけど、守ってほしいって男の子と守ってあげたい女の子は少ない」


「そういわれれればそうだな。でもなんでなんだ」


「本能的に、子供も守んなきゃと思ってるのかな」


「病弱なんだから、お腹に子供はいないだろ」


「いやだから、本能的にだよ。理屈じゃない」


「まあ、そうだよな。理屈でかんがえれば、女の子を病気にした可哀想な話なんか書くなよってことだもんな。本能に訴えるような物語か。なるほどな。大体わかったよ」


「トウヤも物語についてわかるようになってきたじゃないか」


 随分呑み込みが早い。


「まあな。とりあえず、練習だから病気は癌とかでいいか」


 トウヤは僕が言う前に病気まで決めてしまった。

 たしかに癌は三大疾病で、誰でもなる可能性があるし、病状が徐々に進行して辛いことが多い。

 誰でも知っているということは、みんな想像しやすいし、書きやすい。

 本当に最初の頃とくらべると成長したものだ。


「レミちゃんも書けそう?」


「はい。ばっちりです。任せてください」


 ヒロインの女の子をきっちり苦しめてみせますという意思が伝わってきた。

 うん。ちがうよ。そういうことじゃないと僕は目で訴える。

 伝わったかどうかわからぬまま、レミちゃんは書き始めた。

 少しぼんやりしていた、ののかの机の上からシャープペンが落ちる。


「ののか先輩、シャープペン落ちましたよ」


 レミちゃんが、シャープペンを拾って渡そうとしたとき、ののかは体をびくつかせた。


「先輩?」


「あ、ごめんね、レミちゃん、私ちょっと先端恐怖症で」


 そんな話僕も初耳だ。

 それにレミちゃんはちゃんと持ち手側をちゃんとののかに向けていた。


「あ、そうなんですね。すみません……」


 あからさまにしょんぼりしているレミちゃん。

 演技ではなさそうだ。

 多分、レミちゃんも、ののかの嘘に気づいている。

 ののかもわざとそうしたわけではないのだろう。

 無意識だからこそ……。

 ののかはシャープペンを受け取ると、ありがとうも言い忘れたまま、物語を書き始めた。

 距離はいつもと変わらないはずなのに、ほんの少しだけののかとレミちゃんが離れているように感じて。

 それが僕には無性に悲しかった。

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